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金色の瞳  作者: 七篠 月
第一章 鬼となった少女
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鬼の手合わせ

「その勝負、ちょぉっと、待ったーーーーーー!!」

 頭領屋敷の裏庭に飛び込んできたのは、久しぶりに見る顔だ。

栄輝えいき!?」

 沙紀さきは驚いて声をあげた。

 隊服姿の栄輝えいきは、スタッと地面に着地した。

 そして、すぐさま刀を抜いて、高貴こうきに剣先を向けた。

「おうおう、俺がお前の分まで働いてるっつーのに、楽しそうなコトしてんなぁ!」

 栄輝は、かなり不機嫌そうに、声を荒げた。

 沙紀は栄輝をしばらく見なかったが、栄輝は高貴の分まで激務をこなしていたようだ。

「楽しいこと?こっちも仕事だ。菊さま直々のな。」

 栄輝に絡まれていることにウンザリしながら、高貴は答えた。

 しかし、栄輝は引き下がらない。

「勝負事とは、ワクワクするお仕事だよなー?」

「だーかーらー、これは勝負じゃなくて、稽古だ!」

「とにかくっ!今から、俺と手合わせしろ!!」

「はあ!?お前、俺の話聞いてたか?」

 冷静に対応していた高貴も声を荒げるが、栄輝には全く効き目がない。

 それどころか、栄輝は一瞬考えた顔をして、ニヤリと笑った。

「ふふん。俺に負けるのがそんなに怖いのか。それなら仕方ねーな。見逃してやってもいいぜ。」

 そう言って、栄輝は高貴を挑発し始めた。

 栄輝のドヤ顔を見ていると、本人はさぞ良い策だと思っているのだろうが、あまりにも見え透いた挑発だ。

 いつも知的な雰囲気を漂わせて落ち着きのある高貴には、こんな安い挑発は効かないだろうなと沙紀は呆れていた。

「……負ける?俺が栄輝に?だいたい、俺が負けたことなんて一度もないだろ!いつもいつも、俺に突っかかってくるのはお前の方だしな!」

 いつも冷静なはずの高貴は、栄輝に食って掛かり始めた。

 そして…。

「俺とお前の差っていうのを、思い知らせてやる!!」

 沙紀は心の中で『えーーーーーーーー!?』と叫んでいた。

 高貴がこんな挑発にのるなんて、沙紀には正直意外だったのだ。

「沙紀!栄輝との手合わせを見学しといて。君との手合わせは後でちゃんとするから。」

「は、はいっ。」

 ぼーっとしていたところに、声をかけられたので、沙紀は慌てて返事をした。

「そうだ。近くにいると危ないから、離れたところで見ていて。くれぐれも怪我はしないようにね。」

「わかりました。」

 今から戦いに赴く凛々しさの中にも優しさを忘れないところに、キュンとしつつ、沙紀は言われた通りに二人から距離をとった。

 栄輝と高貴も、距離をとってお互いに剣先を向ける。

 準備が整ったのか、栄輝がすっと息を吸い、叫んだ。

「じゃあ、おっぱじめますか!」

 栄輝は、手合わせが始まった一瞬で間合いを詰めて、高貴に斬りかかる。

 それを高貴は冷静に受け止める。

 その剣げきは、ものすごい音をたて、振動が沙紀にも伝わってきた。

 初めて見る鬼同士の手合わせに、沙紀は体をこわばらせた。

 最初の攻撃を防がれた栄輝は、攻撃の手を緩めず連続して高貴に斬りかかっていく。

 しかし、栄輝の刀を高貴はすべて受け続け、ついにはつばぜり合いとなったが、それをも高貴がはじき返した。

 それは高貴の華奢な体からは想像もつかないパワーで、栄輝は後ろに弾き飛ばされた。

 栄輝は後ろに大きく飛ばされたが、土埃をあげながら、どうにか踏ん張った。

 体勢を立て直した栄輝は、高貴を見据えた。

「やっぱ、高貴は強いな。」

 一見、押され気味の栄輝だが、顔には満面の笑みがこぼれている。

「楽しくてたまんねえな!」

 栄輝はそう叫ぶと、刀を持っていない左手を前に出した。

 すると、どこからともなく無数の小さな土の塊が現れ、高貴に向かって飛んでいく。

 そのスピードは、沙紀には目で追いつくのがやっとだ。

 しかし、高貴は難なくそれを正確に刀で斬り落としていく。

 二人の闘いを見ている沙紀は、今、自分の目の前で何が起こっているのか理解できずにいた。

 だって、目の前で繰り広げられているのは、手品でなければ、まさに異能力系の戦闘シーンそのものだ。

 栄輝の仕草や態度を見ていると、栄輝は自分の意思で、その土の塊を動かしているように見える。そして、高貴はそれに動じず対処している。

 沙紀がそんな信じられない光景に目を白黒させているうちに、高貴は栄輝の攻撃をすべて斬り落とした。

「ちっ。じゃあ、コレならどうだ?」

 栄輝は、拳を上にあげた。

 すると、ミシミシと地面に亀裂が入り始め、裏庭の地面が浮き上がる。

そして、それは大きな土の塊となり、栄輝の頭よりも上まで浮き上がった。

 沙紀は、幻でも見ているのかと目をこするが、確かに、先程とは比べ物にならない大きな土の塊が浮き上がっている。その代償に、裏庭には大きな穴ができた。

 信じがたいが、栄輝は触れることなく裏庭の地面から大量の土を持ち上げているのだ。

「くらえッ!」

 栄輝が叫ぶと、土塊は素早く高貴の頭上に移動する。

 あんなものが頭から落ちたらひとたまりもない。

「危ないっ!」

 沙紀は思わずそう叫んだ。

 しかし、塊の下にいる高貴はこの闘いで初めてニヤリと笑みを浮かべた。

 その瞬間、土の塊の内側から草が生えだし、一瞬で土の茶色から鮮やかな緑色へ変化した。そして、それは高貴の目の前にドスンと落ちた。

栄輝の土塊は、あっという間に、草の塊へと変わってしまったのだ。

「まさか…。」

 栄輝は目の前の塊に、愕然とする。

「植物は土の栄養を吸い尽くす。栄輝は俺との相性悪いんだよ。」

「くそっ、まだまだ…ぬわっ!!」

 栄輝は次の攻撃を仕掛けようとしたが、いつの間にか忍び寄っていた植物のつるに足を取られ、自分が作った穴に引きずり込まれた。

「うわーーーーーーーーーーー!」

 栄輝の叫びとともに姿が見えなくなると、高貴は優雅に穴の淵へ歩み寄った。

「まさに、『墓穴を掘る』だな。」

 高貴は穴を覗き、泥だらけの栄輝を見ながら、そう言うと、ぷぷっと笑った。

「何笑ってやがる!まだまだ、これからって…、これ、取れない!!」

 栄輝は穴の中で、バタバタとつると格闘している。

 しかし、つるは、よく絡まり取れる気配がない。

「お前が負けを認めたら、離してやってもいいけど?」

 高貴はニヤニヤと栄輝をいびっている。そんな彼もどこか輝いている。

 沙紀は、その様子を、少し離れたところで見ていた。

 最初から沙紀は感じていたが、高貴と栄輝は仲がいい。きっと、幼い頃から知っていて、お互いに遠慮なんかいらない、そんな仲に見える。

 だからか、遠くはないが少し離れている沙紀と二人のこの距離が、心の距離にも沙紀は思えてきた。

 会ってそんなに経たない自分と二人では仕方がないとは思いつつも、沙紀と二人の間には寂しい風が吹く。

「…き、……き!沙紀!!!」

「?」

 沙紀は考え込んでいたせいで、自分に必死に語り掛ける高貴の声に気づくのが遅れてしまった。

 気づいて顔をあげると、草の塊がこちらにものすごいスピードで転がってくるのが見えた。

「よけて!沙紀!」

 高貴が必死に叫ぶ。

 土の塊が草の塊になったとはいえ、あんなものに衝突すれば怪我は避けられない。

 しかし、こんな時に限って、思考回路は停止し次の行動を選択できない。

 その時、声が聞こえた。

「沙紀!斬るんだ!さっきと同じように!!」

 高貴の声に、沙紀の右手は刀を抜き、目の前に迫る塊に刀を向けた。

 両手からは自然に力がみなぎり、刀へ注がれていく。

 沙紀が動く対象を斬るのは、もちろん初めてだ。

 でも、体は自然と動いた。きっと、毎日、高貴から剣術を教えてもらっていたおかげだろう。

 ザクーーーーッ

 沙紀の刀で、塊は真っ二つに割れ、勢いよく左右に倒れる。

 しかし、それだけでなく、沙紀の剣げきによる風圧は、ブワッと、離れていたはずの高貴の顔のすぐ横を駆け走った。

 栄輝も地上の風の音に驚き、目をパチクリさせる。

 高貴は風圧に唖然としていたが、すぐにハッとして、風圧が走った方向を見た。

 すると、庭の奥にある森の方が、斬り傷を受けたかのように空間が歪んでいた。

 その様子を見て、高貴は少し背筋に冷たいものが走った。

「これはまずいかも。」

 小さくそうつぶやいた。

 そんなことはつゆ知らず、沙紀は大きな物を斬った達成感で頬を染めていた。



「ん?」

 ある屋敷の一室で、畳に寝転んでいた白髪の青年は、目をぱちりと開けた。

「誰かが俺の結界に穴開けたのか?しかも、内側から?」

 怪訝そうにつぶやくと、白髪の青年は目を閉じた。

 しばらく経つと、彼は再び目をあけた。

「これでよし、と。しかし、内側から穴開けるなんて、とんだ馬鹿がいやがるな。文句の一つでも言いてえところだが…。」

 青年は、ふわあと欠伸をし、その瞼は重そうだ。

「メンドーだから、あとでいいか…。」

 だるそうにそう言って目を閉じると、すぐに寝息を立て始めた。



 高貴の視線の先の空間の歪みは、みるみるうちに、閉じていった。

 高貴はその様子にほっと胸をなでおろすと、沙紀に駆け寄った。

「沙紀っ、怪我はない?」

「はい、大丈夫です。」

「それはよかった。俺がいながら、沙紀を危険な目に遭わせてしまって、申し訳ないよ。」

 悲しげな高貴に、沙紀は慌ててしまう。

「大丈夫ですよ!もう、私には刀がありますし!これからは、自分の身は自分で守らないと!」

 沙紀は元気よくそう言った。

「沙紀はたくましいな。でも、少し、寂しいな。」

「え?」

 沙紀は意外な言葉に思わず聞き返していた。

「だって、まだまだ、俺が沙紀を守ってあげてたいから。」

 高貴の言葉に、沙紀は頬の温度を上げていた。胸も少し苦しい。

 高貴の瞳を見ていられず、背けてしまう。

 そんな風に、沙紀がドギマギしていると、ピンクな雰囲気をかき消すような大声が下から響く。

「おいっ!一体、何があったんだよ!?ここから出せって!!」

 地上での出来事を見れなかった栄輝がジタバタとしているようだ。

「え、栄輝を助けないと!」

 沙紀は誤魔化すように、穴へと駆け寄る。

 そんな様子の沙紀に、キョトンとしつつ、高貴も穴へ駆け寄り、栄輝に絡まったつるを解いて、新たにつるを出して栄輝を穴から引きあげた。

「お前ら、大丈夫か!?」

 地上に上がった栄輝は、高貴と沙紀にすぐ問いかけた。

「大丈夫だよ。栄輝こそ、大丈夫?」

「俺は大丈夫。まあ、高貴に勝てなかったのは悔しいけどな。」

 残念そうにしているが、どこかすがすがしい様子の栄輝。

 そんな彼を見て、沙紀はさきほどの闘いを思い出した。

「そういえば、さっきの、土の塊とか、植物のつるとか、一体何が起きてたの?」

 最大の疑問を栄輝にぶつけると、栄輝は驚いた顔をした。

「え?お前、聞いてないのか?」

「何が?」

 何も分からない沙紀は、逆に聞き返した。その様子を見て、栄輝は高貴を見る。そして、高貴が口を開いた。

「時期を見て話そうと思ってたんだよ。」

「へー、そりゃ、驚いても仕方ないな。」

「まあ、もう見ちゃったんだし、説明するよ。」

「はい。」

「実は、鬼の力には、邪を斬るという共通の能力の他に、特殊能力がある。しかも、その特殊能力は、鬼それぞれに個性がある。栄輝の場合は、土を操る能力だ。」

「その通り。俺みたいなのを土鬼つちおにって言うんだぜ。」

 栄輝はそういうと、手のひらに拳大こぶしだいの土の塊を形成する。

 それを見て、改めて、彼が自在に土を飛ばしていたりしたのだと認めざるを得ない。

「じゃあ、高貴さんは…。」

「何をやってるの!?あんたたち!!」

 裏庭に、キンキンとした女性の声が響いた。

 声の方を見ると、縁側には、水色の髪を右側にサイドテールにした眼鏡着物美人が、仁王立ちしていた。

 彼女の表情はまさに、『激怒』で、沙紀、高貴、栄輝は、青ざめた。


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