第5話:雑務『深夜の買い出し』
「.....チッ、切れたか。」
深夜2時、事務所のソファで
黒江は空になった煙草の箱を軽く叩いた。
ついでにローテーブルの上に置いてある缶コーヒーを持ち上げるが
こちらも空っぽになっており、軽い。
茜はとっくに自宅へ帰り、静まり返った室内。
黒江は鬱陶しそうに頭を掻くと立ち上がり
ボロボロのサンダルを突っ掛けて事務所を出た。
外はしとしととぬるい湿気が満ちている。
高架沿いの暗い路地をダラダラと歩き、街灯の光がぽつんと灯る
24時間営業のコンビニを目指す。
ウィーン.....と自動ドアが左右に開く。
だが店内に踏み込んだ瞬間、黒江の鼻腔を不快な生臭さが突いた。
店内の照明がチカチカと不気味に点滅している。
BGMの代わりに響いているのは、ハチの羽音を
何倍にも増幅したような、頭の奥を削る不快な高周波だ。
レジの奥では、学生らしきバイト店員が白目を剥き
人形のように固まっていた。
「.....おーい、やってんのか?」
黒江は気にした風も無く、陳列棚の通路を歩いていく。
冷ケースからマッ缶を2本掴み、レジへ向かおうとした時
それがヌッと姿を現した。
体長2メートルを超える、甲殻類と巨大な昆虫を混ぜ合わせたような異形。
頭部には目も口も無く、不気味に蠢く無数の肉質触手が渦を巻いている。
ユゴスより飛来せし外来の怪異....『ミ=ゴ』だ。
ミ=ゴはハサミ状の前脚をカチカチと鳴らし
羽根を高速振動させながら黒江の前に立ち塞がった。
肉質な触手がウネウネと蠢き、黒江の脳髄を狙って距離を詰めてくる。
黒江は缶コーヒーを左手に持ち替え、死んだような目でミ=ゴを見上げた。
「.....邪魔だ、どけよ。
レジ打てねぇなら引っ込んでろ。」
ミ=ゴが甲高い威嚇音を上げた瞬間。
黒江はジーパンの後ろポケットから【S&W M686】を滑り出させ
迷いなく銃口を突き付けた。
渦巻く触手の中心....ミ=ゴの顔面へ、ゼロ距離で押し付ける。
.......ドガァァン!!!
狭い店内に、雷鳴のような大音響が炸裂した。
.357マグナム弾の衝撃波がミ=ゴの頭部を内側から吹き飛ばし
緑色の粘液と甲殻の破片がポテトチップスの棚一面にぶち撒けられる。
「ギシャッ.........!?」
巨体がガラガラと商品棚をなぎ倒しながら崩れ落ち
ぴくぴくと痙攣した後に動かなくなった。
シリンダーから立ち上がる硝煙。
黒江は慣れた手つきで空薬莢を排出し
ポケットに銃ごとまとめて突っ込んだ。
「ひぃっ.....!!!」
銃声の爆音で正気に戻ったバイト店員が、腰を抜かして震えている。
黒江はレジカウンターへ歩み寄ると、マッ缶を置き
千円札と小銭をジャラジャラと出す。
「.......これと、あと12番2つ。
それとデケェゴキブリが出やがったぞ。
向こうの棚にブッ倒れてるから掃除しとけ。」
「ゴ、ゴキ.....え?あ、商品こちらです.....。」
「釣りは要らねぇ、じゃあな。」
店内を出た黒江は、マッ缶のプルタブを引きゴグゴグと喉を鳴らした。
ついでに買ったタバコを咥え火をつけ、紫煙を夜空へ吐き出す。
「.......ったく、対処できねぇなら
深夜まで営業してんじゃねぇよな。」
帰り道へ向かってダラダラと歩き去る黒江の後ろで
コンビニの自動ドアが静かに閉まるのだった。




