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テダナダ

これは私自身の体験と、人からきいた体験をもとに創作しました。

若干長いです。


 理誉りよは幼い頃から、日曜日には教会に行くのがいつの間にか習慣になっていた。せっかくの休みなのに、他のみんなみたいに遊べないで、ただお話をきいて時間がなくなっていくのは嫌だなと思っていた。持参した聖書は大きくて、文字も小さくて、振り仮名は振ってあっても内容はちんぷんかんぷんなので、それも嫌だった。

 唯一の楽しみは、礼拝の終わりに好きな飴をもらって帰れること。でも、その習慣さえもいつの間にかなくなってしまっていた。

 礼拝中にお話をしてくれる説教者の大人は、理誉が小学校を卒業するまでに幾人も変わっていった。うっかり寝てしまったときには「起きろ」と怒鳴られることもあれば、椅子の上で行儀悪く体育座りをしていたら注意されたこともあった。

 とにかく日曜日が嫌いだった。


 中学になったあるとき、面白い説教者が来た。とにかく話が面白くて、今までの退屈な説教は何だったのかというくらい、礼拝が楽しいと思った。その人は在日コリアンで、興奮状態になるとハングルがぽろっと出てくることがあり、それも面白かった。

 またその説教者は歌が好きで、よくみんなで賛美歌を歌った。あるときは、説教中に一人を指名して、何か一曲歌わせることもあった。

 理誉はソロは苦手だったが、中にはとても上手に歌う人もあって、そのときにはみんなで盛大な拍手をした。

 しかし、二年目の夏休みの終わりに説教者が変わることになってしまった。今日で最後という日、大サービスで五人も歌う人が指名された。理誉はその中には含まれなかったので、「何を歌おうかな」と考えて用意していただけに、結構がっくりしていた。

 指名された人たちは上手い下手関わらず、とても心を込めて歌っていた。中には涙を流しながら熱く歌う人もあって、思わず聴いているほうも目頭が熱くなった。

 五人目が終わったところで、説教者が「さて……」と立ち上がろうとしたとき、何か思うところがあったのか動きが少し止まり、「もう一人、大大大サービスで歌ってもらいましょうかね」と言った。

 そして指名されたのは、見かけない顔の大人しそうな女性で、まわりから指名されたことを教えられて、喜びと興奮と緊張からか頬がほんのり赤くなっていた。

 立ち上がった彼女は――――はっきり言って聴くに耐えない音痴だった。「え? 何? 何歌っちゃってんの?」というくらい下手くそだった。不謹慎ながら、「早く終わらないかなぁ」と思ってしまうくらいに。

 しかしその女性が歌い終わると、思いがけず盛大な、割れんばかりの拍手が起こった。その中で説教者が「下手くそー!」と大声で叫びながら泣いているのが見えた。理誉は訳が分からず、ただまわりにあわせていつまでも拍手をしていた。


 親しい教会のお姉さんに、詳しい事情をきかされたのは高校生のときだった。

 あのとき説教者が叫んだ言葉は「下手くそ」ではなく「テダナダ(素晴らしい)」というハングルだったこと。そして、あの恐ろしく音痴だと思っていた女性が、実は耳が聞こえない人で、それでも説教者に感動してもらいたい一心で、頑張って歌っていたのだということを。

 当時の事情を知らなかったとはいえ、下手くその一文字で片付けてしまった理誉は、彼女の歌をもう一度聴けたら良いのになと思った。


韓国にはクリスチャンが多いそうですね。

道路を走ると道行く道に教会が立ち並んで、十字架がよく見えるとか(笑)

そういう豆知識。


※同人誌『うさぎの短編集』にも収録されています。

詳細は活動報告を読んでください。

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