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守り子唄

ある小学生の夏休み中の出来事。

 ――今日も来たんだ。悔しいなぁ、いつも先越されちゃう。

 二人きりの音楽室で、私はふてくされながらリコーダーを吹く。夏休みの宿題はあらかた片付いたが、どうにもこうにも音楽が大の苦手な私は、『グリーンスリーブス』が吹けない。休み明けの第一週目には、クラスメートの前で発表しなければならないのに……

 私の家は古いアパートで壁が薄いため近所迷惑になると、練習するなら学校でやりなさいと追い出されてしまって、仕方なくここにいる。

 ――せっかくの夏休みなのに、学校に行かなくてはならないなんて。行ったところで、友だちも誰もいるわけでなし。先生方と顔を合わせるのもなんだかなぁ。

 けれど、誰もいないと思っていた音楽室には、一人の見慣れない男の子がいた。絵本の中の王子様みたいなとてもきれいな男の子で、ピアノの前に座って、何だか物悲しい曲を弾いていた。

「二学期から三組」

 それだけ言うと、その子は坦々とした様子で曲を弾いて、最終下校の五時には帰った。

 それがもう三日は続いている。特に何を話すでもなく。というよりも、完全に存在を無視されていた。なんとなく彼から「話しかけるな」オーラが出ていた。

 それでも人間は、耐えきれないときがある。きれいな子が、きれいな曲を奏でていれば、話しかけたくもなると思う。

「ピアノいつも上手だね。それは何て曲だったの?」

 タイミングを見計らって、何気ないふうにきいてみた。でも無視されるだろうなと感じた。そうして、なんて嫌なやつなんだろうと、そう思ったところで――彼と目がカッチリ合ってしまった。ものすごくドキドキする、きれいな目だった。それはまるで陽炎かげろうのようにはかなげに揺れていた。

「竹田の子守唄」

「へぇ? 子守唄って、ねんねんころりよ おころりよ しか知らないなぁ、私」

 何の考えもなしに答えた私に、彼は鼻で笑った。正直カチンときたけれど、それを抑えておくびにも出さなかった私をほめてほしい。

「でもさっきのは、子守唄って感じじゃないね。きれいなんだけど悲しいような……あと、なんとなく恐い感じ」

「子守唄って言うよりも、守り子唄だから」

 一瞬垣間見た、人を嘲笑うような笑みは跡形もなく消え、気味悪いくらいに無表情の顔がしゃべる。

「口減らしのために奉公に出された子どもが、赤ん坊をお守りする。雪がちらつく中でも、盆が来ても、ひたすら泣き止まない赤ん坊のお守り。やるせない気持ちを込めた、恨みの唄だよ」


 彼と私は、それ以降会話をすることはなかった。関わりたくもないと思った。まるで、この世にいるのにいないような、気持ちの悪い子。

 明日からは教室で練習することにしよう。


『竹田の子守唄』って放送禁止歌だったのですね。歌詞内容はさて置き、きれいな歌だなと思います。

でも元唄はいかにも恨み言って感じで、暗くて恐い雰囲気の唄だなとも思いました。

この子が弾いたのは両方です。


※同人誌『うさぎの短編集』にも収録されています。

詳細は活動報告を読んでください。

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