go out of the window
ある中学生のお話。
この世には器用貧乏という言葉があるけれど、あいにく私は器用ではない。むしろ不器用貧乏だと、自らを嘲笑いながら雑巾を絞る。
放課後の掃除は班ごとに場所を割当てられ、毎日行うものであり、それが日本の小中高の常識だ。そのはずなのに……あの男子三人組は何の迷いもなくさぼる常習犯だ。席替えで新しく決まった班なのだが、まさかよりにもよってあの三人が集まってしまうとは、何か裏で手をまわしでもしたのだろうか。同じ班員の残り一名(女子)は現在不登校の真っ最中であり、実質、私はたった一人で清掃を行っている。まったくなんということだ。
担任は弱々しいメンタルのどうしようもない役立たずだし、他にはっきり注意する者もないので、致し方ないと言えばそれまでだが。
手洗い場のだだっ広い空間。その床を見下ろせば、見事な水たまりができあがっている。たぶん、私のいない間に、幼稚な男子たちが蛇口をひねって遊んでいたのだろう。困るんだよなぁ……濡れ雑巾一枚だけでは拭き取りきれないではないか! それでもやらなければ、どうせ私しかやる人はいないのだから。
――不器用貧乏。
床の水分をたっぷり吸い取って、ぽたぽた滴る水滴を手で受け止めつつ、水道で絞り直そうと立ち上がりながら、無性におかしくなって、また一人で静かに笑った。まわりには誰もいないから、怪しまれることもないと思って。
と、開いていた窓から突然、ソフトテニスのボールが入ってきた。水浸しの廊下の上でパインッと数回跳ねて止まる。案の定、水浸し。ざまあみやがれ、私は知らない。とか思いつつ、ボールを拾い上げて申し分程度に拭き取っている私は一体なんなのか。
今私が校庭に向かって投げたら、ボールを取りに上がってきた部員と行き違いになるかもしれないし、そもそもコントロールが良くないのであらぬ方向へ飛んでいってしまうかもしれない。仮に誰も来なくても、部活が終わったら取りに来るだろうか。とりあえず、ボールを窓際に置いておく。
「まあ、これぐらいで充分でしょう」
これでもかと気合いを入れて頑張ってみたが、廊下の雑巾がけにどれだけの時間をかけたんだ、私。だらだらやっていても仕方ないが、普通はもっと早く終わるものだ。でもそれ以前に一人しかいないのだから、決してだらだらしていたわけではない。と、一人ぶつぶつ独り言のように考える。
さて帰ろうかと、雑巾を掛けて手を洗っていると、向こうの階段から誰かが駆け上がってくる足音がする。あぁ、取りに来たんだなと振り返ろうとしたそのとき――私の脇を一人の男子がすり抜けて、開きっぱなしだった窓から勢い良く外へと飛び出していった。
軽々と窓枠をつかんで飛び越えるその姿は、スローモーションで私の頭の中に再生され、まるで映画の一コマを観ているような錯覚を起こさせた。だがしかし、ここは二階だ! 若気の至り? スタントマン気取りかよ!?
一瞬遅れてから窓の外へ顔を出したが、それから拍子抜けする。
――あぁ、そうだ。この窓の真下には昇降口の屋根があるんだった。おまけにその屋根の上に、よく球技のボールが乗っかったりするんだよ。偶然か故意かは知らないけど。
男子は屋根の上から下を見下ろして、そこにいる仲間に声をかけながら、次々とボールを落としていく。
「あのー、これもお願いします」
そう言って窓枠のソフトボールを手に呼びかけると、男子はこちらを振り返って無造作にそれを受け取った。
日常の中の些細な出来事。
続くようで続きません。
※同人誌『うさぎの短編集』にも収録されています。
詳細は活動報告を読んでください。




