保健室の妖精()
結局教室に戻ったのは三限が始まると同時。アークたちがかなり心配してくれてて、色々経緯を説明したら安心したように笑ってくれた。優しいなぁこいつら。最高だな……とか思ってたらまだ保健室に行ってないことがバレてエリにめちゃくちゃ怒られました。もはや保健室行くこととか忘れてたよね。
三限はスティオール先生の文法学のはずだったのに、俺が保健室行ってない件をエリにチクられたせいで無理やり行かされることになった。付き添いはアーク。別に逃げるつもり無いのに左の二の腕をギリギリと掴まれてる。恐い。
「ひとまずお咎め無しで良かったな、フィア。まあ当然と言えば当然だが」
「そうでもねえよ。でしゃばりすぎた」
「お前だけ帰りが遅かったな」
「ああ、学園長室の掃除を……」
「何を話したんだ?」
こっちにもお見通しですか。俺の周りは凄い人がいっぱいだ。保健室に向かう道のりでアルネル学園長との会話を説明し、アークは腕を組む。
「成る程。でも難しいかもしれないな。アーサーはブラコンで有名だ」
「え、そうなの!?」
初耳なんだけど!! あり得ないだろ!! あの糞教師、長所を見つけることの方が難しいぞ!! 一体どうしたらブラコンになれるんだ!!
「俺は知らないが、巣燕ではよく弟の話を自慢げにしているらしい。フィアは聞いたこと無いのか?」
「俺は……無いな」
「まあ心配するな。いざとなったらエルラドをこっそり殺」
「あー! あー! あー!」
すっげー分かりにくいけど、アークは今も凄く機嫌が悪いらしい。俺のことを思ってのことだろうから嬉しいんだけど、やっぱりめっちゃ恐かった。
話しているうちにいつの間にか一階の保健室へと辿り着く。それは俺の想像通り真っ白の扉。『保健室』の真っ白なプレート。扉を超えて僅かに鼻をかすめる消毒液の香り。そう、そこは俺の憧れの場所。学生の特権。
「保健室に来たどー!!」
「ど、どうしたフィア」
思わず叫んだらアークにドン引きされた。しかし気にしない。俺の研究が正しければこの先には、巨乳でおしとやかな美人保健医が……
「くぉおおろすぞ糞ガキいいいい!!!! 保健室ではお静かにだろうがぁあああ!!!!」
ヤクザがいました。
「サドさん、怪我人だ」
「なにぃぃいいい!? てめえ早く言えやアリスターク!!!! 殺すぞ!!!!」
真っ黒のサングラスをかけ、眉毛を全剃りし、顔中にいくつも縫い傷を作った小太りの男。そしてでかい。恐い。これヤクザだよね? 俺ヤクザとか見たこと無いけどこれ絶対ヤクザだよね。
「あ、あの、やっぱ大丈夫かも。俺なんか治っちゃったみたい……」
「ああ゛ん!? 怪我舐めてんじゃねえぞ無知が!! バイキンのヤバさを知らねえのか!!」
「すいやせんしたあ!!」
「よおっし物分かりの良いガキだ。傷を見てやろう。俺が全部ぶっ殺してやる」
「何を!? バイキンだよね!? バイキンのことだよね!?」
何故か頭をわし掴みにされて保健室へ引きずり込まれる。アークはいつものことといった風に無表情で後を着いてきた。
ああああドア閉めないで! 逃げられなくなるから開けといて!
「アリスタークが連れてきたってことは結構な傷なんだろう。さっさと見せてみろ。場合によっては病院送りにしなきゃいけなくなるかもしれねえ」
それはアレですよね? 病院でちゃんとした治療を的な意味ですよね。決してやんちゃな方の意味じゃないですよね。
ガクブルしながら袖をめくる。現れた俺の腕を見てヤクザの眉間のシワが見る見る深くなっていった。
「ぬぁあんじゃこりゃああ!!!!」
「ひいいい!」
「てめえどういうことだ!! 誰にやられた!!」
「サドさん。エルラドだ」
「エルラドだと!? あンのクソ野郎が!! よーし今すぐ連れて来い!! ぶっ殺してやる!!」
「奇遇だな。俺も同じことを思っていたところだ。喜んで共犯に……」
「いやいやいや!!」
決死の覚悟で二人の間に割って入る。あ、寿命縮んだなこれ。
間に立って左手でアークの肩を掴み、右手でヤクザの胸板を押してなんとか抑える。でも思ったよりヤクザの勢いが強く、傷に響いて顔を歪めたら、我に返ってちょんちょん消毒コットンを当て始めてくれた。
「てめえ、よく平然としてられたなあ。いい根性だ!! 俺の舎弟に欲しいぜ!!」
「そ、そうですか。それはそれは……」
「応急処置はしといてやるが、これは魔法だけじゃ治しきれねえな。病院行きだ」
この人いちいち台詞が恐いよ! でも優しい! 消毒のコットンを当てる手つきが優しい!
それから少し雑談してようやく自己紹介をした。アークが呼んでたからなんとなく分かってたけど、ヤクザの名前はサド先生。みんなサドさんて呼んでるらしい。サドとか、あだ名じゃなくて本名だったんだね。名は体を表すってやつかな。
サドさんはそれから治癒の中級魔法を当ててくれた。治癒って実は物凄く難しい。どのくらい難しいかっていうと授業で一切扱わないくらい。
難しすぎて授業に組み込む意味が無いんだ。そんなんじゃ覚えられるわけが無いから。治癒を学びたいやつ用に、それ専門の学校が別にあるし。
そもそも魔法の種類が違いすぎるんだよね。GランクだろうがXランクだろうが使えないもんは使えない。治癒を覚えるなら学校に行って、治癒学に関して全てを捧ぐような勢いで覚えないと。そんでそれだけやっても万能じゃないのが難しいところだ。治癒魔法には"どの程度の傷までを治せるか"っていうレベルが振り分けられてるんだけど、一生を懸けても切り傷を塞ぐくらいしか出来ない人もいる。
それでもみんな選ぶんだ。基礎学校を卒業してから治癒魔法系に進むか、他の全般魔法系に進むか。つまり治癒魔法使うやつは他の魔法を最低レベルしか使えないし、他の魔法使うやつは治癒魔法使えない。
例外もいるけどな。マリムとか。あいつ治癒使えるうえに攻撃・防御もオールマイティーで使える万能マンだしね。
あとはそうだな。俺とか俺とか俺とか、あと俺なんかは治癒も使えるな!! まぁマスターだからね!! ちょちょいのちょいですよ!! バレちゃうから学園で受けた傷は一切治せないけどもね!! とんだ宝の持ち腐れ!!
「おし、こんなもんだな。どうだ? 少しはマシになっただろ? なったよなァ?」
眉間に皺寄せながら顔近づけてくんのこっわ。あっ、でもぼっこり膨れ上がっていたミミズ腫れは引いたし、痣だけになってる。ぶつかったりするとまだ痛いけど、さっきより全然痛くない。なんか知らないけどチョコレートも貰えた。サドさん優しいな。ギャップ萌えだな。
「よかったなフィア」
「おう! ありがとな!」
サドさんに挨拶して保健室を出る。と同時に鳴り響く授業終了のチャイム。しまった……間に合わなかった。サドさんと話しこみすぎた。ほんともう俺は今日何をしに学園に来たんだ。




