選択
「なっ……!? てめぇ! 汚ねぇマネを!」
「フン、よおぉ、お嬢ちゃん、また会ったなあぁ」
頭上から降ってくるシャロンの生あたたかい息に麻酔をかけられたように、ルナの全身は恐怖で痺れはじめる。
「クソ野郎め……。ルナを離せ」
剣を構え、ナイトがざりりとにじみ寄る。
「おっと、動くなよ」
そう言いながらシャロンの空いた片手がカチャリと腰のあたりの何かに触れた。
首に当てられた光るそれを見て、ルナは瞳を見開く。心臓がトクンとひとつ嘶いた。
「ご丁寧に研ぎ直してくれてありがとうよ。おかげでよく切れそうだぜ。どうやって逃げたか知らないが、囮よりも人質の方がお好みのようだな」
「んんっ!」
「ハハッ! どうだ? 自分の剣を向けられる気分は。悪くないだろ? この短剣、結構気に入ってるんだぜ? 柄の飾りなんて特にオレ好みだ」
シャロンはルナの首元に当てた彼女の短剣を舐めるように見つめながら、クルクルと何度も表裏を返す。剣術においてナイトより劣勢であるにも関わらず、その所作にはどこか余裕すら感じられる。
「てめぇ、ふざけんなよ!」
「小僧、降伏しろ。さすれば全員奴隷として殺さずに使ってやる。断れば……分かるな……?」
「かはっ」
ルナの喉が酸素を求めるように音を立てた。
苦しい……! 短剣で切られる前に窒息してしまいそう……また私のせいで……。
悔しさと自己嫌悪で心までもが締め付けられる。
「チッ、クソが……」
剣を握る手をナイトがだらりと解いた時だった。
「ナイト、断れ」
ガレスの低い声が2人の頭に響いた。
2つの視線がガレスに向けられる。
「早くしろナイト、断れ」
そんな視線を跳ね返すように、ガレスはただ真っ直ぐシャロンを睨みつけたまま急かした。
ガレス、何考えてる?
ナイトはそんな眼を向けるが、馬である上に表情の乏しい彼から、その真意は読み取れない。
だが、冷静なあいつのことだ。信じていい、よな……?
ナイトは再び剣を構えた。
冷たい汗が一筋、額横を走る。
「……降伏なんか、するわけねぇだろ……!」
シャロンのトゥル石のような赤い眼がカッと見開き、たちまちその瞳孔が糸のように細くなっていく。
「ハッ、ハハハッ! そうか! 聞いたか、お嬢ちゃん、あいつはあんたを捨てるらしいぜ。ハハッ、人間ってやつは脆いもんだな。脆くて、弱くて、傲慢で、強欲で、最低な生き物だ。……いいだろう小僧、望み通りにしてやる。悪いがお嬢ちゃん、恨むならあの世であいつをたっぷり恨みな。どうせすぐに会えるんだからな!」
あぁ、ガレス……何を考えているの? 私のこと、本当に邪魔になった、の……?
振り上げられた父の短剣の先が松明の灯を受けて朱に光った。
それ以上先はとても目を開けていられない。
痛い? 熱い? 命を刈り取られる瞬間はどんな感覚なんだろう? こんな時に、なぜ私そんなこと――――――。




