鬼の試験・番外編・彼が見たモノ
栄輝は、鬼の試験で起こったことについて菊に報告をした後、帰宅した。
「お帰りなさいまし、坊ちゃん。」
家で出迎えるのは、お手伝いさんの鬼だ。
「ただいま。」
そう言って、いつものように通り過ぎようとしたが、彼女は慌てて栄輝に話しかけた。
「旦那様が、書斎に来るようにとおっしゃっていましたよ。」
その言葉で、栄輝の体は一気に重くなる。
「…わかった。」
栄輝は、そう返すと、重い足取りで父の書斎へと歩を進めた。
「おお、帰ったか。」
栄輝が部屋へ入ると、この家の主であり、栄輝の父である土倉道輝は、にこやかに迎えた。
しかし、栄輝にはこの笑顔は何か企んでいる、そう思えてならない。
道輝は一見豪快で細かいことは気にしなさそうに見えるが、意外と野心家なところがあることを栄輝は知っていた。
「試験で何か問題があったらしいな。あのぼんくらの息子が何かやらかしたか?」
道輝は、どうやら清彦のことを言っているらしい。
「そんなことになったら、指導係の俺が恥ずかしいっつーの。」
いつまでも、清彦の父である清隆にライバル心を燃やす道輝にイラつきながら、そう答えた。
「じゃあ、何があった?」
道輝は再び追及を始める。道輝は、何かを話すまで逃がしてくれそうにない。
栄輝は、父が何か掴んでいるのだろうと思い、はぐらかさず正直に話した。
「確かに、問題は起こったけど、親父にも言えねえから。」
栄輝がそう言うと、道輝から楽し気な雰囲気はスッと消え、鋭い眼光を栄輝に向けた。
「栄輝、それは菊さまから口止めされたということか。」
「ああ。」
「栄輝、菊さまに従うのは、我々の勤めだ。しかし、幹部会は頭領の秘密主義は良しとしない。」
栄輝は、道輝が一体何を言いたいのか分からないといった顔を道輝に返した。
「お前には話す機会が無かったが、そもそも幹部会は初めからあった組織じゃない。かつて頭領家の秘密主義のせいで、村は多大な損害を受けた。二度とそんなことが起きぬよう、頭領を監視するのも我らの役目だ。」
道輝の大きな体躯から放たれる気合いに押され、栄輝はたじろいだ。
「お前も、幹部家の子息なら、どうすべきか分かるな。」
「…。」
「何があった?」
正直、栄輝も最近の菊や高貴は、秘密を抱えているように思えた。
そして、それは、沙紀が来た時かから。
しかし、栄輝には彼らの秘密にも見当がつかないし、今回の件も秘密にする意味がよく分からなかった。試験で起きたことを話したところで、一体何が困るのか、さっぱりだった。
そんな思いが頭をよぎったせいか、菊への不信感が芽生えてしまっていた。
「…清彦の話じゃ、邪が大量発生したあと、大きな腕のバケモノが出たらしい。俺は見なかっけど、確かに、今までに感じたことのない強い邪気を感じた。」
「で、そのバケモノはどうなった?」
「沙紀が退けたらしい。」
道輝がピクリと眉をあげた。
「あまり聞かぬ名だが、誰だ?」
「ちょっと前に来た女の子で、高貴が面倒見てる。今回、清彦と一緒に試験を受けたんだ。」
「歳は?」
「俺と同い年。」
「十六でここへ来たのか?」
「そういうこと。」
「その者は何者だ?」
「まだ、何の鬼かは分かんない。ただ…。」
栄輝は、少し言葉につまった。菊の顔がよぎったからだ。
「ただ?」
しかし、気になるところで止められた道輝が、追及の手を緩めるはずもない。
「………清彦が、沙紀の瞳が金色に光るのを見たって。」
「金色?」
「ああ。たぶん、雷鬼か何かだと思う。」
「そうか。他には?」
「俺が知ってるのはこれで全部。」
栄輝がそう言うと、道輝はいつもの明るい父へと戻っていた。
「そうか、ご苦労だったな。もう下がっていいぞ。」
「はいはい。」
栄輝は、この空間から一時も早く出たくて、素早く立つと部屋を後にした。
部屋に一人残った道輝は、栄輝の様子には目もくれず、にまりと笑った。
「もしあの鬼なら、こっちにもまだチャンスがある。」
―頭領屋敷
「ねえ、高貴さん。」
沙紀は、高貴に声をかけた。
「さっき、三人だけ呼ばれたのって何かあったんですか?」
沙紀が言っているのは、菊への報告後に、高貴、栄輝、清彦だけ菊に呼ばれたことだった。
高貴が少し答えを言い淀んでいると、沙紀は不安そうに口を開く。
「まさか、私、試験に落ちちゃったんですか?」
沙紀はどうやら自分だけ呼ばれなかったことで、清彦だけが合格したのではないかと思ったらしい。
「違うよ。栄輝と清彦は幹部家の子供だから、幹部たちへ伝言を頼まれただけ。」
高貴は、そう言ってニコリと笑う。
しかし、本当は幹部たちへの伝言なんてものはない。三人が集められたのは、三人に菊が命令するためだった。
菊の命令は、試験での出来事を誰にも話さないこと、そして、沙紀の瞳の変化について沙紀にも教えない、というものだった。
そんなことともつゆ知らず、沙紀はほっと胸をなでおろした。
「なんか、安心したら、おなかすきました。私、お夕飯ができてるか、美季さんに聞いてきます!」
そう言って、沙紀は厨房へと軽い足取りで向かった。
高貴は、その後ろ姿に少し胸が痛んだ。




