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金色の瞳  作者: 七篠 月
第二章 鬼導隊編
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鬼、高校生になる



 沙紀さきたちは、ヨーロッパの街並みを思わせる西洋建築が大きくそびえたち、それに引けを取らない立派な校門の前に立っていた。

 栄輝えいきは感嘆の声をあげる。

「ほーお、立派なもんだな。さすが、この辺りで一番頭のいい高校だな。」

 沙紀たちは、いつもの黒い隊服ではなく、沙紀は紺を基調としたセーラーに赤いスカーフ、高貴こうきと栄輝は、黒いズボンに白いシャツを着ていた。

 沙紀は、学生服姿もまた様になっている高貴を見ながら、ぽおっとなりつつ、先程までのことを思い出していた。


―鬼導隊本部

 高貴から差し出された制服に沙紀は驚いていた。

「これって、賢常けんじょう高校の制服じゃないですか!?」

「沙紀は制服見ただけで、分かるのか!すげーな!!」

 今度は栄輝は驚いて見せたが、同じ学区の高校に通っていた沙紀には、知っていて当然の超有名校だった。

「こんな超エリート進学校、知らないわけないよ!ここに入れば将来は約束されたも同じだから、学区外からも入学する人だっているんだよ。」

 そう沙紀が熱弁すると、栄輝は少し引き気味だった。

「でも、なんで、賢常高校の制服がここに?」

 沙紀はふと疑問に思い、高貴の方に顔を向けた。

「今回の任務はこの賢常高校からなんだ。そして、この任務にあたって先方から制服を着用して欲しいとのことだったんだ。」

 高貴はそう淡々と説明して、自分の分の制服を手にしていた。

「まあ、鬼導隊で高校の制服が似合うって言ったら俺たちの班ぐらいだしな。」

 栄輝がそう言ったので、沙紀は今回の件が同じく非番の清彦きよひこには声がかからなかった理由が分かった。清彦は人間で言えば中学生で見た目も高校生とは言い難いから、今回の任務には不向きだ。

 しかし、そこで沙紀がふと思い浮かんだのが、大人びている高貴に高校生の制服は似合うのだろうかという疑問だった。どちらかというと、スーツの方が似合うだろう。

 とはいえ、世の中の映画やドラマは高校生役を二十代の役者が務めることはよくあることだから、大丈夫だろうとも沙紀は考えを二転三転させていた。

「沙紀、どうかした?」

 いろいろと高貴の姿を妄想していた沙紀は、いきなり声をかけられ、前を見ると高貴の整った顔面が近くにあって、顔全体の温度が何度か上昇した。

「な、なんでもないですっ!」

 声が裏返りながらも否定すると、沙紀は後ずさった。

 高貴も栄輝もその姿を不思議そうに見ていた。

「それなら、着替えて本部の玄関に集合で。」

「はいっ!」

 沙紀は、きっと赤いであろう顔面を隠しつつ、真新しい制服を抱きしめて部屋を後にした。


 沙紀は任務前に余計なことまで思い出してしまったと思いながら、再び熱くなった頬を手で仰いだ。

 その時、背中にからっている剣道の竹刀を入れる袋がずれたので整えた。

 いつもはこんな袋を使うことは無いのでどこか使い心地の悪さを沙紀は感じていた。

 もちろん、この袋に入っているのは竹刀ではない。刀だ。

 これも先方の要望で刀を腰に掛けるのではなく、分からないようにカモフラージュしてほしいとのことで、このような形になったのだ。

 この瞬間だけは、沙紀たちはただの高校生にしか見えないだろう。

 高貴は、端末で時間を確認した。

「ここに来れば迎えに来るとの話だったんだけど…。」

 そう言ったところで、門の向こう側から高貴たちと同じ制服に身を包んだ生徒がやって来た。

 眼鏡をかけた、いかにも真面目そうな青年だった。

「本日は、ご足労いただきありがとうございます。」

 その青年はぺこりと頭を下げる。

「僕は、生徒会で副会長をしています、田中たなかです。とりあえず、僕についてきてください。」

 そう言うと、田中は特に怖がりもせず無表情で沙紀たちを案内した。


―校長室

「これはどうも、今日はよろしくお願いしますね。」

 メタボ気味の校長がどでんとソファに座りながら話していた。

 つい最近まで高校生をやっていた沙紀は、校長先生という存在に少し緊張していた。

 しかし、どんな時も落ち着いている高貴はすぐに受け答えをしてくれている。

「はい。それで、改めて依頼の詳細を伺いたいのですが。」

 任務の内容はあらかた分かってはいたが、学校という特別な場所となると、注意事項も多々あるので、もう一度、話をきくというのがセオリーらしい。

「それが、生徒たちの間で、わが校の七不思議というのが噂になっていまして。」

「七不思議ですか。」

 沙紀はそれを聞いて、定番の『トイレの花子さん』などを思い浮かべていた。

「ええ。まあ、それ自体は私が在校していた時からあるのですが、どうにも最近になってその噂が過熱していて、季節柄もあるのでしょうが、肝試しなどというものを企画する者もいる始末。」

 校長の話を聞きながら、沙紀は初任務の学生たちを思い出していた。

「しかし、わが校は進学校。夏こそ己の力を高める重要な時期。そんな時期にこんな浮ついた雰囲気では困るのです。」

 校長は大げさにため息をついた。

「そこで、皆さんには、七不思議なんてものは存在しないことを証明していただきたいんです。生徒たちが勉学に集中するようにね。」

 どうやら校長の意図は、じゃの討伐などではなく、噂を断ち切ることらしい。

「分かりました。他に気を付けるべきことなどはございますか。」

 高貴が話の最後にそう聞くと、校長はとても真剣そうに沙紀たちを見た。

「くれぐれも、生徒たちの学習を妨害することはございませんよう、お願いします。彼らは国を背負って立つ人材なのですから。」

 沙紀は校長の迫力に気おされそうになった。

 


 校長室を後にすると、田中がいた。

「僕が七不思議をご案内します。」

 沙紀たちは、彼についていくことになり、校内を歩いていく。

 時間的には放課後のようで、生徒たちの雰囲気は活気づいている。

「へー、高校ってこんな所なのか。」

 栄輝は物珍しそうにそう言った。

 沙紀は、栄輝の言葉から栄輝は高校に来ること自体初めてなのだと知った。

「なあ、沙紀。沙紀が行ってたところも、こんな感じ?」

 栄輝に尋ねられて、沙紀は改めて校内の様子を見渡した。

 超エリート校とはいえ、真面目そうな生徒もいれば、お調子者っぽい生徒もいた。

「建物とかは全然違うけど、高校生の雰囲気はあんまり変わんない気がする。」

 栄輝はそうかと、聞いてきた割には適当な返事をして、初めて見る光景に目を奪われていた。

 沙紀は、そんな姿を微笑ましく見ていると、栄輝は少し難しそうな顔をした。

「栄輝、どうしたの?」

「なんか、なんか、俺たちとは違う感じがするな。」

 栄輝はそう言った。

 確かに、鬼と人間では違う存在だが、見た目だけではそこまで変わらないのではないかと沙紀は不思議に思った。

 沙紀は、栄輝が感じているのは、感覚的な何かなのだろうかとそんなことを思っていると、やたら視線を感じる気がした。

 沙紀は周りを見渡すと、どう見ても高貴や栄輝に対し、女子生徒たちの熱い視線が向けられている。

 校長から学習の妨害はするなと言われたばかりなのに、と沙紀が焦っていると、考え事を続けていた栄輝はつぶやいた。

「うーん。華やかさ、か?」

 少し、頭をひねりながらそう言った。

 沙紀は、その言葉に納得していた。

 鬼はなぜか美男美女ぞろいで、もちろん村もそういう雰囲気に包まれていて、沙紀としては目の保養になる反面、居心地の悪ささえ感じるときがある。

 しかし、栄輝にはその自覚がないようで、こう普通の集団に囲まれると違和感にしか感じないのだろう。

 ただ、それをここで説明するのも何か気が引けた沙紀は、栄輝の気をそらすことにした。

「そ、そんなことより、七不思議だよ。一体、どんなのがあるんだろうね。」

 焦って沙紀が話を変えたその時、ぼそりと声がした。

「着きました。ここが、七不思議の一つです。」

 田中は、止まって感情のない瞳を沙紀たちに向けた。


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