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金色の瞳  作者: 七篠 月
第二章 鬼導隊編
33/39

鬼とハラハラドキドキ七不思議!


沙紀さきは目を開けると、建物の屋上にいた。

 目の前には、屋上のギリギリの所に少年が立っていた。

 沙紀の周りには小学生がいっぱいいる。

 ただの小学生ではない、沙紀の当時のクラスメイトたちだ。

 沙紀も自分の手を見ると、今よりも明らかに小さい。

 屋上の少年は、泣き叫んでいる。

 クラスメイトたちも何か言っているが、少年には届かない。

(騒がしいのは分かるのに、皆が何を言っているのか聞き取れない。)

 沙紀が困惑している間に、少年の体は、空に飛んだ。

 沙紀は走って、彼の体を掴んで、思いっきり屋上の方へ投げた。

 ただその後、空中に放り出されていたのは沙紀の方だった。

 恐怖しか感じない浮遊感。

 その割に、瞳いっぱいに映る空だけは綺麗だった。


「!!」

 沙紀は、ばっと目を覚ました。

 体は冷や汗だらけだ。

(昨日、学校に行ったから、あんな夢を見たのかな…。)

 そんなことを思いながら、体を起こすと体が痛い。

 机に突っ伏して、昼寝していたせいだ。

 こんな所で寝てしまった自分を恨めしく思いながら、窓の方を見ると、まだ明るいが、着実に日は傾き始めていた。



 完全に日が落ちたころ、沙紀たちは賢常けんじょう高校にきていた。

「やあやあ、よく来てくれたね。」

 今日は政虎まさとらが沙紀たちを出迎えた。

 いつもの胡散臭い笑みが、懐中電灯の明かりで照らし出されている。

「なんだよ、今日はお前が案内するのか。」

 あからさまに嫌そうな顔をして栄輝えいきは言った。

「そうそう。本当は、僕も穏便に済ませようと君らに会うつもりはなかったんだよ。それなのに、会っちゃったものだから、田中にも君らとの関係を聞かれて、僕が多少おいたしたこともバレちゃってさ。」

 お痛とは、沙紀に刀を突き付けて脅したことだろう。

「あいつ、結構、真面目だから怒られちゃって、今日の案内役はこの僕がすることになったんだ。そういうわけだから、いたわってくれると嬉しいな。」

 政虎はそう言ったが、怒られた割には、全然堪えていないようで、いたわる必要はなさそうだった。

「自業自得だな。」

 栄輝はそう吐き捨てた。

「世間話はそれぐらいで、昨日の続きを。」

高貴こうきは、栄輝のように嫌悪感を示さず、冷静に言った。

「じゃ、始めようか。はい、まずこれ。」

 政虎は、そう言うと、すぐそばにあった像に手を触れた。

「ああ、二宮金治郎ですね。『校庭を走る』とかですか?」

 沙紀は、怪談の定番だなと思いながら、像を眺めた。

「違う、違う。」

 政虎は、不思議そうに否定した。

「じゃ、何するんですか?」

 沙紀がそうきくと、政虎は首を振った。

「『走る』という七不思議には間違いないんだけど、彼は二宮金治郎じゃない。彼は『三宮さんのみや金十郎きんじゅうろう』だよ。」

「へ?」

 聞いたこともない名前に沙紀は、素っ頓狂な声を出していた。

「知らないのかい?彼は、勉学に励んできんを牛耳る大物になった人物じゃないか。」

 至極当然そうに言うが、沙紀は聞いたこともなかった。

 納得いかない沙紀に、栄輝が話しかけた。

「おい、沙紀、見てみろ。背中に金みたいの背負ってるぜ。」

 栄輝にそう言われて見てみると、二宮金治郎像でいう薪木の部分に、金の延べ棒らしいものがある。それも、ちゃんと金色に光っているのだ。

「ホントだ。色までちゃんと付けてあるし。」

 沙紀は感嘆の声をあげながら、手で触れてみた。

 ツルツルしていて、よくできている印象を沙紀は受けた。

 政虎はそんな沙紀を見ながら呆れたように呟いた。

「金『みたい』じゃなくて、本当に金なんだけどなー。」

「!!!」

 沙紀は瞬時に手を離した。

 どうしていいか分からず、金の延べ棒と政虎の顔を交互に見た。

 政虎に冗談だと言ってほしい気持ちになったが、政虎はいっこうに言ってはくれない。

「そんなに見つめられても、本物は本物だよ。」

 その言葉に、沙紀はうなだれた。

 その様子が面白かったのか、政虎は笑い出した。

「大丈夫、大丈夫。素手で触ったぐらいで弁償とか言わないよ。そんなに大事にしてたら、こんなところに置かないでしょ?」

 そう、笑いながら言った。

 言われてみれば確かにそうだが、沙紀はほっと肩をなでおろした。

「盗まれたりしないのか?」

 高貴は疑問に思ったことを政虎に投げかけた。

「こんなはした(・・・)金に手を出す生徒はいないよ。」

 政虎は、そう呆れながら言った。

 しかし、少しの大きさでも高額な金がこのサイズで安いはずがない。

 沙紀は、金銭感覚の違いに絶句するしかなかった。

「でも、走りそうにないな。」

 金額に興味がないのか、栄輝は能天気そうにそう言った。

確かに栄輝の言う通り走りそうにない。

「というか、こんなの走ったら、地面に足跡残るんじゃないか?」

 続いて高貴も、もっともなことを言う。

 もちろん、この辺りにそんな怪しげな足跡は残っていない。

 しかし、政虎はやれやれとため息をついた。

「七不思議にそんな無粋なことを言っちゃだめだろ?」

 その姿を見て、沙紀は政虎と会ったあの日のことを思い出した。

明智あけちさんは、こういうオカルトが好きなんですか?あの日も大学生に交じって肝試しに行ってましたよね。」

 興味本位で沙紀はそう言った。

「嫌いじゃないけど…、あれは君たち鬼と接触を取るためにやってたことだから。」

 政虎はどうやら、六十年前のことについて知るために、地道に肝試しに参加していたらしい。

 そこまでして知りたいこととは何なのだろうと沙紀は、政虎にされたことなど忘れて、気になってしまっていた。

 考え込む沙紀に、ぐっと政虎の顔が近づいた。

「でも、最近じゃあ、君たち『鬼』についても興味がわいてきたかな?」

 沙紀が顔の近さに驚いていると、沙紀の腕がぐっとひかれて、政虎との距離が開いた。

「ここに、邪はいないようだから、次の七不思議に案内してくれるか?」

 高貴は少し低めの声を出しながら、そう言った。

「おっと、そうだね。どんどん行こうか。」

 政虎は特に気にする様子もなく、案内を始めた。

 沙紀は捕まれた手にドキドキしていたが、高貴はすぐにその手を離した。

「油断しちゃだめだよ、沙紀。」

 高貴はそう軽く諫めると、政虎に続いた。

 この油断が初任務の時のような失敗につながっちゃうんだと沙紀は、高貴とのふれあいにときめいていた自分が恥ずかしくなった。


 沙紀たちは、政虎は先頭に渡り廊下を歩いていると、校舎とは違う建物にたどり着いた。

 政虎が大きな扉を開けると、体育館だった。

「これが次の七不思議。ここの調査のために今日は部活が終わった時間に来てもらったんだ。」

 政虎はそう言うと、無人で真っ暗な体育館に入った。

「体育館といえば、バスケットボールが勝手にはねてるとかですか?」

 沙紀が今度こそ定番だろうと、政虎に言うと、政虎は首を振った。

「不正解。『首無し貴族が蹴鞠をしている』だよ。」

「き、貴族!?」

 予想していなかった方面からの答えに沙紀は驚くしかなかった。

「ま、我が校には、やんごとなき魂を引き付けるものがあるんだろうね。」

 政虎は恥ずかし気もなく、そんなことを言い始めた。

 沙紀がそれに対して苦笑いしていると、栄輝も能天気な声をあげる。

「それにしても、さすがに首無しは気持ち悪いな。」

「そんなこと言ってないで、気配がないか、ちゃんと調べよう。」

 談笑していた沙紀たちに高貴がそういうと、沙紀たちは体育館を歩きながら、邪の気配を探し出した。

 沙紀は感覚を研ぎ澄ました。

 パンパンパン!!!

 感覚を研ぎ澄ましたところで、静かな体育館に大きな音がして、沙紀は跳ね上がった。

 慌てて音がした方を向くと、そこにはバスケットボールがころころと転がっていた。

 確かに、音はバスケットボールが跳ねたような音だった。

(これって、定番の七不思議!)

 そう思った沙紀の瞳に映ったのは、ニヤリと笑う政虎だった。

 すべてを察した沙紀に、政虎は口を開いた。

「びっくりした?」

 驚いたことに沙紀は恥ずかしくなって、顔の温度が上昇した。

「高貴…、コイツをたたっ斬っちゃだめか?」

 栄輝が低い声で刀の柄に手をかけていた。

「だめに決まってるだろ。せめて、調査のあとにしろ。報告書が書けないから。」

 高貴も怒っているのか、否定しているようで容認しているような発言をしていた。

「ごめんごめん。あまりに何も起きないからさー。」

 政虎は、みんなが怒っているのが分かったのか、慌てて謝った。

「ささ、次行こう。次!」

 そういうと、ボールの始末もそこそこに、政虎は体育館を出ていった。



 校舎に戻ってしばらく歩いていると、政虎がいきなり止まった。

「さ、ここが次の七不思議。」

 そこは、女子トイレの入り口だった。

 そして、沙紀はひらめいた。

 これは、ド定番中のド定番だと。

「今度こそ、三番目の花子さんですね!」

「…。」

 沙紀の言葉に政虎は返事をせず、沙紀を見た。

 いかにも、それは不正解だというように。

 そして、政虎は口を開いた。

「三番目というところは正解だけど、名前が違うね。」

「え?」

 沙紀は他に違う名前があっただろうかと、昔にありそうな日本人名を考えてみた。

(うーん、『子』はつきそうだよね。)

 沙紀が他の答えを出せずにいると、政虎は何の迷いもなく、女子トイレのドアを開けた。

 その様子に、栄輝は女子トイレから顔を背けている。

 そんなことはお構いなしに、政虎は女子トイレに入りながら、話し始めた。

 こんな時間のため、女子トイレには、もちろん誰もいなかった。

「三番目にいるのは…。」

 政虎はそう言いながら、三番目の扉に手をかけて、バッと開いた。

「『ハンナさん』だよ。」

 しかし、開け放たれたトイレには誰もいなかった。

 そこには洋式トイレがあるばかりだ。

「ここに、邪はいなさそうですねって、なんで外国人!?」

 驚きのあまり、沙紀はそうツッコミをいれていた。

 しかし、政虎は全く動揺していない。

「それは留学生だからだよ。なんでも、当時はここも和式トイレで、ハンナさんが見たこともない和式トイレに困惑したまま死んじゃった(死因不明)んだって。」

「なんだよ、その(死因不明)って。」

 女子トイレの外で、栄輝は政虎の説明にツッコミを入れる。

「君もそういう所を気にするなんて無粋だねー。」

 政虎は、またそう言って誤魔化した。

 そんな他愛のない話をしている最中も、高貴は冷静にトイレを見て、邪を探しているようだった。

 その姿に、沙紀は『油断しちゃだめだ』と、高貴に言われたことを思い出して、身を引き締めた。


 結局のところ、女子トイレに邪はいなかった。

「さ、じゃあ、最後の七不思議と行こうか。」

 政虎はそう言うと、どんどんと階段を上った。

 沙紀は小刻みよく上る姿に少し嫌な予感がした。

「あの、最後の七不思議の場所って、もしかして…。」

 政虎は顔だけ振り返り、口を開いた。

「屋上だよ。」

 沙紀はその言葉に、言いようのない不安を感じていた。




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