人魚と石
お題を提供してくださったあなたに、このお話をお捧げいたします。
――寒い……
身体の奥底まで突き刺すような冷たい水の中、一人の少年が小さな石を手に、カリカリと岩壁を削っていた。かつて、この岩壁を壊そうと、多くの仲間たちが挑んでは諦め、冷たい水の底へと消えていった。
「Ariel...Ariel...」
まるで譫言のようにささやきながらも、少年はか細い腕を懸命に動かし続けた。初めの頃はまだ元気で、ガチガチと大きく振りかぶりながら叩いていた岩壁は、今は少しくぼんでいる程度の変化を見せているが、それでもやはり向こう側へ貫通させるには先が遠過ぎた。
端から無謀なことは目に見えていた。それでも、仲間とともに協力し合えば何とかなると思っていた……今さら後に退くなんてとてもできない。自分は間違っていたのだと、潔く認めることができればどんなに楽か……
昔、少年は父からきいた言葉を思い返した。
――なぜ天使には男の人ばかりなの?
――それはね、神様が女の天使を隠してしまったからだよ。
――何で隠したの?
――人間が堕落してしまったからだよ。
――? だからどうして隠す必要があったの?
――それはね……人間が先に幸せになれないと、天使も幸せになれないんだよ。
――そんなのおかしいよ! 人間は人間、天使は天使じゃないか? 堕落したのは人間なのに、なぜ天使まで不幸にならなきゃいけないのさ?
――それは……
――もういいよ! 神様はどこに天使を隠したの?
――古くから人魚やらセイレーン、天女といった伝説があるね? 女性をかたどった人間を超越した存在。もしかしたら、それが女性の天使の正体かもしれないね。実に上手く隠している。
――なら! 僕が女性の天使を解放する。神の手から!
父親は何も言わずに少年を送り出した。それからどのくらい経ったのだろうか。今目の前にある岩壁の向こう側に天使は隠れているのだという。それで仲間たちとこうして……もう自分一人しか残ってはいないけれど。
彼方で美しい歌声がきこえる。
――Can't you hear me say ? The Lord will love you forever and a day...(私の言葉が聞こえませんか? 主は永久にあなたを愛されると...)
「who are you?」
そう尋ねると、女性の優しい声が返ってくる。
「I'm Ariel...」
――Ariel...Ariel...
まるでエコーのように響き渡る。悲しいほどに澄み渡った声で。
――あぁ、早く会いたい……
少年は手にしている小石で岩壁を削り続けた。
すみません。書いているうちに、人魚というより天使みたいになってしまいました(汗)
私、まだまだですね。
【Ariel=神のライオン(ヘブライ語)】
だそうです。
※同人誌『うさぎの短編集』にも収録されています。
詳細は活動報告を読んでください。




