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金色の瞳  作者: 七篠 月
第二章 鬼導隊編
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屋上にいたモノ

金色の瞳31


 沙紀さきたちは、最後の七不思議の舞台となる屋上につながる扉の前にきていた。

 沙紀は言いようのない不安に身を固くしていた。

一方、政虎まさとらは、愉快そうに話す。

「屋上に行く前に言っておくけど、最後の七不思議は『初代校長の盛大な笑い声が屋上に響く』ってやつだから、耳をすませておいてね。」

 政虎はそう言って、口の前に人差し指を立てた。

「いやいや、『盛大』ならよく聞こえるだろ。」

 栄輝えいきがそう言うと、政虎はむっとした顔をした。

「本当に盛大かは分からないじゃないか。」

「あー、どーでもいいから、さっさと行くぞ。」

 栄輝は業を煮やして、屋上のドアノブに手をかけた。

「おいおい、屋上は鍵がかかってるから、コレがないと…。」

 政虎はそう言って鍵を出した。

 沙紀の学校もそうだったが、屋上というのは安全面からか立ち入り禁止になっていることが多い。

 しかし、栄輝が手をかけたドアノブは回り、栄輝の体は力なく屋上の方へ傾いた。

 確かに少し開いたすき間から、外の暗闇が見えた。

「なんだ、開いてるじゃないか。」

 高貴こうきが、勿体ぶって喋っていた政虎を非難するように冷たく言った。

 政虎の方は、珍しく驚いていた。

「鍵は一本しかないのに、なんで開いてるんだ?」

 その言葉に沙紀たちにも、緊張が走った。

 そんな芸当ができるのは、邪かもしれない。

 すぐに口を開いたのは高貴だった。

「誰かいる。」

 その言葉に、沙紀や栄輝も気配を感じ取っていた。

「え?誰かいるの?」

 政虎だけは気づいていないようだった。

 一方で、沙紀たちは臨戦態勢に入った。

 栄輝が、沙紀たちに目配せすると、勢いよくドアを開けた。

 視界が開けた屋上には暗闇が広がり、そこにはただ一人立っていた。

 しかし、こちらに背を向けていて、制服姿から学生だということしかわからない。

 その正体に一番早く気づいたのは、政虎だった。

「なんだ、君も来ていたのか。」

 そう言うと、駆け寄っていく。

 それに反応したのか、その人物は少しだけ振り返った。

 眼鏡をかけているのが見えて、それは沙紀たちが昨日出会ったばかりの田中だった。

 そのことが分かり、沙紀たちも少し気を緩めていた。

「あんなに嫌がっていたのに、どういう風の吹き回しなんだ?」

 政虎が話しかけるが、どうも田中は黙ったまま、政虎を見ていた。

 その姿に、いや、田中の瞳に見える闇に、ゾクリとした。

 沙紀は、その疑いが確信に変わる前に、叫んでいた。

「離れて!!」

「?」

 沙紀の叫び声に政虎は沙紀の方を見ようとしたが、首を絞められていた。

「ぐっ!!」

 息苦しい声をあげながら、首を絞めている田中を政虎は見た。

 田中は別人のように攻撃的で、その瞳に政虎は映っていないようだった。

 沙紀は誰よりも速く、田中と距離を詰めると、すぐさまふだを田中に貼り付けた。

 貼るとすぐに田中はバタッと倒れ、政虎も解放された。

 政虎の意識はあり、苦し気にゲホゲホとせき込む。

 一方、田中は気絶しており、その体の中からは、黒い霧があふれ出す。

 その姿は間違いなく、邪だ。

「まさか、アイツの体にじゃがいたなんてな。」

 一部始終を見ていた栄輝はそう言って刀を抜く。

 邪は細かい霧から、形が整えられていく。

 そして、気味の悪い声が響く。

『チッ。コウナレバ、オマエラヲ、クッテヤル。』

「やれるもんなら、やってみなってな。」

 栄輝はニヤリと笑うと、刀を構える。

 それに対し、邪は鎌のような形を作って、栄輝の刀を受け止める。

「ヒュー。やるねえ。」

 栄輝は焦るどころか、手ごたえのある邪で楽しそうだ。

 沙紀は倒れた二人に声をかける。

「大丈夫ですか!?」

 田中は気絶していて、政虎の方は、息苦しそうだがどうにか大丈夫なようだ。

「大…丈夫。ところで、邪…いるのか?」

「はい、田中さんの体に潜んでいたみたいです。」

 沙紀がそう答えるが、政虎は栄輝の方を見て戸惑っていた。

「俺には、彼が剣舞をしているようにしか見えないな。」

 政虎の視線の先には、邪と戦っている栄輝がいたが、邪が見えない政虎には栄輝しか見えないので、かなり変な景色を見ているのだろう。

 沙紀は苦笑いするしかなかった。

 そんな沙紀の耳に、ブツブツと声がした、

 どうやら田中の口から出ているようだ。


「一体だけなら、俺だけで十分だ。高貴、手を出すなよ!!」

「出さねえよ。」

 邪と嬉しそうに戯れる栄輝は、いきいきと戦っていた。

『イッタイ?ドウダロウナ?』

「は?」

 栄輝が邪の言葉に怪訝そうに声をあげると、目の前にいる邪が、二つに分かれた。

 二体が一斉に栄輝を攻撃しようとする。

「ちっ。」

 栄輝は舌打ちすると、すぐさま高貴が加勢に入った。

「さっさとしないから、こうなるんだぞ。」

「うるせえな。」

 

「田中、何言ってるんだ?」

 政虎が声をかけるが、それには答えず、田中は虚ろな瞳でただ独り言を言い続けている。

 それも小さな声でなかなか聞き取れない。

 沙紀は耳の神経を集中させると、なぜかそれだけで言葉がはっきりと聞き取れた。

『なんで僕だけ見えるんだ。見たくない、あんなのと関わりたくない。なんで、僕だけこんな思いをしなきゃいけないんだ。』

「僕だけ見える?」

 沙紀は田中の言葉の一部をそうつぶやいた。

「ん?君は聞こえたのか?僕には何と言っているのか聞こえないが…。」

 政虎がそう不思議そうに言うが、今は言葉の意味を考えるのが優先だった。

「この状況で『僕だけが見える』っていうのは、邪のことかな。」

 政虎が冷静に分析すると、沙紀は驚いていた。

 鬼が邪を見ることができるのは当然だが、人間にとってはそうではない。

 邪が見える人間はごく少数だ。


「おい、高貴。一体どうなってんだ、これは。斬っても斬っても、きりがねえぞ。」

 栄輝は少しを息をあげていた。

 栄輝の言う通り、邪を確かに斬って討伐するが、その直前に邪は分裂し、何度斬っても二体の状態を維持している。

 高貴は涼しげな顔をしていたが、この状況をよくは思っていなかった。

 高貴の感覚でもわかっていたが、どんどんと邪の力は増していた。

 



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