一刀両断してくれた
「今日もバイタルサイン(脈拍、呼吸、血圧、体温、意識レベル)正常範囲内だったわね」
「うん」
操縦シミュレーション室にて。
茜の手によって鉢植えのコスモスに加えてワレモコウも置かれてのち、一週間が経った。
この一週間以前の乱高下していたバイタルサイン(全方位囲んだ画面により全身スキャンされている)はこの一週間、菊花の言うように正常範囲内だった。
コスモスの効果が出たのか。
気合を入れ直した結果か。
体調が安定して集中できるようにはなっているものの、マニュアル本をすべて覚えられず操縦する手順を未だ間違えている状態であった。
人間って不便ね。
菊花は言った。
「ネットワークで繋がっていられたら覚える必要なんてない。調べたらすぐに分かって、手順を間違えるなんて事も起きないのに。ああ。でも、「ナナカマドん」はネットワークが遮断されているからだめね」
「うん。トライアンドエラーあるのみ」
「他の訓練生のサクセスの確率はあんたより遥かに高いわね」
「うん。すごいよね。僕も頑張って追い付かないと」
夕飯時であった。
いつものように目の高さに設置する台に乗せたマニュアル本を読みながら、今日のメニューであるキノコたっぷりのハヤシライス、サツマイモとリンゴとナッツのサラダを食べていた茜。雑談は必要ないと言ったのだが、ぽつりぽつりと、訓練時以外、特に夕食を食べている時に菊花から話しかけられるようになっていた。
(ほとんどダメ出しだけど。でも。うん。教官の言うように僕には菊花が必要だったのかも。僕はどこかで期待していたからなあ。キャッキャウフフと花が飛ぶようなやり取りをしながら訓練が行われるんじゃないかって。ばかだよね。ほんと。青春を味わいに来たわけじゃないのに。「ナナカマドん」に搭乗する為に来たのに。みんなの助けになる為に学びに来たのに。菊花は僕のゆるふわ思考を一刀両断してくれた。流石はサポートAI。容赦のない言葉に打ちのめされ続けているけど。落ち込んで落ち込んで落ち込んだ。だからまた落ち込んでも這い上がればいいって。まだ姿は見せてくれないけど。言い方も声音の温度も優しくなった気がする………のは、僕の意識が変わったから、かなあ。んん。まあ。とにかく頑張るしかないっ!)
「おかわり持ってくる!」
「いちいち報告しなくていいわよ」
(2026.10.14)




