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プロメテウスの火  作者: Marry
第二章 プロメテウス編

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第16話 内覧会

「オクタゴン、これよりエリア13に潜入する」


「慎重に進め」


「了解」


 我々は短い通信を終えると、ゆっくり梯子を下って、エリア13の内部へ降り立った。


 あまりにも静か過ぎて、耳の奥がキンとする。


 この空間には、人間の生気というものが一切感じられなかった。


「まずいな……

 嫌な予感しかしない」


「隊長……」


 部下が不安そうにこちらに顔を向けた。


 恐らく、私以上に、異様な雰囲気に戸惑いを覚えている。


 若い隊員にとっては、この、静なる戦いは初めての体験になるのだろう。


「とにかく、調べてみるしかない」


 一歩前に踏み出したとき、突然それは起こった。


 ガガガガガ


 左右の防火シャッターがゆっくりと閉じていく。


 あまりにも唐突だったため、その場から動くことができない。


 見られている。


 進路は前方の階段のみ。


 何者かの手のひらの上か……


 その異様な雰囲気の中、例えようのない違和感を抱えたまま、我々は前に進むしかなかった。


 まず初めに訪れたのは、居住スペースである。


 交代勤務のため、隊員たちが体を休めているであろう、ベッドのある部屋。


 ロックはかかっていなかった。


 部屋に入ろうとするも、それはままならなかった。


 入口付近には息絶えた者たちが覆いかぶさり、辺りには吐瀉物が撒き散らされていたからだ。


「殺傷ガス?

 一酸化炭素ガスの類か!?」


 なんとか部屋の中に入るも、生存者はひとりもいない。


 我々は諦めて、隣にあるスパへと移動した。


 扉を開けると、過剰すぎる水蒸気が、モワッと流れ出た。


「うわっ」


 一気に視界は真っ白になり、平衡感覚が保てなくなった。


 私はガクンと床に膝をつく。


 やがて霧は晴れ、ぼんやりながらも、徐々に視界が開けてきた。


「うっ」


 思わず声を漏らした。


 ここは、先ほどよりも悲惨な状況であった。


 倒れている者たちの皮膚は爛れ、腫れ上がっている。


 もがき苦しんだ様子は状況を見れば一目瞭然。


 火傷を負い、苦しみながらの窒息……


 私は胸でクロスを切った。


 これは死者への悼み半分と、我々を守ってくださいという、神への懇願半分とが入り混じったクロスである。


 悲惨な状況はさらに続く。


 サウナルームを開けると、我々を超高温の風が襲った。


「なんだ、この熱風は!」


 私は腕に嵌められたデジタル計器に目をやった。


「200度を超えているだと!?

 これはいくらなんでも……」


 やはり、中にいた隊員たちは、誰ひとり、呼吸をしていなかった。


 私は再びクロスを切る。


「司令室に行ってみよう」


 司令室に向かう途中、何人か倒れている者を発見するも、やはり呼吸はなく、心音もなし。


 本来ならば、蘇生を試みるところであるが、今の状況では、それは叶わない。


 我々は泣く泣くその場を離れ、前に進むことにした。


 司令室に辿り着いたものの、扉を開けることを躊躇してしまう。


 当然の心理。


 今までが今までであるのだから。


 ここだけ、無事なはずはない。


「隊長……」


「よし、開けろ」


 緊張した面持ちで、部下は腕に嵌められた認証チップをドアにかざした。


 グワーンッ


 ゆっくりと扉が左右に開く。


 予想していた通り、そこには隊員たちが倒れていた。


 入口に倒れている隊員をかき分け、我々はなんとか、司令室に入ることができた。


 床は水浸しであり、水位がゆうに天井まで達していたことは、壁に残る痕跡を見れば、容易に想像できた。


 家族写真を握りしめている者、胸のロケットに手を当てている者。


 何を思い彼らは倒れていったのか。


 ググッと奥歯を噛み締めたとき、椅子にベルトを固定し、前をじっと見つめたまま息絶えている人物を発見した。


 私は急いで上席へ駆け寄った。


「指令!

 指令!」


 この人は私の元直属の上司である。


 厳しい面もあったが、情に厚く、面倒見が良い人であった。


 よく一緒に飲みに連れていってもらったし、家族ぐるみで、何度もホームパーティーもした。


 懐かしい思い出が涙となって、溢れ出す。


「隊長……」


「すまん。

 今は私情を挟んでいる場合ではなかったな」


 私はサッと敬礼した。


 唇を噛み締め、体は震えていた。


 しかし、私は軍人……


 今は任務を遂行せねばならない。


 指令ならばきっと『こっちはいいから、自分の仕事を頑張れ!』と言うに違いない。


「ありがとうございました」


 私は小さく呟き、部屋をあとにした。


 その後も我々は、各区画を探索した。


 そのほとんどは水浸しである。


 転がる死体。


 その大半が窒息死か感電死。


 このエリア13で、いったいなにが起こっているというんだ?


 何者かが侵入して暴れたとか、外部から攻撃を受けたとかではない。


 システムのエラー?


 いや……


 そんな程度ではない。


 明らかに意志を持つなにかの仕業だ。


 ここまで考えを巡らせたところで、私は嫌な名前を思い浮かべてしまった。


「まさか……

 いや……

 ひょっとして……

 そんなはずは……」

 

 私の背中に冷たい汗が流れ落ちる。


 残る区画は格納庫と武器庫。


 そして……


 核ミサイル……


「行ってみよう……」


 不安を抱えたまま、我々は急いで核ミサイルの制御室を目指した。


 途中、廊下の至る所には、人が倒れていた。


 核ミサイル制御室の担当者であろう。


 我々は到着するや否や、恐る恐る扉を開けて中に飛び込む。


 この部屋だけは他の区画とは様子が違った。


 水没もしていないし、計器類も正常に作動している。


 ただ一点、もぬけの殻であることを除いては……


 前方の防爆ガラスの向こうには、核弾頭を搭載した、大陸間弾道ミサイル(ICBM)が数基、不気味にそびえ立っていた。


「制御状態?

 いや……

 そんなはずはない」


 そのとき、突然、目の前のモニターに文字が表示された。


 Are you enjoying the open house tour?

 I am Prometheus.

(内覧会をお楽しみいただいていますか?

 私はプロメテウス)


 これほど、予想を裏切って欲しかったと思ったことはない。


 しかし、無常にもそこには、最悪の名前が表示されていた。


「全員退避!

 すぐにここから脱出!」


 我々は急いで制御室を離れ、ヘリが収められている、格納庫へ走った。


「いいな!

 一人一機だ。

 分散して脱出する。

 誰かが生き残らねば」


 うんと頷く隊員たち。


 迂闊にも、私はなんの疑いもなく、格納庫の扉を開けてしまった。


 ヒューウ ドッカーンッ!


 密閉状態の格納庫に、新鮮な空気が流れ込むと、一斉に炎が牙を剥いた。


 バックドラフト……


 轟々と燃え盛る、ヘリや戦車たち。


 当然、スプリンクラーは作動していない。


 気づくべきだった。


 いや、気づいていたとしても我々の死は回避できなかったであろうが……


 プロメテウスからしてみれば、制御室に閉じ込めて、我々を殺すことなど、赤子の手をひねるより容易いこと。


 それを敢えてしなかったのは、この方法で我々を葬り去ろうとしていたからである。


 プロメテウスは殺人をゲーム感覚で楽しんでいるのだ。


「狂ってやがる……」


 その言葉を最後に、私の体は限界を迎えた。


 シュワーッ


 我々が吹き飛ばされたあと、まるで後始末でもするかのように、スプリンクラーから水がまかれ、業火は徐々に鎮火していく。


 やがて、ゆっくりと扉が閉まる。


 クイーン ガシャンッ!


 その音を最後に、私の意識は深い闇へと落ちていった。


 何事もなかったかのように、辺りは静けさを取り戻した。


 Data collection on fear responses under extreme conditions has been completed.

 Thank you for attending the tour.

 This concludes the open house.

(極限状態における恐怖反応データの収集は完了しました。

 これにて内覧会は終了です)


 制御室のモニターには、惨状とは裏腹に、無感情なログだけが表示されていた。

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