★ネックレスと短剣
約束通りにやってきたガレスを見て、ルナは3日前の出来事がやはり夢ではなかったんだと痛感した。
旅などしたこともないルナのために、母は寝袋や数日分のパン、干し肉、服を詰めてくれた。ルナはその中に、チェストの上の父の写真をこっそり忍ばせた。
「あなたがガレスね。娘を……ルナをよろしくお願いします。必ずここに戻ってきてちょうだいね」
母はガレスの額をなでながらそう言った。
ルナは、またガレスが、馬扱いするなとか、額をなでるなとか言い出すんじゃないかと焦ったが、不思議なことにガレスは馬のように嘶いただけだった。馬、なのだが……。
母はそんなガレスににこりと笑顔を向けた後、ルナの両頬にキスをし抱きしめながら、
「いってらっしゃい、ルナ」
とやさしく呟いた。
ルナたちの姿が見えなくなるまで手を振っていた母を思い出しながら、ルナはガレスの背に揺られていた。
「随分とたくましい顔つきになったな」
不意にガレスが口を開いた。
「そう? それよりあなた、なぜお母さんの前ではしゃべらなかったのよ?」
「……」
「なによ。あっ、言っとくけど、もう絶対私はあなたに敬語なんて使わないんだから。あの時はちょっとびっくりしてただけなんだからね。あと、聞きたいことが山のようにあるわ。ちゃんと私の質問にも答えてもらうわよ」
「……お前はオレが思っていた以上によく喋るな。旅は長い、ゆっくり答えてやろう」
また偉そうにっ!
ルナはぷくっと頬を膨らませた。
不意に振動でルナの腰あたりがカチャリと音を立てる。
――「ルナ、これを……」――
出発前、母はルナに見覚えのある短剣を差し出した。
「お母さん、なぜこれが家に?」
それは父の物だった。
「お父さんね、あの日急いでたでしょ? 忘れて行ったのよ」
ベンは仕事に行く時、必ず短剣を持って行った。トゥル石の商人は、稀に物取りや盗賊に襲われることがあったため、護身用の武器を所持するのは珍しいことではなかった。
まあ、20年前からはバケモノ対策としても必要となったのだが。
これさえ忘れてなかったら、あの日お父さんは帰ってきたんだろうか……。
母によって研ぎ直された刃に、ルナの首元が映った。
襟から見え隠れする鎖に触れてみる。
それは母が父からプロポーズされた時に貰ったというトゥル石のネックレスだ。先端には大きくて美しい結晶が輝いている。
母によると、これは買ったものではなく、父が仕事中に鉱山で偶然見つけた結晶を、自ら研磨したものらしい。
「もしもお父さんが生きてたら、これを見せてお母さんは元気って伝えて。あと、トゥル石は魔除けの意味もあるのよ。ルナを危険からきっと守ってくれるわ」
ルナは母の言葉を思い出して、ギュッと石を握りしめた。
「おい……、物騒なものはしまえ」
ガレスの低い声に、ルナはハッと我に帰り、急いで短剣を鞘に収めた。
「王都へ続くこの道は役人がウロウロしている、お前みたいな子供が通るだけでも怪しまれる」
「……ごめんなさい」
言った傍からさっそく敬語を使ってしまったルナ。
ガレスの言うことは最もだった。
比較的治安が良いと言われるこの国でも、王都周辺は警備の目が厳しい。不用意にでも武器の所持が見つかれば、子供と言えども咎められる。
ルナは短剣を荷袋に押し込んだ。




