22 授業を受ける神さま
商業科の授業はタイヨー君にとって興味を示す話ばかり。
まだ見ぬ地に思いを馳せます。
そんなタイヨー君との時間をロキシー王女は愛おしく思います。
スコット君をめぐって繰り広げられた、男子生徒達との争いと、女子生徒達との争いが基礎科で盛り上がっていた頃、商業科では淡々と授業が進んでいました。
こちらでは恋愛事情での揉め事はありませんよ。
なにしろ最初の自己紹介でロキシー王女はタイヨー君の事を婚約者と堂々と公表したのですから。
生徒の年齢層もまばらですしね。
皆さん大人なんです。
なので当然授業態度も皆、真剣です。
今は隣国のチロリア王国について勉強しています。
バートン王国と隣接しているチロリア王国とは貿易が盛んです。
商業科では、まず最初に勉強しなくてはなりません。
しかし以前は、その取引きの闇に紛れて人身売買が行われていた事をロキシー王女は訪問した際に知り、まさに命懸けで当時の領主を断罪しました。
そのおかげで今は以前のような人身売買は無くなり、真っ当な取引きを行なう良き隣人となったのです。
「いつかチロリア王国にも行ってみたいね。」
「そうですわね。」
東のチロリア王国を除く3方向は、北は海、南は火山地帯、西は深緑の森と囲まれており、その先との交流はありません。
しっかり勉強して、いつかは深緑の森の向こう側にも行ってみたいと思うタイヨー君でした。
しかしロキシー王女は少々抵抗があるようです。
「深緑の森を越えた場所には宗教色の強い国があるそうです。交流がないので詳しくは知らないのですが……。ただ今の女神騒動が落ち着くまでは、あまり関わりを持ちたくありませんわ。」
確かにそうですね。
わざわざこちらから出向いて事を荒立てるような事はしたくありませんね。
「まぁまだ学校も3年あるし、他国の前に自国をもっと見て回りたいしね。行くとしてもまだ先の事だよね。」
授業の内容は取引されている品についての話に移っています。
バートン王国から輸出される品では、やはり冷却容器とドワーフの鉄工品が人気のようです。
以前ロキシー王女が訪問した時にも聞いた話です。
最近では改良されたお酒入りの冷却容器が人気があるようです。
「あ!あれですね。以前、お酒を入れて南部の温泉街に売りに行った時の容器ですね。」
「そうだね。あれは評判良かったもんね。」
中身をキンキンに冷えた状態に保つ、樽に蛇口を付けたような容器。
その中にビールを入れれば、いつでもよく冷えたビールを提供できる優れもの。
それが温泉街で売れない訳がありません。
北部の街でも積極的に作成しているようです。
きっと儲かってウハウハでしょう。
思い付きで作ってもらった品が皆に受け入れられて、タイヨー君も嬉しく思いました。
授業は変わり、今度は動物の生態について勉強しています。
商業組合ではハンター達が仕留めた動物や魔獣を持ち込んで、買い取ってもらうという取引があります。
商業組合ではどういった魔獣達を希望しているのか?その魔獣のどういった部位を欲しているのか?等を学びます。
商業組合に就職したい者は真剣に聞いています。
また卒業後にはハンターを目指す者もいます。
狩りの時に素材を傷めることなく捕まえて高値で買い取ってもらう為に必要な知識、狩猟する際の魔獣の危険度や狩猟法等も学びます。
なお、これについては狩りの技術が伴うので、経験を積むために狩猟体験も行います。
この世界を観察したい為に地上に降りた創造神のタイヨー君。
この学びの場所では、世界の事をいろいろ知ることができ、とても勉強になります。
ここで学べる事は何でも吸収して知識を蓄えたうえで実際の世界を見て回りたい。
タイヨー君は、とても楽しく授業を受けていました。
ロキシー王女も、今まで勉強してきた事とは全く違う内容を知ることができ、とても新鮮な気持ちで日々学んでいます。
でもロキシー王女は、楽しそうに勉強しているタイヨー君を見ているだけで、とても幸せな想いをしていました。
今までの王女としての生活では、決して味わうことのできなかった普通の少女としての人付き合いや恋愛を、今この学校生活で初めて味わっています。
毎日が楽しくて、とても満ち足りているのでした。
学校から帰宅すると、スコット君がやや疲れた表情をしています。
「学校で何かあった?」
タイヨー君が聞くと、
「じつは、この前はアトミックと仲が良い事を妬まれて男の子達に囲まれちゃって……それは解決したんだけど、今度はなんか女の子達に囲まれて……アトミックが言うには、スコットならそうなると思ったと言われたけど僕にはよく分からなくて。とりあえず『今、好きな子がいる』って言っとけば大丈夫って言うから、大好きな子がいるよって話したんだけど、そしたらまた大騒ぎで……何がなんやらよく解らないよ。」
とスコット君が学校での出来事を話しました。
するとロキシー王女が、
「え?スコット君は大好きな人がいるのですか!?」
と、何だか食いつき気味に聞いてきました。
クラスの女子と同じ反応です。
「え?いるよ。フラックスが大好きだよ。」
とスコット君が答えると、ロキシー王女は明らかに落胆した顔になりました。
「好きな人と言うのはちょっと違ってですね……」
と言いかけたところで、ユキ様が割って入りました。
「じつはその女生徒達の中には、純粋にスコット君に興味を示している子も入れば、スコット君と仲の良い王子との親交を深めたいとか、戦力としての利用価値として興味を示している子もいるのです。そこで機転を利かせたアトミック王子が、フラックスちゃんの名前を出さないようにして好きな子がいると言うように誘導したんですよ。王子は中々大した子ですね。」
ユキ様が微笑みながら答えました。
「子供でも女の子は怖いですね……」
ロキシー王女は、ため息混じりに言いました。
向こうではフラックスちゃんが、
「私もお兄ちゃん大好きー!」
と言いながらスコット君に抱きついていました。
「フラックスちゃんも来年は基礎科に入学ですけど、その前に名前が知れ渡っていそうですね。」
面白い事が大好きなユキ様の目がキラリと光りました。




