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街は今日も平和です~神楽坂探偵事務所の邪神駆除日記~  作者: みやなぎさん


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第4話:依頼『ストーカー被害』

「......で、誰かに見られていると。」


探偵事務所の応接セット。

黒江はソファーに深く腰掛け、目の前で怯える制服姿の女子生徒を

相変わらず死んだような目で見つめていた。


「は、はい........ここ数日、塾の帰り道とか

 高架下の通りを歩いていると、ずっと後ろから誰かに

 じっと見られている気がして..........振り返っても、誰も居なくて。」


「.....ケーサツ行けよ。」


「行きました!!!行ったけど『実害が無きゃ動けない』とか

 『巡回を強化する』とか言って結局変わらなくて......。

 茜ちゃんに相談したら、ここを紹介してくれて。」


依頼人は茜と同じ高校に通う同級生だ、不安そうに鞄の紐を抱きしめている。


「そうなんです!私の友達が困ってるんですよ!!!

 警察が頼れないなら、私たちが犯人を捕まえてあげないと!ねっ!!」


「......私はボディガードじゃねぇぞ、他当たれ。」


「ちゃんと報酬も出します!私の今月のお小遣いも足します...!」


机の上にジャラジャラと置かれた、小銭と千円札の山。

黒江はタバコの煙をぷかぷかと吐き出し、深くため息をついた。


「.......送るだけだぞ、家に着いたら解散だ。」


──────────────────────────────


すっかり日が落ちた夜の街並み。

頭上を走る高架線から、定期的にガタゴトと電車が

重い響きを立てて通り過ぎていく。


茜と依頼主が並んで前を歩き、その10メートルほど後ろを

買い出し袋を下げた黒江がダラダラと歩いていた。

3人は高架下の陰が伸び、街灯の光も届きにくい薄暗い路地に入っていく。


(........チッ、空気まで湿ってきやがった。)


黒江は歩みを緩めず、ふっと目を細めた。

高架下のコンクリート、不自然な影.....人間ではない

異様な気配が漂っていた。


漆黒の陰の中から、ギチギチと音を立てて浮かび上がる

無数の不揃いな眼球と不気味な触手。

『百万の恵まれたるもの』.....無数の目を煌めかせ

影から人間を品定めするナイアルラトホテップの眷属だ。

2人の背後をじっと見つめ、粘着質の触手の忍ばせようとしている。


黒江は買い出し袋を小脇に抱えると、死んだ目のまま

すれ違いざまにヌッと身体を異形の横へ割り込ませた。


「......よう、コンニチワ。」


異形が無数の眼球を一斉に黒江に向け、甲高い威嚇音を上げようとした瞬間

黒江はジーパンの後ろポケットから、慣れた動作で

【S&W M686】を引き抜いた。


異形の中心核....無数の眼球と触手が蠢く黒い肉塊の内部へ

M686の銃口を直接突き付ける。


..........ドガァァン!!!


高架下に轟く、鼓膜を打ち破るような大音響。

.357マグナム弾の衝撃波が異形の肉体を内部から破裂させ

不快な紫色の粘液が壁一面に撒き散らされた。


「ジュギャッ.....!?」


「二度と関わるなよ、見てんだろニャル。」


黒江は間髪入れずにトリガーを何度も引き絞る。


......ドガァン!ドガァン!


至近距離での連射。

異形は悲鳴を上げる暇すらなく核を完全粉砕され

ただの生臭い液体となって高架下の、影の中に溶けて消え去った。


シリンダーから立ち上る硝煙。

黒江が手慣れた手つきで空薬莢を排出し

ポケットに銃を放り込もうとした、その時.......


「く、黒江さんっ!?またそれ撃ちましたよね!?

 今度こそ事件になっちゃうじゃないですかあ!!!」


両手で耳を塞ぎながら、茜と依頼主が悲鳴を上げて駆け寄ってきた。

暗がりの中でタバコの煙を吐く黒江、硝煙を上げる銃

そして、壁にへばりつく謎の不快な液体。


「何があったんですか!?何撃ったんですか!!!」


茜が半狂乱で詰め寄ってくる。

黒江は死んだ目のまま、買い出し袋からマッ缶を取り出し

至極当然といった顔で口を開いた。


「........あ?いや、物陰に怪しい奴がいたんでな。

 『コンニチワ』つって、クラッカーを威嚇で3発ほど。」


「3発も威嚇で撃っていい音じゃないですよ!!!

 っていうか、不審者相手にそれ使うのアウトじゃないんですか!?」


「効果は抜群だったぞ、ポケモンなら4倍弱点だ。

 『二度と関わるな』つったらビビッて一目散に逃げてったわ。」


「ウソ!絶対にウソだ!!

 壁に怪しい液体がベッタリ付いてますもん!」


「不審者がビビッて漏らしたんだろ、汚ぇな。」


黒江の適当すぎる言い訳に茜が白目を剥いていると

怯えていた依頼主がハッと息をのんだ。


「あ.....あの、なんだか急に

 ずっと感じてた嫌な視線と寒気が....消えたかも.....!」


「ほーらみろ、ビビって逃げたんだよ。

 二度と来ねぇから安心して帰りな。」


黒江はマッ缶のプルタブを引き、ゴクゴクと音を鳴らした。


「.......よし、依頼完了だ。

 茜、友達送り届けたら事務所戻るぞ。

 危険手当とクラッカー代、請求書に上乗せしとけ。」


「ちょっと黒江さん!?適当な誤魔化しが効くほど

 私は子供じゃないんですけどーっ!?」


高架下に茜の叫び声がむなしく響く中

黒江はタバコに火をつけ、夜の街をダラダラと歩き出すのだった。

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