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街は今日も平和です~神楽坂探偵事務所の邪神駆除日記~  作者: みやなぎさん


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2/12

第2話:依頼『浮気調査』

「.....で、これが夫の写真です。」


神楽坂探偵事務所の応接セット

ソファーに深く腰掛け、缶コーヒーの缶を弄んでいた黒江の前に

やつれた表情の女性が写真を差し出した。


「ここ最近、夫が夜な夜なコソコソと出かけていくんです。

 行き先を聞いても濁すばかりで.....毎晩のように川沿いの

 古い貸倉庫に通っているみたいでして........。

 絶対に女と会っているに違いないんです...!!

 どうか.....どうか証拠を押さえてください!!!」


黒江はタバコの煙を天井に向けて吐き出し、死んだような目で写真を見る。


「浮気ねぇ.......奥さん。

 そんな男とっとと離婚届突き付けて

 泥沼の慰謝料請求大会でも開きゃ終わりじゃねえの?」


「黒江さんっ!!!お客様に失礼ですよ!!!」


お茶を出していたバイトの茜が、横から小さく肘で脇腹をついてくる。


「お願いです....!着手金はお支払いしますから!

 証拠を持ってきていただければ成功報酬だって...!!!」


依頼人はそう言って、テーブルの上に厚みのある封筒を差し出した。

黒江はタバコを咥えたまま、ちらりとその封筒に目をやる。


「.....茜、それで家賃払えるか?」


「えっと....余裕ですよ!滞納分まで払ってもおつり出せます!」


「.......はあ、分かったよ。

 証拠写真の1つや2つ、撮ってくりゃ良いんだろ?

 それで......旦那さんが出掛ける頻度は?」


黒江は依頼を受ける事にし、詳しい事を奥さんから色々聞きだした。


──────────────────────────────


深夜1時頃、河川敷。

該当もまばらな川沿いは、湿った夜風が吹き抜けて肌寒い。


黒江はオーバーサイズなパーカーのポケットに両手を突っ込み

タバコを咥えながら指定された古い貸倉庫の陰に身を潜めていた。

しばらくすると、コソコソと周囲を気にしながら歩いてくる1人の男

依頼人の旦那の姿が見えた。


(.......黒っぽいな、とっとと写真撮って帰るか。)


黒江が胸ポケットから薄型のコンデジを取り出そうとした、その時

倉庫の陰から、ぬめりとした光沢をもつ『何か』が数体

ぬっと姿を現し、倉庫の中へ入っていく。


2足歩行の蛙か魚のような胴体、ぬめり気を帯びた皮膚

飛び出た濁った眼玉.......。

『深きものども』と呼ばれる、本来なら

目撃しただけで正気を失うレベルの異形だ。


だが旦那は恐怖する様子も無く、その魚人達と親し気に身を寄せ合っている。

黒江は吐き捨てるように溜息をついた。


「.....あーあ、浮気どころじゃねぇなあ。

 なんだ?あの生臭い集会は。」


夜風に乗って漂ってくる塩臭さと魚の生臭さに、眉間が深く寄る。

ただでさえ気乗りしない夜更かし仕事だというのに

タバコの味が不快なにおいで台無しになった。


黒江は右手をジーパンの後ろポケットに滑らせる。

金属の冷たい質感、重厚なフレームを持つ【S&W M686】

そのグリップを握り込み、そのまま引き抜いた。


「おう、じゃますんぞ。」


黒江は隠れるのをやめ、銃口をだらりと下に向けたまま

ペタペタと倉庫の入り口へ歩み出た。


「何してんだ?魚もどきがンな所で。

 こっちは浮気現場を抑えに来たつもりなんだがあ?」


突然の来訪者に、全員が困惑し黒江の方へ向き直る。

黒江の手に握られた重厚な鉄塊に気付いたのか

魚人たちが「ギギッ...!」「ジ、ジュー.....!?」とたじろぐ。


「....ま、待ってくれ!撃たないでくれ!!!」


旦那が必死に黒江と魚人の間に割って入った。


「話し合えばわかる!彼らは悪い奴じゃないんだ!」


「.......あぁ?」


死んだような目で旦那を見下ろし

親指でカチリとM686のハンマーを起こした。


「催眠かなんかされたか?

 こっちはオマエの浮気を調査しに来てたんだ。

 違うなら用はねぇよ、下がってろ。」


「ち...違うんだ!僕たちは.....!

 この川のゴミ拾いをしてるんだよ!!!」


「.........はぁ?」


黒江の手が止まる。

見れば、魚人たちの足元には指定のゴミ袋と

長めのトングが数セット転がっている。


「近頃、この河川敷に不法投棄が多くてね.....。

 彼らも住処の川が汚れて困っていたんだよ、でも昼間にこんな姿で

 出歩いていたらパニックになるだろう?だから夜な夜な集まって

 僕と一緒に川沿いの掃除をしていたんだよ!」


「.............。」


「......我らは、ただ、住処を清めたいだけだギョ。」


魚人の1体が、申し訳なさそうにトングで空き缶を拾い上げ

ゴミ袋にポイと捨ててみせた。


静寂が流れる。

夜風がすうっと吹き抜け、ゴミ袋がカサリと音を立てた。


黒江はゴミ袋と真面目そうな魚人たち

それから自分の手に握られているM686を見比べた。


「.............」


黒江はハァ...と長くて深いため息をつくと

ハンマーを指で抑えながらトリガーを引いて

ゆっくりとハンマーを降ろし、そしてジーパンの後ろポケットに収めた。


「.....そ、感心だな。

 ゴミの分別はちゃんとしろよ。」


「あ、ありがとう......!」


黒江はくるりと背を向け、銃を撃つことなく

だるそうに夜の街へと消えていった。


──────────────────────────────


「黒江さーん!!!!!!」


翌日の昼下がり、バターン!と扉を勢いよく開け

制服姿の茜が鞄を抱えて入って来た。


ソファーの上で丸くなり、死んだ魚のような目で

天井を見上げていた黒江が、だるそうに体を起こす。


「......毎日毎日騒がしいな。」


「学生ですから!!体力は有り余ってますよ!!!

 それで...昨日の浮気調査、どうでした!?現場は抑えられましたか!?」


茜が身を乗り出して尋ねてくる。

黒江はタバコに火をつけながら、重々しく息を吐きだした。


「浮気じゃねえ、夜な夜な集まってボランティアだ。

 川沿いのゴミ拾い....だとよ。」


「えぇ!?ボランティアあ!?

 .....奥さんには申し訳ないですけど、なんだか拍子抜けですね。」


なんてこと言うんだ、お客様相手に。

茜は黒江の表情を見て、少し不思議そうに首をひねる。


「......?なんだかフキゲンそうですね。」


「......寒い夜中に、オッサン共がゴミ拾いしてるのを

 わざわざ見に行かなきゃいけなかったんだぞ、不機嫌にもなる。」


「あはは、お疲れさまでした。」


黒江は適当に手を振りながらソファーへ再び倒れ込み

昨日帰りに買ったマッ缶のプルタブを引き抜いたのだった。

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