ガル
ビチャ ビチャ ズルッ ビチャ ビチャ……
ビチャ ビチャ ズルッ ビチャ ビチャ……
ルナたちが飛び込んだ入口の反対側の通路から、複数のあの嫌な音が聞こえてきた。それも1、2匹どころではなさそうだ。
その通路は人間たちが掘削させられている下階の大広間と繋がっていた。大広間と通路の入口には普段ジーグの見張りがおり、そこから先は人間は立ち入ることができない。
あの逃げてきた兵士は一体どうやってそこやオベドとシャロンの部屋を抜けてきたのだろうか。運が良いのか悪いのかなんとも分からないが、今はそれどころではなかった。
「あーあー、囲まれちまったぜ。またウヨウヨとよくこんなに湧いて出たもんだな」
「さっきからあれだけ騒いでるんだ、まぁ、当然の結果だろう」
「す、すごい数ね」
グルルル……
まるで我を失った狂犬の群れに囲まれているかのようだ。
ルナの中のノアの声は、ジーグたちの唸り声にいつの間にか掻き消されてしまっていた。代わりに、カチカチという小さな音がする。それは彼女の上下の奥歯がぶつかり合うものだった。
しっかりしなきゃ!いつまでもガレスとナイトに頼ってばかりじゃだめだ。
胸の前で短剣を握る両手に力を入れる。柄に施された細かな装飾が優雅にも、汗に濡れた掌をしっとりと押し返してくる。
重なり合った数多の赤眼は巨大なひとつの生き物が蠢いている錯覚を作り出した。おそらくその中のひとつが躍動する瞬間、個が全となり、ルナたちに覆い被さってくるだろう。
どちらかが動くのが合図――――
――――のはずだった。しかし、
「お前たち、焦ることはない」
暗闇から響くそのひときわ大きな声に、そこにいる全ての意識は持っていかれてしまった。
きれい……。
ハッ、この状況でなぜそんな言葉が浮かんできてしまったのだろう。
ルナは自分の心を恨めしくさえ感じた。
ジーグの王、ガルの巨躯は、誰一人として踏みしめていない深雪の大地のように白かった。色を持たない粘液がてらてらと纏わりついている。
真紅に燃えているはずの眼はそこにはなく、霞がかかった淡紅の双眸がなまめかしく光っている。
「なんだ? あいつ真っ白けじゃねぇかよ」
「アルビノか」
なんだそりゃとナイトは首を傾げる。
怒り狂っていたジーグたちの唸り声が、ガルの一声で止み、辺りはなんとも言えない静寂に包まれた。 ガルはその太い腕を持ち上げ、すぅとひとつ息を吸う。鋭いカギ爪は漆黒の洞穴の壁に浮かぶ、まるで三日月だ。何かを掴むように、確かめながら大きな口を開いた。
「シャロン、オベド……派手にやられたな。人間どもめ、どちらが上か知らしめてやる」




