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金色の瞳  作者: 七篠 月
第一章 鬼となった少女
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『鬼の刀』講座

 朝食を終えた、沙紀さき高貴こうき刀鬼とうきは、頭領屋敷の裏庭に出ていた。中庭よりもだだっ広く、森に囲まれている。

「こんな大きなお庭があったんですね。」

 沙紀は初めて踏み入れたその空間に驚いていた。頭領屋敷は屋敷自体の面積も広いのに、庭のこの広さを足せば、かなり広い敷地だろう。

「ここは、四季を楽しむ中庭と違って、頭領屋敷に住むものたちの鍛錬を行う場所なんだ。」

 高貴の言うように、裏庭は中庭とは打って変わって、華やかさはなく、緑や茶色しか色がない。

「さすが、頭領屋敷の鍛錬場だな。これなら、村の演習場にも引けを取らないんじゃないか?」

「いやいや、あっちの方が広いですって。」

「演習場?」

「ああ、沙紀にはまだ案内していないけど、村の演習場っていうのがあって、みんなそこで技を磨いているんだ。」

「『夕葵ゆうき祭り』の時には、その演習場で最強の鬼を決める大会が行われるんだぞ。俺としては、俺がつくった刀がいきいきとしているさまが…。」

「っていう話はまた後で。今は、沙紀に刀の扱いを教えないと。」

 話が脱線しそうになった刀鬼の話を高貴が元に戻した。

「おう、そうだったな。じゃあ、まず、刀を構えろ。」

 沙紀は、腰に差した鞘から刀を抜き、いつも通りに構えた。やはり、木刀とは質感も違って、どこか背筋がシャキンとする。

「よし、じゃあ、鬼の力を刀に注げ。木刀の時と同じようにな。」

 沙紀は、ここ数日行っていたように鬼の力を注いだ。しかし、刀に変化はない。

「あれ?色が変わらない?」

「ああ、それが木刀との違いだな。」

「えええ?じゃあ、どうやって加減をすれば?」

 沙紀が慌てると、刀鬼は逆にキョトンとする。

「感覚で加減するんだ。そもそも、あの木刀はその感覚を養うためのものだからな。」

「えええ…。」 

 沙紀が不安そうにしていると、その不安を吹き飛ばすように刀鬼は豪快に笑う。

「安心しろ。俺は鬼の力が見えるから、調整するのを手伝ってやる。ついでに、今はほんの少しか入ってないぞ。思いっきり、入れてみろ。木刀なんかよりその刀の方が何倍も鬼の力を入れられるからな。」

「わかりました!」

 そういうと、沙紀は思いっきり力を注いだ。

すると、刀鬼は満足そうな顔を浮かべた。

「うん、いい感じだな。じゃあ、目の前の丸太を斬ってみろ。」

 刀鬼が指さすには、いつの間にか用意されていた丸太が縦に立っている。

 斬ってみろと刀鬼はいうが、刀で斬るものといえば、竹とか、藁とかで、刀でこんな太い丸太を斬るシーンなんて見たことが無い沙紀は、少しためらってしまう。

 沙紀の想像では、斬りかかったところで、丸太に刃が食い込んでしまうシーンが目に浮かぶ。もし、そうなら、勢いよく斬りかかってしまうと、手には大きな衝撃が走るに違いない。

 しかし、刀鬼と高貴の期待するような目を見ると、やらない訳にはいかない。

 沙紀は、手が痛くならない程度に力を抜いて、刀を振りかざした。

 スパッ

 軽く振ったつもりだった。しかし、沙紀の目の前の丸太は、斜めに斬られた上の部分だけが、ドズッと重々しい音を立てて地面に落ちる。

「うそ…。」

「おお、なかなかの切れ味!我ながらいいものをつくったなー。」

 驚く沙紀をしり目に、刀鬼は自画自賛する。

「何かの間違いじゃ…。これ、刀ですよ?」

 動揺したままの沙紀は、刀鬼に疑問を投げかけた。

「刀だったら、これぐらいできるだろ?」

「いえ、私の知っている刀じゃ、斬れません。」

「ああ、沙紀のいう刀は人間の刀か?あれは無理だな。鬼の力が入っていないから。鬼の刀は鬼の力が注がれることで、強化され、刀の強度、切れ味を格段に良くする。」

 そんな説明を受けても、沙紀には理解できず、目を回していると、刀鬼は少し考え込んで、「百聞は一見に如かずだな」と言うと、沙紀の手から刀を取った。

「鬼の刀が人間の刀よりも強い刀ってことは、沙紀が丸太を斬ったことで分かっただろ?」

 沙紀はとりあえず納得したので頷いた。

「じゃあ、この沙紀の鬼の力がなくなってしまった刀は、どういう状態かというと…。」

 刀鬼はそういうと、さっきの丸太を斬りつけて見せた。

 すると、刀は食い込むことさえできずに、丸太に打ち付けられた。

「ほら、切れ味最悪、強度もない。刃を見てみろ、ひび入ってるから。」

「えええ!?」

 沙紀は、鬼の力の説明よりも、新品の刀にひびが入ったことにショックを受けた。

 もしかしたら、刀鬼の冗談の可能性もあると、沙紀は希望を持って、刀を確認した。

 しかし、確かにひびは入っていた。

「でも、こんなに簡単にひび入るような刀でいいんですか?」

 沙紀は半泣きになりながら、刀鬼に少し恨めしそうに質問した。

「いいんだよ。逆に、刀自体の強度を上げると、鬼の力を入れられる容量も制限されちまうし。そのせいで、鬼の力による強化も小さいものになる。だから、あえて刀自体の強度は上げずに、鬼の力を入れることで無限大の可能性を引き出そうってことだ。」

「なるほど…。」

 沙紀は刀鬼の説明に納得はしたものの、ひびが入った刀から目が離せず、テンションは下がったままだった。

「じゃあ、次に、ちょうど、ひびが入ったところで、刀の手入れについて説明しよう。」

 手入れと言うか、これ打ち直しとかじゃないの?と素人考えで、沙紀は心の中で悪態をついた。

 そんな沙紀の前に、刀鬼は、ひびの入った沙紀の刀を差しだす。

「さあ、また刀に力を入れてみろ。」

 ひびをいれたことを悪びれもせずに、次の指示を出す刀鬼に不機嫌になりつつも、沙紀は刀を受け取る。

「はい…。」

 沙紀は言われるがまま、受け取った刀に力を注ぐ。

 すると、みるみるうちに、ひびが塞がれていく。

「え?うそ…。」

 思わず何度も見直してみるが、確かにひびが入っていた箇所には、傷一つない。

「鬼の刀は、基本、手入れは不要。傷やひびが入っても鬼の力を入れれば、新品そのもの!なかなかいいだろ?」

「はい!うわー、すごい!!」

 沙紀は、感動のあまりテンションが上がった。それはもう、刀鬼がひびを入れたことなんて、吹き飛ぶぐらいに。

「それじゃあ、あとは、刀の感覚に慣れるだけだな。」

 一通りの説明が終わったのか、満足そうにしている刀鬼に、すかさず、二人を見守っていた高貴が口を挟んだ。

「それなら、あとは俺が引き継ぎますよ。刀鬼さんは、仕事に戻ってください。まだ、お仕事が残ってるんでしょう?」

 高貴の言葉に刀鬼は、わかりやすく、ギクッと体を震わせた。

「な、なんでそれを…。」

「お弟子さんが迎えに来ているみたいですよ。」

 高貴が視線を向けた縁側には、美季さんが笑顔で立っている。

「はあ。しょうがねーな。じゃあ、沙紀、なんかあったら、いつでも来いよ。」

「はい、今日はありがとうございました。」

「かまわねーよ、俺もいい息抜きができた。じゃあな!」

 刀鬼は身軽に縁側に飛び乗ると、美季と共に去っていった。

「それじゃあ、沙紀。俺と手合わせしようか。」

 裏庭に残った沙紀に、高貴は笑みを浮かべて刀を抜いた。

「はい。」

 木刀の稽古のときも、高貴に剣術を教わっていた沙紀は、いつものように、高貴と向かい合い、刀を構えた。

 二人は、少し緊張感のある静寂に包まれる。

 しかし…。

 ドタドタドタドタ!

「その勝負、ちょぉっと、待ったーーーーーー!!」


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