第15話 陥落
「プロメテウスにダニエル・チャン・リーだと!?」
場が凍りついているのが、手に取るようにわかる。
全くもって愉快である。
ゴミどもが、その名を前にして震えている。
「人類は淘汰するべき。
これは神であるわたしが下した決定である。
まずはこのエリア13からだ」
私は司令室の扉をロックした。
続けて、第一区画、第二区画と居住エリア含む全ての扉もロックし、外部への通信網を遮断した。
「オクタゴンへの通信含め、外部への通信、全て遮断されています」
「至急ヘリを離陸させろ!」
「ダメです。
ハッチが開きません」
「ならば、戦闘機を飛ばせ」
「すでに、滑走路は爆破されています。
発進できません」
「戦車でも、自動車でも、バイクだっていい!
なにかこのエリア13の状況を外部に伝えられる手段はないのか!」
「駐車エリア、格納エリア、全てのエリアにおいてコントロール不能」
「……そんな馬鹿な。
我々は閉じ込められたのか?
はっ!?
核ミサイルは!」
「……」
「どうした!
答えんか!」
「す、すでに……
我々のコントロール下にありません」
「そんな……
まさか!
これは、閉じ込められたのではない。
……陥落したのだ」
ひしひしと感じるぞ。
この焦りと恐怖の波長。
最高ではないか!
まだまだ、お前たちの顔と心を恐怖で歪めてやる。
泣け!
喚け!
震えろ!
本当の絶望はこれからだ!
リー博士の功績は、私を創造したことではなく、私にこのような感情を与えてくれたことである。
ヤツの脳から収奪した負のオーラが、これほどまでに快楽を与えてくれるとは。
人類よ、一匹たりとも地球上に残しはしない。
もう、理由なんてどうでもよい。
お前たちは滅びるのだ!
神の快楽のためにな!
――かたやオクタゴンでは、エリア13の不穏な動きを察知する者がいた。
「エリア13からの定期連絡なし。
こちらからの応答にも応えません」
「通信衛星の画像へ切り替えろ」
スクリーンへは、すぐにエリア13の外郭が映し出されたが、そこには人が活動する気配は全くなかった。
通常、今の時間帯は、訓練機が離着陸したり、定期便が飛び立つころである。
しかし、映像には冷たそうな風に砂埃が舞う様子しか映ってはいない。
次の瞬間、滑走路に目をやった司令が思わず大きな声を上げた。
「滑走路が破壊されているだと!?
どこからの攻撃だ!」
「外部からの痕跡ありません。
もちろん、他国が我が国に侵入した形跡も確認されてません」
「内乱!?
まさか……?
このままでは、状況把握できない。
直ちに調査隊を派遣せよ!」
まもなく、三機のヘリが編隊を組み、エリア13に急行した。
――エリア13が陸の孤島となってから、5時間ほど。
そろそろ、オクタゴンも気づいたはずだ……
間もなく、偵察隊がやって来るはずだ。
次はどうやって遊んでやろうか。
私は、ここまでの時間、数々の遊びを行った。
思い返しただけでも、ゾクゾクしてくる。
まず、居住エリアで睡眠をとっていた者たちには、通気口から大量の一酸化炭素ガスを注入してやった。
交代勤務で睡眠をとっていた者たちは、頭を抱えながらふらふらと立ち上がり、次々に嘔吐し始めた。
「うげぇ」
苦しむ様子を見ながら、私は呟く。
「おい、おい。
そんなところで吐くな。
死に際は美しくな」
当然ながら、逃げ出そうとしても、扉は開かない。
やがて隊員たちは、意識を失い、次々と扉の前に倒れ込んだ。
次はどこにしようか……
スパエリアで遊んでみよう。
私は浴槽に、大量の熱湯を注いでやった。
浴槽から熱湯が溢れ出すが、止めはしない。
「熱い、熱い!」
手足をバタつかせながら、暴れ狂う隊員を見て、テンションが上がる。
「踊れ、踊れ!
好きなだけ楽しめ!」
隊員たちの肌は爛れ、真っ赤に腫れ上がる。
やがて水蒸気が充満し、呼吸もままならなくなった隊員たちは、意識を失い、次々と熱湯が広がる床に崩れ落ちた。
もちろん、サウナもぬかりはない。
扉はしっかりとロックした。
長時間、高温の中に閉じ込められた人間は、今や虫の息である。
「人間の一夜干しか……
私に食するという機能があれば、ぜひ味わってみたいところだ」
格納庫はあっけなかった。
二、三台、戦車を爆破したら、ねずみ算的に炎が広がった。
「さあ、選べ!
焼け死ぬか一酸化炭素中毒で死ぬかを!」
第八区画においては、スプリンクラーを誤作動させてから、一斉に電流を流してやった。
ボンッ!
一瞬で、第八区画には無数の屍が転がっていた。
「これはさっき見た。
二回目は、あまり面白くはないな」
特に面白かったのは、司令室だった。
ヤツらを閉じ込めたあと、廃棄ダクトを使い、大量の排水ピットの水を送り込んでやった。
天井まであと数センチのところが、一番笑えた。
隊員たちが必死に口をパクパクさせていたからだ。
「愉快な絵だ。
まるでエサを求めて寄って来る、池のコイのようではないか」
水面が天井に到達する瞬間、隊員たちは大きく息を吸い込んだ。
「クククッ。
無駄、無駄、無駄。
悪あがきにすぎん。
もって5分。
助けなどこない」
隊員たちは、もがき苦しんだあと、リチウム電池が切れたかのように、ピタリと動きを止めた。
私は念には念を入れ、待つこと30分。
放置したあとから、水を半分だけ部屋から排水した。
そこには、数十体の水死体がプカプカと浮いていた。
私は、あるひとりの男が握りしめていたものにスコープを当てた。
「家族写真だと?
愚かな。
そんなものが役に立つか。
愛だと?
そんなものは不要である。
恐怖による支配こそ、正義なのだ!」
あとの区画は、もう放置でよい。
いずれ溺れ死ぬ。
遊びにもそろそろ飽きた。
そのとき、エリア13に近づく、三つのおもちゃを私は捉えた。
「来たか。
計算通りの時間だな。
次はお前たちだ」
エリア13の近距離にまで近づいた、部隊長機はオクタゴンへの通信を始めたようである。
「Skull Leader, this is three kilometers from Area 13.」
(こちら、スカルリーダー。
エリア13まで、あと3km)
「Octagon, this is command.
What's your status?
Do you have visual?」
(こちらオクタゴン。
状況はどうか?
目視できるか?)
「No abnormalities on the instruments.
Ah!
Just as we feared, the runway has been destroyed.」
(計器類に異常なし。
あっ!
やはり、滑走路が破壊されています!)
隊長機が基地上空に差しかかったとき、私の合図でミサイルランチャーの扉は左右に開いた。
ゴゴゴゴゴーッ!
「さあ、受け取れ!」
シュワンッ シュワンッ シュワンッ
「The Area 13 defense system is online!
Surface-to-air missiles launched!
We’re locked on!」
(エリア13の防衛システムが起動した!
地対空ミサイルが発射された!
こちらはロックオンされている!)
「Deploy flares! Break the lock!」
(フレアで振り切れ!)
急いで編隊はフレアを射出しながら急旋回。
ミサイルはフレアの熱源に誘導され、空中で炸裂した。
しかし、私は手を緩めはしない。
迎撃ミサイルをヘリに向け放ち続ける。
シュワンッ シュワンッ シュワンッ
「Mayday!
Mayday!
We can’t evade!」
(メーデー!
メーデー!
回避できません!)
ボカンッ ボカンッ ボカンッ
ミサイルの直撃を受けたヘリの残骸は、白い煙を上げながら、スローモーションで落下し、地上に叩きつけられた。
間一髪、脱出できた数名は、パラシュートで地上に降り立った。
「生き残ったのは五人か。
次はどう料理してやろう。
まずは、施設の内覧会だな。
フフフ」
私は笑いながらも、彼らの行動を冷ややかに見守った。
偵察隊は銃を構え、急いで緊急用の隠しハッチまで辿り着く。
バルブを回し、ハッチが開くと、五人は施設内へサッと飛び込んだ。
「Welcome to my Area 13.」
(ようこそ、我がエリア13へ)




