地下空間
食われた……のか? ここは胃の中か? ……いや、それにしては窮屈だ。口か?
ゴオォォという音と、ベタベタと体中にまとわりつく粘液の不快な感触で、ガレスは薄目を開ける。が、真っ暗で何も見えない。
「うっ……」
「ナイトか? 無事か?」
「あ、あぁ。食われたのか俺たち。まだ死んではねぇみたいだな。……ん? なんだこりゃ! べっとべとじゃねぇか、気持ち悪ぃな!」
「おそらくここは奴の口の中だろう」
「あ? 腹ん中じゃねぇのか? まぁいい、どっちにしても俺が中から掻っ捌いてやる! こんなバケモンの腹の足しになるのはゴメンだからな」
カチャリとナイトが剣に触れる。
「待て、ナイト」
「あぁ!? なんでだよ? こいつメシがなんとかって言ってたじゃねぇか! このままだと全員クソになって終わりだぞ!?」
「いいから待て! 食うにしては様子がおかしいと思わないか? 完全に飲み込まれてはなさそうだし、外はすごい音だ」
どこかを移動しているのだろうか、轟音が先程から鳴り響いている。
「あぁ!? 食わねぇならどうするつもりだよ? 分かんねぇよ、どうすりゃいいんだよ!?」
「……様子をみる」
「あ、あぁ……、お前はバケモンん中でも冷静なんだな……。もう俺はわけ分かんねぇよ。あっ! おい、ルナはどこだ!?」
一緒に吸い込まれたはずだが、ルナの声はしなかった。
「気を失っているのかもな……。!? 動きが止まったぞ」
鳴り響いていた轟音と激しい振動がピタリと止んだかと思うと、突然目の前が明転し、数メートル先にごつごつとした地面が飛び込んできた。
「!?」
「う、わあぁぁぁ――!!」
ガレスとナイトの体は、重力に逆らうことなく、ずるりという嫌な音を立てながら硬い地面へと落下していった。
「……痛っ!」
体に伝わってくる冷気と、ズキズキとする頭の痛みでナイトが目を覚ます。
なんだ、ここは?
黒い岩肌に付けられた松明が、パチパチ火の粉を散らしながらその空間を照らし出す。
ナイトの背丈の5倍はあるだろう高い天井と、荷馬車10台は優に入りそうなそこは、何者かの手によって掘削されたであろう広い部屋となっていた。
奥には様々な木の実や葉と、その食べかすが散乱し、この部屋の所有者の奔放な性格が窺える。さらにその奥は通路だろうか。アーチ型の暗闇の中を、松明の火が点々と続いている。
地下……なのか?
「おい! ガレス大丈夫か? 起きろ!」
横たわっているガレスの耳がぴくりと反応する。
「くたばってはねぇみたいだな」
「……誰がだ。どのくらい気を失っていた?」
「わかんねぇ、頭を強く打ったみてぇだ」
「ルナはどこだ!?」
ガレスは辺りを見渡すが、その異様な空間に彼女の姿はない。
「どこへ行った? バラバラになるなとか言っておきながら、あいつが一番はぐれてばかりだな……。ナイト、ルナを見ていないか!?」
「……」
「おい、聞いているのか? ナイト、ルナを――ナイト……?」
返事をしないナイトを不思議に思ったガレスが振り返ると、そこには瞳を見開いたまま青ざめた彼の横顔があった。
「ガ……レス……」
「おい、どうした?」
「なんなんだよ……この国は……。こんなん見たことねぇよ……」
岩の壁に向き合ったまま後ずさるナイト。
彼の視線の先、壁になっているはずのそこには、人の顔程の穴がぽっかりと開いていた。




