必要だって言ったら
操縦シミュレーション室にて。
「花屋を始めるなら場所が違うんじゃない」
桃、白、橙、赤、黄、黒と、鉢植えのコスモスの花を視認した菊花はいつものように絶対零度の声音と刺々しい言い方で以て茜に言葉をぶつけた。
茜は眉尻を下げながら、癒されるでしょと言った。
「辛気臭いって、菊花は僕に言いました。確かにその通りだなって思いました。操縦の事で切羽詰まっていて。全然余裕なんてなくて。落ち込んでばっかりで。本当に辛気臭い。だから、少しでも改善したくて、僕の好きな花を置きました。教官には許可を貰っています。もちろん、「ナナカマドん」には持ち込みません。シミュレーション室だけです」
「………まあ。あんたの顔だけを見るよりはマシかもね」
目を丸くした茜。ほんの少し、ほんの少しなれど、菊花の声音の温度と刺々しさが緩和したような気がしたのだ。
「菊花ももし好きな花があるなら持ってくるよ」
「あんた」
「はぃ」
「私が何の為に存在しているか知ってる?」
「………「ナナカマドん」の操縦の特訓をする僕をサポートする為です」
「そう。私は「ナナカマドん」の操縦シミュレーションを行うあんたをサポートするAI。あんたと雑談する為に存在するわけじゃない。「ナナカマドん」を操縦できるようにあんたをサポートする為の存在なの。あんたが操縦する為にコスモスが必要だってんなら否定はしない。だけど、あんたと花談義をするつもりは一切合切ない。分かった?」
「………必要だって言ったら?」
「は?」
「菊花と雑談する事が「ナナカマドん」を操縦するのに必要だって言ったら否定しないで肯定してくれるのっ!?」
気が付けば声を荒げていた茜。出来損ないの自分に対する圧迫、息苦しさ、焦燥などから一気に気が昂っては爆発してしまったのだろうとおぼろげながらに思いつつ、気が付けば真っ赤に染め上がった顔を両手で隠して駆け走っていたのであった。
「………」
茜が姿を消してのち画面上に姿を見せた菊花。円形の床に全方位置かれた鉢植えのコスモスを見下ろして、鼻を鳴らしたのであった。
(2026.10.12)




