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Episode 0:降臨、異世界失踪者探索人(イセカイ・チェイサーズ)

【現代・21世紀 日本某所】

寂れたアパートの一室。

PCの画面に映るのは、どこか胡散臭い異世界転移系の広告。

《異世界からあなたを召喚します——“選ばれし者”へ》

【勇者召喚リンクはこちら】

現実に疲れ切った青年・結城ゆうき 悠真ゆうま17歳は、

迷うことなくマウスをクリックする。

瞬間——

白い光が画面から溢れ、彼の全身を包み込む。

真っ白な空間。

そこは神殿のような荘厳さと、どこか非現実的な静けさに包まれていた。

空間の中央に、女神のように美しい存在が浮かぶ。

白銀の髪に金の瞳、清らかな衣をまとい、微笑みを浮かべる彼女は、優しく手を差し伸べていた。

「勇者よ……この世界を救うのは、あなたしかおりません……」

その声は、結城悠真の心をまるで撫でるようだった。

現実での疲れ、孤独、虚無——すべてがその言葉で赦された気がした。

「ぼ、ぼくが……選ばれた……?」

悠真が震える声で問う。

そのときだった。

空間全体が低く唸り、どこかで“裂ける”ような音が響いた。

上空が歪む。

まるで空そのものが破れたように、赤黒い渦が開いた。

そこから——重たい足音とともに、五つの影が現れる。

「対象空間、確認。クリアランスレベルA。実行フェーズへ移行します」

低く、無機質な声が響いた。

現れたのは、黒い戦術スーツに身を包んだ特殊チーム。

光学迷彩がうっすらと外れ、ヘルメットのバイザーが淡く光る。

未来的な装備に身を固めた彼らは、まるで軍ではなく、何か別の“秩序”の執行者だった。

その中央で、年配の男が一歩、前に出た。

「コードD-ZEROへ告ぐ」

彼は静かに告げる。

低く、よどみない声だった。

「異世界転移法第89条、不法転移誘導および仮想空間洗脳未遂の罪により、現行犯で拘束する」

「な……なぜ……あなたたちが……!」

女神の顔が歪む。

今まで一切乱れることのなかったその表情が、明らかな狼狽に染まる。

「この空間は……閉じたはず……!」

「甘いですね」

後方で眼鏡をかけた男が、フレームを指先で押し上げながらつぶやいた。

「“閉じた空間”ほど、観測しやすいんですよ」

その声とともに、小型デバイスを操作する若い技術員が報告する。

「仮想層のバックドア確認。ログも回収完了。完全に証拠揃ってます、ボス」

「よし、固定を続けろ」

年配の男——コードネーム《イヌイ》が頷く。

前方では、もう一人の隊員が動く。

肩に担いだ巨大な剣を静かに持ち直し、無表情のまま女神に近づいていく。

「さあ、おとなしく手を挙げて」

その女戦士は低く言った。

「“勇者ごっこ”は、ここで終わりよ」

女神の姿が揺らぐ。

白く輝いていたその衣は粒子に変わり、ノイズを帯びて崩れていく。

そのとき——空間に人工音声が流れる。

「注意:対象はエネルギー体。物理制圧では無力化不可。精神干渉モードに移行します」

イヌイが、バッと手を上げる。

「チーム、《探索人》——拘束開始!」

一斉に展開する隊員たち。

光の手錠、封印フィールド、情報遮断ドーム。

現代科学と魔法の境界が消えたような装備が、女神を静かに、確実に包囲していく。

悠真は、呆然とその光景を見つめていた。

目の前で“異世界”が崩れていく。

まるで夢の幕が静かに下ろされていくかのように——

「……これが、異世界の……真実?」

誰にともなくつぶやいたその言葉に、イヌイが振り返り、静かに頷く。

「ああ。ようこそ、現実へ」

「ここからが、君の選択だ」

白い空間が砕け、光とともに結城悠真が倒れ込む。

目を覚ました時、そこは白と銀を基調とした、未来的な空間だった。

周囲には巨大なホロスクリーンと機材、隊員たちが忙しなく動いている。

悠真(呆然)「……ここ、どこ……?」

ソフィア(音声)「ようこそ、保護ステーション“シェルター017”へ。

あなたは現在、《異世界転移者探索人》の監視下にあります」

悠真「……え、あれは……夢じゃなかったのか……?」

乾が現れ、淡々と告げる。

乾「現実だ。お前は“未遂”だったが、立派に誘拐の対象として選ばれていた」


悠真は取り調べという形で、隊員たちに囲まれる。

机を挟んで向かいに座るのは、交渉担当の芦屋千歳。

芦屋「ねえ、どうして異世界に行きたいと思ったの?

何かから逃げたかった? それとも、何かを変えたかった?」

悠真「……全部。学校も、家も、クソみたいだったから……。もし本当に異世界があるなら、そっちで生きてみたかった。それだけです」

彼の言葉に、誰も責めるような態度は取らない。

芦屋は優しく微笑み、ただ一言こう言う。

芦屋「その気持ちは、理解できるよ。でも、誰かに“選ばれた”って言葉を簡単に信じちゃだめ」


ルナが悠真を案内しながら、チームの活動をざっくり説明する。

ルナ「私たちは、こうして“異世界転移犯罪”を阻止してる。

奴らは君みたいな“孤独”や“絶望”につけ込んでくる」

悠真「……ルナさんも、もしかして……」

ルナ「私? 一度は行っちゃったわよ、本物の異世界に。

“勇者”としてね。——でもその先で何があったか、知りたい?」

悠真(小さくうなずく)

ルナ「……地獄よ。笑顔で“殺し合え”って言われたわ」

夜。施設の外。静かに星を見上げる悠真。

乾が現れ、横に立つ。

乾「明日には、記憶処理をして元の生活に戻す。

もう“異世界”なんて言葉とは無縁の人生を送れる」

悠真「……でも、俺、あれを見ちゃいましたよ。

本当に、連れてかれる人がいるって……」

乾「見たからって、背負わなくていい。お前にはまだ選択肢がある」

悠真「……もし……もしまた誰かが“行こうとしてる”のを見たら、

俺は止められると思いますか?」

乾はしばらく黙っていたが、やがて静かに笑った。

乾「そう言った奴が一人いてな。

そいつも最初はただのガキだったが、今じゃチームの主力だ」

悠真「……まさか……」

乾「さあな。——だが、“帰るか”“関わるか”は、お前が決めろ」

夜空を見上げる悠真の横顔に、一瞬、かつての誰かの面影を見た気がした。

「……帰るか、関わるか、か」

悠真は小さくうなずいた。

「俺、変わりたい。現実を……見なかったことにはしたくないです」

乾は短く笑い、ポケットから薄いカードを取り出す。

「じゃあこれは“万が一”のとき用だ。お前が選んだとき、また会おう」

カードにはこう記されていた。


《ISEKAI CHASERS|探索人 管理局》

仮登録コード:Y-017-TRAINEE


翌朝、悠真は保護ステーションを後にし、元の世界へと戻された。

けれど彼の中には、もう“昨日までの自分”はいなかった。

そして数日後——

とある地方都市の地下鉄駅。

スマホに映る新たな広告。

《異世界で人生を変えよう! 限定召喚キャンペーン中!》

【▶今すぐ参加する】

画面の前に立ち止まる、一人の女子中学生。

疲れたような目で、画面に手を伸ばしかける——

「——ちょっと待って」

その手を、少年がそっと制した。

彼女が振り返ると、制服姿の青年がそこにいた。

結城悠真。

彼は静かに笑って言った。

「そこ、行き止まりかもしれないよ」

街のざわめきの中、どこかで新たな“転移”が始まろうとしている。



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