第6話:雑務『よく詰まる自販機』
「.....あー、無くなった。」
夜の9時半少し過ぎ、ソファに深々と身を沈めた黒江は
空になったマッ缶をローテーブルの上に放り投げた。
乾いた金属音が室内に寂しく響く。
「いい加減甘ったるいのやめて、お茶でも飲んだらどうです?
.......それよりも私、そろそろ補導されちゃう時間なんで帰りますね。
知ってました?22時過ぎたら高校生は補導対象なんですよ?」
デスク上の書類整理を終えた茜が、鞄を抱えて呆れたように立ち上がる。
「......うるせぇな知ってるよ、マッ缶は脳の栄養補給だ。
途中の自販機まで付き合えよ、それならギリ補導されねぇだろ。」
黒江はボロボロのサンダルを突っ掛けると
ジーパンのポケットで小銭をジャラジャラと鳴らした。
「えぇ~......労働基準法って知ってますか...?ま、いいですけど。
ついでに私のお茶も買ってくださいよ~!!!」
茜は文句を言いながらも帰り支度を済ませ
勝手に黒江の上着を羽織り、事務所の扉を開ける黒江の後を追った。
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ぬるい湿気が満ちる高架沿いの暗い路地。
ぽつんと不気味な蛍光灯を明滅させている古びた自販機の前に
2人はたどり着く。
黒江が小銭を何枚か投入口に入れた瞬間
『チャリ.....カコン』と不気味な鈍い音が届き
目的のマッ缶のランプも、お茶のランプすらも点灯しなかった。
返却レバーをガチャガチャと弄っても、入れた金は一切戻ってこない。
「えー?また呑まれたんですか?
この自販機、前にも小銭詰まってましたよね。」
隣に居た茜が呆れたようにため息をつく。
黒江はポケットに手を突っ込んだまま、返却口の奥を鋭い目で見つめた。
暗がりの中、返却口の奥からウネウネと蠢く漆黒の粘液体......
『無形の落とし子』が、小銭を味わうように蠢き
あろうことか隙間から這い出てこようとしているのが見えた。
茜に見せるわけにはいかない、説明も駆除後の言い訳も面倒だ。
「.......茜。」
「はい?どうしました?」
「...........私が管理会社に電話しといてやっから。
向こうの自販機かコンビニで、マッ缶と自分の分好きに買って来い。」
そう言って、黒江は千円札を茜の手に押し付ける。
「えっ、電話してくれるんですか!?
黒江さんがそんな気の利くことをするなんて......珍しい。」
「私を何だと思ってんだ、さっさと行ってこい。」
「ダメ人間に決まってるじゃないですか。
すぐに買ってきますね!」
茜はそう毒づきながらも素直に千円札を受け取ると
小走りで角の向こうへ消えていった。
茜の姿が見えなくなったのを確認し、黒江はスマホを取り出す....フリをして
後ろポケットにある【S&W M686】を引き抜いた。
「........じゃあな、無銭飲食。」
返却口からウネッと這い出てきた黒い粘液塊の頭部らしき場所へ
M686の銃口を突っ込みトリガーを引く。
.....ドガァァン!!!
大音響と共にマグナム弾が放たれるが、黒い粘液は
バシャリと形を変えるだけでダメージを受けた様子がない。
「......あぁ、そっか。
お前らは物理攻撃効かねぇんだったな、忘れてた。」
黒江は全く動じることなく、銃口の向きを変えた。
狙うは返却口ではなく、自販機の中央から少し右側....高電圧の電源ユニットと
複雑な配線が詰まった基板エリアだ。
「......ならこっちだな、悪い悪い。
頭に糖分が回ってないもんでな。」
ゼロ距離で基盤目掛け、容赦なく2発目を叩き込む。
.......ドガァァン!!!!
内部メカが粉砕された瞬間、バチバチバチッ!!!と
激しい青白いスパークと高電流が自販機全体を駆け巡った。
「ギシャアアアァアアァッ!?」
自販機の鉄板を覆っていた無形の落とし子は
漏電した高圧電流を全身に浴びて、狂ったようにのたうち回る。
数秒もしないうちに、黒い煙を上げて焦げカスとなり
跡形も無く蒸発した。
ショックで内部のラックが壊れたのか
ガラガラと音がして、排出口にマッ缶がコロッと落ちてくる。
「......入れた分は貰うからな。」
黒江がマッ缶を拾い上げたタイミングで
角の向こうから缶ジュースの袋を持った茜が、青ざめた顔で走って来た。
「く、黒江さん!?何ですか今の爆発音!?
って、自販機が丸焦げ....煙も吹いてますよ!?」
「.......返金レバーを強く叩いたら壊れた、内部回路がショートしたんだろ。
昭和~平成初期の機械は叩けば直るが、最近のはヤワだな。」
「叩いた壊れ方じゃないですよ!!
ていうか黒江さん、管理会社に連絡するんじゃなかったんですか!?」
「あー.......電波悪くてつながらなかった。」
黒江はスマホを適当に弄るフリをしながら
プルタブを開けてマッ缶を煽り、タバコに火をつけた。
「茜、代わりに電話して『雷落ちて自販機壊れた』とか言っとけ。」
「無茶苦茶言わないでくださいよ!!びっくりするほど晴れてます!!!」
茜の悲鳴を背に受けながら、黒江は紫煙を夜空に吐き出し
事務所へ向かってダラダラと歩き出すのだった。




