砂の塊
――――――20年前 地下――――――
「ガル、なんでおいら、人間食べる、ダメ? 骨かたい、でも、人間、必要。食べない、甲羅なくなる。森入れない、おいら、死ぬ」
「ダメだ、ドルモン。これからは人間は食うな。食えばいずれお前が奴らに殺される。食い物ならオレが採ってきてやる。そのかわりお前は人間を捕まえろ。」
「ガル、頭いい。人間、言葉、上手。おいら、むずかしい」
「オレが何のためにここまで言葉を憶えたと思う。ドルモン、お前はいつまで経っても下手だな。オレは奴らに殺される前に支配してやる。オレがジーグ界をデカくしてやる……!」
「おいら、昼、嫌い。太陽浴びる、溶ける、死ぬ。おいら砂まとう、太陽、こわく、ない」
「ドルモン、それはいい考えだな。この体質さえなけりゃ、この島も星もオレたちの手の中だったはずだ」
「ガル、ジーグの王様、なる。ドルモン、ガル、好き。人間、食べない。やくそく」
――――――――――
「おおっ! これが砂漠か! すげぇな、一面砂で向こうが見えねぇ!」
「ほんとだわ! 私も初めて! わっ、きゃあ! 目が痛いっ!」
「うっ、痛ぇっ!砂がっ……!」
森の木々がまばらになり、丈の短い草と砂が混じり合ったやわらかい地面の先には、広大な砂漠が姿を現した。ここは国土の東に位置し、海を渡ってくる強い風によって巻き上げられた砂が、まるで巨大な生き物のようにうねりながら渦を作り、ごうごうと吠えている。
はじめて見る砂漠に、ルナとナイトは大はしゃぎするも、風に乗ってくる砂粒に目をやられ、ぎゃあぎゃあと騒いでいる。
「お、おい、なんでガレスは平気なんだよ? 目ぇ痛くねぇのか?」
「オレはお前たちと違って睫毛が長いからな」
「クソぉ、今だけ馬になりてぇぜ」
「……しかし足元は非常に不愉快だ」
「あ?」
見ると、ガレスの細い脚はずぶずぶと砂に埋もれていく。
「……どっちもどっちだな……」
「ねぇ、こんな場所に本当に入口なんてあるのかしら?」
全員が考えていたであろう疑問を、ルナがぽつりと言葉にした。
「……」
「穴……、みてぇのはなさそうだな」
「アリジゴクのようになっている箇所があるかもしれないな」
「恐ろしいわね……、バラバラにならないようにしなきゃ。とにかく隈なく探しましょ」
砂嵐が吹き荒れる中、一向はなんとか少しずつ前に進む。スール橋完成前は、こんな所を商人たちが通っていたのかと思うと、彼らの仕事の過酷さがうかがえた。
「おい、なんだありゃ? 竜巻か?」
ナイトが指差す先に、砂の塊がちらちらと動いている。
「こっちに向かってくるわ。竜巻だったら危険よ!」
「ひとまず西へ折れるぞ。」
ガレスの指示に従い、方向転換した一行だが、やがてそんなことは無意味だったと気付く。砂の塊はまるで意思を持っているかのように、ルナたちが進む方向へぐるりと進路を変えたのだ。
「あれは竜巻なんかじゃないわ! 生きてるみたい! 私たちめがけてやって来てる!」
「まずいぞ! すごい速さだ!」
一行の目の前にまで迫ってきたそれは、とにかく大きな大きな砂の塊だった。全体はナメクジのような、イモムシのような形をしているが、その上体は起き上がり、上部には口なのだろうか、ぽっかりと大きな穴が開いている。
「おいおい、何なんだよこいつは!? この国はなんで変な生き物ばっかいるんだよ!」
「し、知らないわよ! どうしよう!? もう逃げきれない!」
「……まずいな、速い上にデカすぎる……!」
ブオォォォォォー!!
突然、すさまじい轟音と共に、大量の砂がその生き物の口から飛び散った。そして、
「人間、見いつけた! おいら、ごはん、もらえる…!」
と、ルナの耳にはっきりとそう聞こえた瞬間、2人と1頭の体は軽々と宙に舞い、さっきよりずっと大きく開いたその生き物の口の中へと吸い込まれていった。




