スイートポテトだ
操縦シミュレーション室にて。
茜は言葉通り、座学と体力トレーニングと風呂とトイレ以外はここで過ごしており、今は通常ならば食堂でとっている夕食をトレイに乗せては持ち運んで食べていた。
目の高さに設置する台に乗せたマニュアル本を読みながら。
茜がここで過ごすようになって一週間が経っており、ここに居る間はマニュアル本を片手に百を超えるボタンと十を超えるレバーと格闘していたので、遅々としてではあるものの、できる事も増えていった。
「四六時中辛気臭いあんたの顔を見なくちゃいけないなんてさいあく。はあ」
できる事は増えていったものの、菊花の絶対零度に加えて刺々しい言葉に慣れるなんて事は一切合切なく。
教官にツンデレモードを解除してほしいと頼み込んだものの、君には菊花が必要なのでその頼みは聞けないと言われてしまった。
(ヘタレな僕を叱咤してくれる存在が必要ってわけですねそうですね僕には絶対零度の声音と刺々しい言い方をしてくれる菊花が必要なんですよねそうですね未だに僕に姿を見せてくれない菊花に心を折られて訓練施設から出て行くようなヘタレは「ナナカマドん」に搭乗する資格なんてないですよねそうですよね僕はどれだけへこんでも訓練施設に背を向ける事はしませんよんんんんんん。あ。はは。デザート、スイートポテトだ。美味しいなあ)
ちみりんちみりん。
光沢のある表面に黒ゴマが散らばっているスイートポテトを箸で掴んで少しずつ少しずつ食べ進めた茜。ふと、思った。
(そりゃあそうだよなあ。ずっと辛気臭い顔をしてたよなあ。僕。いや。半分くらいは。菊花の言葉に打ちのめさせられているせいだけど。それだって僕が全然ダメなせいなわけだし。これじゃあ、だめだよなあ。よし)
(2026.10.12)




