第三章 支配と平和 回想
金。それは俺がこの世で最も好きなものだ。
遊び、女、あらゆる贅沢……金さえあれば何でもできるだろ?
こんなことを言うと、親父は暴力男、お袋は飲んだくれの最低に貧しい家庭で育ったとか、実は信じられないくらい金があって、世の中を回してるような大富豪のお坊ちゃんだとか思われるかもしれねぇが、断じてそういうわけではない。
至って普通の、良くも悪くもない所の出だ。
まぁ、もう何年も親には会ってねぇが。
俺が幼い頃の親父の口癖は「強くなれ」の一点張りだった。親父は俺の手のあちこちから血が滴るまで毎日剣術を徹底的に教え込んだ。
「シュタイラの男が生きていくにはこれしかないんだ」
親父の言ってたことはあながち間違ってはいなかったな。
リューナと違い、シュタイラにはこれといった資源がない上に、強気で利己的な人間が多い。そんな国がやることといったら、武力で他を制圧することぐらいだ。まぁ、例えるなら、立派な樽に入った出来の悪いワインってとこか。
運良く政府の兵士になった俺は、腕を見込まれて早くに役人にまで上り詰めた。
だがそこで言い渡された仕事は何だったと思う?
政府の犬だよ。それも他国を嗅ぎ回る、な。
鉱石目当ての密入国なんてのは、命を晒しても大した金にもならない仕事の足しみてぇなもんだ。
金はきれいだろうが、薄汚れていようが、唯一信用できる。俺のこのクソつまらねぇ人生においてな。
あのガキん所へ戻ったのは、自分でもよく分からねぇ。さっさと帰って石を金に換えるつもりが、港の船の上で寝そべってたらどういうわけか面倒になっちまった。
リューナのバケモンの噂は知ってたさ。まさか本当にいるとは思ってなかったがな。
俺にも得体の知れないものへの単純な興味があったのかもしれない。
船の上の硬い板の上で、バカみたいにでかい月を見てたら、俺に取引を持ちかけた時のあのガキの妙にギラついた瞳が頭に浮かんで、離れなくなった。
あの瞳……、あんな瞳をかつての俺もしていた。
ほぼ洗脳に近い形で「強くなれ」と親父に言われ続けていた頃、剣を構えて立つ親父の向こう側に、俺は何か大きなものを確かに見据えていたんだ。
それが何だったのか、今では分からなくなっちまったが。
雨が止むのを待って、俺が森に入った時には、あの言葉を話すわけのわからん馬の姿しか見当たらなかった。全く、この国には妙な生き物が多いな。
虚の中で捕まってるガキの鎖を剣で断ち切った時、おかしな感覚がして自分で笑えたんだ。
しばらくここで首輪を外して走り回ってもいいかもなって。




