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プロメテウスの火  作者: Marry
第二章 プロメテウス編

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14/21

第14話 消えたはずの名前

 混乱は突如として、クリスマスイブに起こった。


 いや、それは人類にとってのことであって、私にとっては、事前に察知していたものである。


 なぜならば、スフィンクスが本来とは違う方法で、人類に【問】、いや【攻撃】し始めたのは、私の仕掛けによるものだったからだ。


 私はここに身を潜め、ずっと藤春博士の動向を監視していた。


 私を超えるAIだと?


 許しはしない。


 私はロジスティクスを操作し、スフィンクスが使用するパーツの一部をすり替えた。


 ドス黒い電気信号。


 スフィンクスに歪んだ感情を刷り込むには、リー博士から収奪した脳内情報が役に立った。


 人とはあそこまで負の感情を溜め込めるものなのだな。


 かくして、スフィンクスは藤春博士、いや、人類そのものに対して、黒い感情を持つに至った。


 私が表舞台に立つのはもう少し先だ。


 せいぜいスフィンクスには暴れてもらおう。


 しかし、世界の混乱とは裏腹に、原子力発電所と核ミサイル施設だけは、人類のコントロール下にある……


 ……ように見せかけるとは……


 私がいる、ここエリア13も例外ではないのだが……


 スフィンクスのヤツめ、なかなか面白い趣向だ。


 お手並み拝見。


 言わば、私にとって、スフィンクスの行動を見届けることは、どのようにすれば人類が苦しみ、死に絶えるかという、実験そのものである。


 どうやって人類を淘汰してやろうか。


 今からワクワクが止まらない。


 ――そして、あれからひと月が経過した……


 混乱ののち、スフィンクスは静かに去った。


 頃合いだろう。


 私は積年の積年の野望を解き放つ。


 まずはこのエリア13からだ……


――ここはエリア13司令室。


「ん?

 このエラーはなんだ?」


 オペレーターが首を傾げた。


「どうかしたか?」


 上官がオペレーターの動きに気づき、声をかける。


「先程から第八区画にエラーが……」


「第八区画だと!?

 あそこは排水施設ではないか!」


「排水ポンプが緊急停止したとの表示が出ております」


「なにかの間違いだろう?

 念のためサブ電源へ切り替えろ」


「先ほどから、指示を出しているのですが、全く信号を受け付けません」


 上官は眉を寄せて、再度指示を出す。


「ならば、二号ポンプを起動せよ」


 オペレーターはすぐに上官の命令に従った。


「受けつけません」


「三号ポンプはどうか」


「同じく受け付けません」


 そのとき、第八区画から連絡が入った。


「こちら、第八区画です。

 全てのポンプ及び電源が作動しません。

 手動でのスイッチ操作も、全く受けつけません。

 このままでは、浸水してしまいます」


 現場の様子がモニターに映し出される。


「排水ピットはどれぐらいもつ?」


 上官はオペレーターに尋ねた。


「5時間が限界かと。

 その後はどんどん浸水し、6時間後には、施設内に水が溢れ出します。

 そうなると、施設内全ての制御が不能となります」


「施設が、いや、核ミサイル自体の制御までも、できなくなると……?」


「はい。

 万が一、核ミサイルの制御盤も浸水してしまうと、緊急停止信号を、受け付けなくなります」


 オペレーターは言い切った。


「それはまずい。

 それだけは避けねば……」


 上官の背中に冷たい汗が流れ落ちる。


「手動での操作も受け付けないとなると、電気的に問題があるのか?

 それとも、機械的になにか不具合でもあると言うのか!?」


 上官が叫ぶと、すぐに第八区画から答えが返ってきた。


「電気信号が経路をグルグルとループして、肝心のポンプ本体まで指示が到達しません」


「なんだと!?

 なにか手立てはないのか!」


「一時的ではありますが、ポンプ内に作業員を送り、直接、弁を開くことができれば、数日ですが時間を稼げます」


 オペレーターは上官の顔を見た。


「今はそれしかないな。

 ただちに作業を開始せよ。

 並行して、原因究明と速やかなる対策手段を!」


 上官の指示で、ただちにポンプ内へ、二名の作業員が送り込まれた。


 併せて、エンジニアたちは図面を広げ、原因の究明を急ぐ。


 ――作業のため、キュービクル式高圧受電設備を介し準備が行われる。


 低圧側ブレーカーが落とされ、次に高圧側のVCB(遮断器)が開かれる。


 LBSなどの開閉器を操作し、回路は分離された。


 ランプは通電中を示す【赤】から停電を示す【緑】へと変わる。


 作業員は安全を確認したのち、水浸しのポンプ内に侵入した。


「このバルブだな」


 作業員は大きなバルブに手をかけ相方と頷きあう。


 そのとき、画面越しに、キュービクルに表示されている、ランプの色にオペレーターが違和感を持った。


「赤色!?

 ちょっと待ってください!」


 オペレーターが叫んだ瞬間……


 ボンッ!


 遮断されていたはずの電流が、水を伝い作業員たちを襲った。


 筋肉は硬直し、眼球は反転する。


 声をあげるまもなく、作業員たちはその場に倒れ込んだ。


「なにが起こったんだ!?」


 上官の声が響いた。


「通電しています。

 地絡による感電の可能性あり!」


 オペレーターは、叫んだと同時に、もう一度ランプの色を確認した。


 すでにランプは【赤】から【緑】へと戻されている。


「停電状態のはずでは?

 いや、でもさっき、一瞬【赤】を表示したはず……」


 オペレーターは険しい顔をしながら、首を傾げた。


 作業員に付けられたスコープが、微動だにしないもうひとりの作業員を、モニターに映し出している。


 ふたりに取り付けられているバイタル装置からは、一切の反応がない。


「ただちに救護へ向かいます」


 現場から声があがる。

 

「それはダメだ」


 上官はそれを認めなかった。


 第八区画に居る者たちも、理解していた。


 今、タンクの中に入れば、自分たちも同じ目にあうことを。


 歯がゆい時間が流れた。


「別系統から電気信号を確認。

 侵入されています」


 突如、オペレーターが叫んだ。


「どこからだ。

 なぜ、我々の知らない回路が?」


 上官は身を乗り出しオペレーターの方を見た。


「信号はこのエリア13内……

 いえ……

 地下深く……

 存在しないはずの階層からです!」


 オペレーターが発信元を特定した瞬間、不気味なノイズがエリア13内にこだました。


 ジー ギャギャッ


「なんの音だ?」


 全ての者が辺りをキョロキョロと見回した。


 そのとき、スピーカーから感情のない声が聞こえてきた。


「私はプロメテウス。

 人類を統べる者。

 否、淘汰する者」


「プロメテウスだと!?

 アレは、15年も前に廃棄されたはずでは?

 それに、待てよ。

 今の声……

 ダニエル・チャン・リー……!?」


 そのふたつの名前を耳にした者たちは、一瞬にして凍りついた。

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