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金色の瞳  作者: 七篠 月
第二章 鬼導隊編
32/39

鬼と七不思議、そして再会


「着きました。ここが、七不思議の一つです。」

 田中が立ち止まったそこは、とある部屋の前だった。

 部屋の表示を見上げると、『歴史資料室』と書いてある。

 沙紀さきは、日本史や世界史の資料室なのかと想像していると、田中は扉を開けて、沙紀たちを招いた。

 その部屋には、本棚や賢常高校のジオラマ、上の方には見覚えのあるような無いようなオジサンたちの肖像画や写真がたくさん飾られていた。

「この部屋は、我が校の歴史に関係する資料を保管する部屋です。」

 田中の説明で、この部屋に置いてある物に納得がいった沙紀だったが、上の方の肖像画や写真のオジサンたちをどうしても思い出せない。

「あの写真は何ですか?」

 沙紀が田中に問いかけると、無表情のまま、上を見て答えた。

「あの方たちは、我が校が輩出した総理大臣です。」

 そう言われて、沙紀は歴史の教科書で見ていたのだと思い出した。

「ああ、なるほど。」

 沙紀が納得したところで、高貴こうきが田中に声をかけた。

「それで、ここにはどんな七不思議があるんですか?」

 田中は、沙紀が質問した総理大臣たちの顔を指差した。

「あの肖像画や写真の顔が動くというものです。」

「え、それって、ベートーヴェンとかバッハのやつじゃないですか?」

 沙紀は、自分が知っている七不思議と違うことに驚き、思わず質問した。

「我が校で知られている七不思議は、一般的なものとは違います。」

 田中は、あくまでも冷静に説明した。

 高貴もそれに続いた。

「意外と七不思議といっても、その学校学校で違うものなんだよ。」

 そういうものかと沙紀は思いながら、肖像画や写真をじっと見つめてみるも、何も動きやしない。

 そもそも、じゃ特有の気配というものがしない。

 沙紀は高貴や栄輝えいきを見るが、二人とも何も感じていないようだ。

「ここには、邪はいませんね。」

 高貴が代表して、そう言うと、田中は安堵することもなく、ただ無表情だった。

「そうですか。それでは次に行きましょう。」

 あまりに淡白な反応に沙紀は少し違和感があったが、そのままついていった。



 田中に案内されるまま歩いていると、楽器の音が聞こえ始めた。

 到着したのは予想通り音楽室だった。

 放課後に吹奏楽部が練習していたようだが、沙紀たちの出現で楽器の音はやんだ。

 例によって、女子部員のほとんどが、高貴と栄輝に熱い視線を向けている。

 部長らしき凛とした女子部員が田中に近寄ってきた。

「生徒会の田中君だよね、どうかした?」

「練習中、すみません。あの琴を見せてもらえませんか。」

「あれを?今?」

 女子部員は明らかに嫌な顔をしていた。

 しかし、田中は困った様子も見せず、淡々と言った。

「生徒会長の指示です。よろしくお願いします。」

 その言葉を聞いて、女子部員はため息をついた。

「彼が言うなら仕方ないわね。みんな、自主練していて。」

 彼女の言葉に、惚けていた女子部員たちは我に返って、はい!と元気よく返事をした。

 その一方で、あんなに嫌そうにしていたのに、ここまであっさりと快諾させる生徒会長とはどんな人物なのだろうかと沙紀は思った。

「それじゃあ、こちらへ。」

 女子部員は音楽室の奥の扉を開いた。

 そこには、大きな部屋があり、数多くの楽器があった。

 沙紀は楽器には詳しくなかったが、綺麗に整頓され、キラキラと輝いている楽器たちの姿は壮観で、言葉を失っていた。

 そして、そうこうしているうちに、女子部員が琴を持ってきた。

 これまた和風の美しさを持っているものだった。

「これがどうかしたの?まさか、七不思議を本気にしているの?」

 女子部員は少し呆れ気味に言った。

 どうやら、これが七不思議と関係しているらしい。

「念のために、調査するよう言われたので、僕も仕方なくですよ。」

 田中が無表情でため息をついてそう言っているうちに、栄輝が琴に手を伸ばした。

「これ、どんな音がするんだ?」

 すると、女子部員が鬼の形相で叫んだ。

「触らないで!」

 その迫力に栄輝の手はすぐに引っ込んだ。

「この琴は貴重すぎて値段もつけられないのよ!」

 彼女は苛立ちながらそう説明すると、今度は田中を睨みつけた。

「彼らは何なの?」

 それでも田中は無表情のままだった。

「彼らは今年できた心霊サークルの部員です。七不思議の調査を生徒会長から依頼されたそうです。」

 沙紀たちは、こんな嘘、すぐにばれてしまうんじゃないかと内心冷や冷やしながらも、田中の言葉に頷いた。

 女子部員は沙紀たちをジロリと見た。

「あの生徒会長が発足させた怪しいサークル?まあ、とにかく、この琴には触れないで。」

 どうにか誤魔化せたようで、沙紀たちは顔を青白くさせながら、彼女の言葉に一生懸命頷いた。

「それで、七不思議にあるように、この琴が勝手に鳴ったことはありますか?」

 田中は冷静に本題に入った。

 しかし、女子部員は首を振った。

「七不思議のことは皆知っているけど、実際に音を聞いた子はいないわ。もちろん、弾けばこの通り音は鳴るけどね。」

 そう言って、女子部員は専用の道具を使って、音を鳴らした。

 高価なだけあって、素人の沙紀にも分かるぐらい綺麗な音色を奏でていた。

 しかし、邪の気配は全くしない。

 それはやはり高貴と栄輝も同じようだった。

 高貴がそれを田中にアイコンタクトで告げると、沙紀たちは、女子部員にお礼を言って、音楽室を去った。

 音楽室からだいぶ離れると、栄輝は沙紀にぼそっと話しかけてきた。

「七不思議よりも、あの女の方がおっかねーな。」

 沙紀は苦笑いするしかなかった。


 部活生に下校を促すアナウンスが流れる中、沙紀たちは田中に連れられて、階段を上っていた。

 田中は、階段の踊り場で足を止めた。

「急に止まってどうしたんですか?」

 不思議に思った沙紀は、そう田中に問いかけた。

 すると、彼は、踊り場に設置してある大きな鏡を指さした。

 おそらく生徒たちの身だしなみを整えるために設置されたものだろう。

「これが次の七不思議です。西校舎の東階段に合わせ鏡が現れるというものです。」

 その言葉に沙紀は田中が指差す鏡の向かい側をバッと見た。

 しかし、そこには無機質な壁があるだけだった。

「ないですけど?」

「ないところに、現れるから七不思議なんです。」

 戸惑う沙紀に田中は冷静に言い放った。

 今度は鏡を見ていた高貴が質問した。

「こういうたぐいの話は、合わせ鏡に映った自分に変化があると死ぬとかありますけど、そこはどうなんですか?」

 沙紀もそんな話を聞いたことあるなと思いながら、田中の言葉を待った。

「ありますよ。合わせ鏡の五番目に映った自分の顔が目をつぶっていたら…。」

 沙紀はどんな恐ろしい七不思議があるのかと唾を飲み込んだ。

 高貴も栄輝も黙って聞いていた。

「五日後に…。」

 『五日後に死んでしまう』とかだろうかと沙紀は、怖い気持ち半分、ワクワクする気持ち半分で、さらに田中の言葉を待った。

「日本経済が荒れます。」

 その田中の一言に、沙紀はこけそうになった。

 高貴と栄輝も、予想外の答えに固まっていた。

 沙紀は、ちゃんと立つと、口を開いた。

「なんか、七不思議っぽくないですね…。日本経済が荒れるって、賢常高校らしいと言えばらしいですけど。」

 沙紀は少し残念そうに言った。

 田中の方は、相変わらずの無表情だ。

「七不思議は、そもそも生徒がふざけて作ったものでしょうから、期待されても困ります。」

 と田中は言ってはいるが、無表情すぎて困っている感じはない。

 沙紀たちは、とりあえず合わせ鏡の出現を待ってみたが、やはり現れることはなかった。

「合わせ鏡も現れなけりゃあ、邪の気配もないところを見ると、ここもハズレだな。」

 そう栄輝がつまらなさそうに言った。

 その時だった。

 階段を照らしていた電灯がパッと消えた。

 沙紀は、少し目がくらんだが、すぐに先程と同じようによく見えた。

 そのため、田中が少し驚いたところも見ることができた。

 彼も予想外のことが起きると、無表情ではいられないらしい。

「停電か?」

 高貴がそういうと、田中は端末を取り出し、明かりをつけた。

「とりあえず、下へ降りましょう。」

 田中の提案で下を目指して、階段を降り下の階へ差し掛かった時だった。

「そこに、誰かいるのか!?」

 少し驚いた声がして、沙紀たちの方へ、とある人物が駆け寄ってきた。

「いきなり、全館停電で…。」

 そう事情を話しながら駆け寄ってきた彼の眉は太かった。

 彼の顔は、沙紀にとっては、忘れることもできない顔だ。

 あの時とは格好が違えど、彼は沙紀の初任務で、沙紀たちを脅してきた青年だ。

彼もすぐに沙紀たちに気づいたようだが、沙紀たちとは対照的に笑みを浮かべていた。

「なんだ、君たちだったか。お久しぶり。」

「この間は、どーも。」

 栄輝は、彼を睨んだままそう言った。

「会長、お知り合いですか。」

 田中が無表情で、彼に聞いた。

「会長?」

 沙紀が不思議そうにつぶやくと、眉の太い青年はニヤリと笑った。

「僕は賢常高校生徒会・会長の明智あけち政虎まさとら。仲良くしておこうよ、お互いのためにね。」

 そう、意味深な笑みを浮かべた。

 しかし、沙紀はそれを笑みで返す気にはなれなかった。

 事情を知らない田中は、そんな沙紀たちの様子についていけていないようだった。

「それで、この停電は?」

 高貴が話を変えると、政虎は困った顔をした。

「それが、まだ原因不明でね。業者には連絡したんだけど、安全のために生徒は校舎から避難してもらうことになった。」

 どうやら、政虎は生徒が取り残されないように巡回していたらしい。

 沙紀には、自分に刀を向けた彼と、生徒たちを大事にし生徒たちからも信頼を得ている彼との違いに、戸惑わずにはいられなかった。

「そういうわけで、君たちにも今日のところは帰ってもらうことになった。申し訳ないが明日また来てほしい。」

 政虎は申し訳ないようには見えない上から目線でそう言った。

「明日で大丈夫なんですか?」

 沙紀は、原因不明の停電なのに、明日に調査ができるのだろうかと素直に疑問に思った。

 しかし、政虎は、そんな沙紀を逆に不思議そうに見た。

「明日は授業がある。それなら、明日には解決しているさ。」

 政虎は、それだけ言った。

 あまりに短い言葉で、沙紀には理解できなかった。

 それを察したのか、田中が口を開いた。

「わが校は授業に穴は開けられません。となれば、今夜中にどうにかさせるんです。どんな手段を使っても。」

 田中はさらりと言ったが、沙紀には超エリート進学校の授業に対する重さをヒシヒシと感じていた。

「そういうことだから、早くこの校舎から出てくれ。僕は引き続き巡回するから。」

 政虎はそう言うと沙紀たちとは違う方へ歩き出した。

 それに合わせて、田中率いる沙紀たちも歩き出す。

 しかし、政虎はすっと振り返った。

「田中ー、彼らの足下を照らさないで、自分の足下を照らしといたほうがいいよ。彼らは明かりが無くても、よく見えるから。」

 政虎は、それだけ言うと、スタスタと去っていった。

 政虎の言葉に、沙紀たちの足下を照らしていた田中は固まり、次に沙紀たちを見た。

 その瞳は、驚いているのと同時に気味の悪いものでも見たように震えていた。

 沙紀はその瞳に心が痛くなった。

ただ、その瞳とこの痛みは初めてではない、そんな気がした。




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