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「日和や――日和や」
あれ。じいちゃん。
「またきたのか」
一面のお花畑に囲まれ、歯の抜けた口が笑う。
じいちゃん、また入れ歯わすれたの?
「ここには入れ歯なんていりゃーせん」
あ、そっかー。しゃべれるなら別にいらないよねー。
「それより、ほれ。ひとつ食べい」
差し出してくれた赤い木の実を日和は受け取った。
これ何? サクランボ?
「甘くておいしいぞー」
へー。甘いんだー。
「ぐっといけぐっと」
おわっ! そんな押しつけないでよ!! オレにも心の準備が!!
「そんなのいりゃーせん」
いるよ! 無茶苦茶いるよ! お腹下したらどうすんだよ!
「漏らしても大丈夫」
なにをだよ!
「ええから食え」
いらん!
「孫のくせにじいに逆らうか!」
昭和の人間とは価値観が違うんだよ! 平成生まれには基本的人権ってものがあるんだ!!
「知らんわ!!」
いらんわ!!
「おのれ孫、反抗期か!?」
赤子のころからいつかは決着をつけなければならないと思っていた。
「若輩者が、ワシに勝てると思うてか!!」
フッ、年寄りの冷や水という事実を思い知らせてやる!
「勝負じゃ!!」
望むところよ!
「ワシは十のころに隣のお姉さんとつきあっていた」
……え?
「士官学校の頃は毎夜女を連れ込んではせっせと子作りに励んだものよ」
…………え?
「戦争から還ってきた後、英雄と祭り上げられて手当たり次第に女子のいる家を強襲」
…………。
「ときには未亡人ともやった」
それは……時代を考えるとひどくないか?
「さびしさの代用品」
エゲツねえ。
「付き合った女は200を越えたのう。若さとは無茶と同義語じゃった」
ほ、ホントなのか……?
「ほれ、次はオヌシの番じゃ」
勝負って女性遍歴かよ!!
「ワシの唯一の自慢じゃ」
死ねよ!
つーか、完全なジゴロじゃねーか!
「ワシャもう死んどる」
もう一度死ねよ!!
「ホレ、オヌシの番」
く…………
「ワシの孫だけ会って、それはもう盛りのついた馬のごとく手当たり次第なんじゃろ」
へっ……
「まさか高望みして一生一人の女に付いてまわるとかいいはしまいな」
くっ……!!
「やめておけ。女ならいくらでもおる」
オレは……
「高嶺の花には縁がない顔じゃ」
こ、このジジイ。
てめぇの孫だろうが。
「血のつながったじいちゃんゆえ、ワシには分かるのじゃ」
ばっかやろー!! 人生いつ逆転チャンスが起きるかかんねーんだよこのハゲ!!
「さびしいオヌシの老後が見える」
生々しいこというなよ!!
「日和、これだけはいっておくぞ」
ちくしょーーー!! 絶対幸福になってやるーー!!
「オヌシには女難の相が出ておる」
あえか様をいつかあえかと呼んでやるぅ!!
「ムリじゃな」
真顔で答えるんじゃねえクソジジイ!!
頑張れ日和。負けるな日和。
いつか師匠を『あえか』と呼び捨てできるまで。




