ガレスの力
バチッバチッ!!
突如、稲妻に打たれたような音と体中を走る衝撃がルナを襲った。前につんのめる形で地面にたたきつけられる。
カランと短剣が視界の端で転がった。
なに……? これは……この感じは前にも一度……!
ナイトに襲われた時を思い出す。
あの時はガレスが跳び蹴りでもしたかと思ったが、今、彼はシャロンから離れている。
ナイトは?
ナイトは案の定、口をあんぐり開けて固まったままだ。
「なん……だ!?」
ルナを手放した反動で、よろめきながら二歩退くシャロン。
「ナイト! 今だ!」
どこまでも落ち着いたガレスの声が、ぼんやりと漂うナイトの意識を水底から一気に引き上げた。
……全く、何をしたんだか。ほんとにとんでもねぇ馬だな。
「分かってる、よっ!」
ズンと踏み込んだ右足は力強く地を蹴り、ナイトの体をシャロンの無防備な足元へと運んだ。そして美しい弧を描いたシュタイラの鋒が、シャロンの足の腱を躊躇なく断ち切った。
「ぐあぁぁぁぁ!!」
苦痛に満ちた獣の悲鳴は洞穴を駆け巡り、松明の炎を一瞬大きく揺らす。
両の足から大量の血しぶきをあげ、シャロンはその場で崩れ落ちた。
「ガ……ルさま……」
どだけ言い残して。
「……失血で気絶したか、図体の割に大したことねぇな。しばらく歩けねぇが俺を恨むなよ」
刃にべっとりとついた血と粘液を眺め、ナイトは不快そうに眉間の皺を深くする。
「ガレス、ナイト……ごめんなさい……」
ルナの消え入りそうなか細い声。
「構わねぇよ。あいつが汚ねぇ手つかっただけだ。この短剣、ルナのなんだろ?」
ナイトはシャロンの腰から鞘を抜き、地面に転がっている短剣をそれに収めると、ルナの前に差し出した。
一度自分に刃を向けた短剣も、再びその手に収まると、父を近くに感じてルナは安心した。
近くに……、いや、もうきっとすぐ傍に……。
「おい、それよりガレス、説明してもらおうじゃねぇか。お前、一体何したんだ? 俺の時もだったよな?」
ガレスに向き直り、詰め寄ったナイトは驚いた。なぜなら彼の息遣いは荒く、全身は噴き出た汗でぐっしょりと黒光りしていたからだ。
「ガレス?」
「……この力はできるなら使いたくない、ひどく疲れるからな。オレたちは昔から人間の傍に仕えてきた。その過程の中で種の一部が長い寿命と特殊な力を得た。お前たちも持っている異種間交流の力や、今みたいな防御の力だ。他にもあるのかもしれんがな」
「防御の力……。はぁ、聞けば聞くほど面白れぇ馬だな、なぁ、ルナ」
「う、うん。なん、か、あたまが……」
「おい、どうしたんだ!?」
「頭の中で、声がっ……! でも、痛い!」
ルナは頭を抱えながらその場でうずくまる。
……ナ、 ルナ……!
自分を呼ぶ声が聞こえる。
それは聞いたことのない声だったが、草原を吹く風のように透き通った麗らかなものだ。しかし、いかんせん頭が痛い。
「ルナ、大丈夫か? ノアか?」
「わ、わからないけど、私を呼んでる! とてもきれいな声よ。でももう少し音量を下げてもらえるとうれしいわっ」
「……ノアだ。奴め、地下の毒気にやられて力を制御できなくなったのか。オレとナイトには聞こえないし、全く困った奴だ。オレたちが地下に来たことに気づいたのかもしれんな」
「おい、ガレス、気づいたのはそのノアって奴だけじゃなさそうだぜ……」




