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街は今日も平和です~神楽坂探偵事務所の邪神駆除日記~  作者: みやなぎさん


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11/12

第11話:遭遇『うさんくさい教育実習生(後編)』

昇降口での最悪な対峙から、早数日。


「九十九先生の授業めっちゃ分かりやすいんですよ~!!!

 久しぶりに現代文で満点取れちゃうかもしれません!!!」


「.........そ、よかったな。」


連日事務所に来ては楽しそうにそう報告してくる茜の言葉の通り

九十九は何事も無かったかのように『完璧な教育実習生』を

演じ続けているらしい、茜に直接何か手を出した様子もない。


だが黒江にとってはその何事も起きない不気味な静けさだけが

胃を雑巾のように絞り上げられるようなストレスとなっていた。

奴が学校という日常の真ん中に居座り

いつ気まぐれで爪を立てるか分からない。

その恐怖と緊張で、黒江の胃薬の消費量は跳ねあがっていた。


──────────────────────────────


夕方、神楽坂探偵事務所。


「黒江さん、私買い出し行きますけど何か要りますか?」


「.........マッ缶、財布は渡さねぇぞ。」


「えーっ!ケチ!」


賑やかに文句を言いながら、制服のスカートをなびかせて

買い出しへと向かう茜の背中を見送り、ドアがパタンと閉まる。


事務所に1人残された黒江は、深いため息と共に紫煙を天井へと吐き出した。

ジッポライターの蓋をカチ....カチ......と無心で開閉させながら

死んだ目で窓の外の夕景を眺める。


...........ガチャ、と

茜が出て行ってからわずか数分で再度入り口が開く。


「.......ンだよ、財布でも忘れたか──」


黒江が気だるげに視線を向けた、その瞬間

思考が凍り付いた。


そこに立っていたのは茜ではない。

仕立ての良いスーツを完璧に着こなし、自前のコーヒー缶を手にした青年

九十九が入り口に立っていた。


「やあ神楽坂探偵、お邪魔するよ。」


「.....ッ!?」


黒江の心拍が跳ねあがり、右手が反射的にデスクの裏

ホルスターに固定された【S&W M686】のグリップへと伸びる。


しかし九十九は、黒江の殺気すら心地よさそうに目を細めると

悪びれる様子も無く勝手に来客用のソファへと腰を下ろした。

足を組み、缶コーヒーを煽る姿は

まるで昔なじみの家へと遊びに来たかのようだ。


「そう警戒しないでくれよ。

 学校では茜ちゃんに邪魔されてしまうからね。

 今日は教育実習生じゃあなく、1人の『依頼人』として来たんだよ。」


「.......依頼人だぁ?冗談は顔だけにしとけよ混沌様よぉ。

 土足で人の城に入ってきて抜かすセリフかよ。」


「冗談じゃ無いさ、大真面目だよ。」


九十九は爽やかな笑みを崩さないまま、琥珀色の瞳でじっと黒江を見る。


「最近、この街に嫌な『匂い』が混ざり始めてね。

 僕の可愛い教え子や、せっかく見つけた君という観察対象が

 僕以外の浅ましいナニカに横取りされて

 ましてや、くだらない理由で壊されたら興ざめじゃないか?」


「..........可愛い教え子ねェ。

 お前に『可愛い』なんて感情があるのは驚きだよ。

 .......それで、何が言いてぇ。」


黒江の眉間が深く寄る。

九十九の言いたいことがじわじわと頭に沁み込んでくる。

何処までも身勝手で狂った、邪神ならではの欲と気まぐれ。


「街の端っこの方が匂いが強いんだ。

 浅ましいネズミ共も少しづつだが這い出てきてる。

 探偵なら街の掃除、ボランティアくらいはしてくれよ。」


「.........バカ言えよ、こっちも仕事なんだ。

 それにお前の指図で誰が動くってんだ。」


「君は動くさ、そういう探偵なんだから。

 もちろんただじゃあないよ、あとで口座でも見てみればいい。」


九十九は満足そうに微笑むと

優雅な動作で立ち上がりスーツの皺を払う。


「君がどう足掻いて、どうやってあの小娘と

 この街を守るのか、実に楽しみだよ。

 それじゃ、残りの実習期間もよろしくね。」


そのまま出口の方へ向かっていき、九十九の姿は扉の向こうへと消えていく。

静まり返った事務所で、1人残された黒江はガクッとデスクに肘をつき

両手で頭を抱え込んだ。

全身から冷や汗が噴出し、指先がわずかに震えている。


最悪な邪神からの、最悪な情報提供。

信じるのも従うのも反吐が出る....が、九十九の言う街の異変を

放っておけば、真っ先に巻き込まれて死ぬのは茜だろう。


「.......クソが、どいつもこいつもふざけやがって....!」


黒江は吐き捨てるように呟くと、灰皿にタバコを押し付け

デスクの引き出しを乱暴に引っ張り出した。

引き出しの奥から取り出したのは、M686の予備スピードローダー。

重々しい鉛と真鍮の感触が、手に伝わる。


........バターン!!!


「黒江さ〜ん!マッ缶買ってきましたよ〜!

 ってあれ?なんか浮かない顔ですね?」


買い出しから戻ってきた茜が、ドアを勢いよく開けて入ってくる。

黒江は素早く予備弾をポケットに仕舞い込むと

一瞬でいつもの死んだ目を作り直し、気怠げに振り返った。


「……遅ぇよバカ。腹減っただろ」


「えぇー!買ってきてあげたのに第一声がそれですか!?

 ホント素直じゃないんですからぁ!」


呆れ顔でマッ缶を差し出してくる茜。

その呑気な顔を見つめながら、黒江は缶の冷たさを握りしめ

窓の外へと視線を向けた。


橙色から深い群青色へと落ちていく街並み。


「……ハッ。平和どころじゃなさそうだな」


黒江は小さく鼻で笑い

静かに次の修羅場への覚悟を決めた。

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