第4話 嘘と計算と、ポンコツだらけの自己紹介
湖畔に建つ豪華なシェアハウス。その広大なリビングルームに置かれた、円形の高級ソファに八人の男女が腰を下ろした。
テーブルには神が用意した色とりどりのウェルカムドリンクが並べられ、さながら人気恋愛リアリティーショーの第一話のような華やかな空気が漂っている。
「それじゃあ、これからしばらく一緒に暮らすわけだし、改めて自己紹介といくか」
口火を切ったのは、漆黒の鎧を纏った暗黒騎士・アヴァロンだった。彼は兜を小脇に抱え、自信たっぷりに脚を組んだ。
「俺はアヴァロン。見ての通り、闇の力を行使する暗黒騎士だ。群れるのは好きじゃねぇが……仲間の背中くらいは守ってやるよ。よろしくな」
(よしっ、完璧! ミステリアスで頼れるダークヒーローの第一声としては100点満点だろ!)
中身はただのノリの良い大学生なのだが、本人は完璧にキャラに入り込んでいるつもりだった。
「じゃあ、次は私ですね」
アヴァロンの隣に座っていたシスター・ティアが、おずおずと控えめに手を挙げた。
「ティアと申します。治癒魔法が少し使えるだけの、非力なシスターです……。皆さんの足手まといにならないよう、一生懸命お祈りしますので、どうか守ってくださいね?」
(よし。男の保護欲を刺激する上目遣いと、100点満点の清楚スマイル。一番カモにしやすそうなのは……あのスーツの男ね。見るからに金持ってそう)
純真無垢な笑顔の裏で、中身の苦労人女子は早くも参加者たちの『値踏み』を開始していた。
「ティアさんですね。素晴らしいサポートを期待しています。僕はルーファス」
ティアの視線に気づいたのか、金髪でエリート風の魔道士が眼鏡をクイッと押し上げた。
「得意なのは氷結魔法と、戦況の論理的な分析です。この不条理なゲームを効率的に攻略し、最もスマートな形で『愛』という成果を出してみせましょう」
(恋愛とはすなわち、心理戦と自己プレゼンだ。ビジネス書で読んだノウハウを活かせば、女性をオトすことなど造作もない!)
知的でクールな男を気取っているが、中身は女性経験ゼロの会社員である。彼の頭の中の恋愛観は、完全に偏っていた。
「わ、私は……グレイシア、よ」
氷の女帝のアバターを着た美しい女性が、ツンとすました態度で腕を組んだ。
「氷の魔法剣士よ。私に気安く触れたら、火傷じゃ済まないわ……きゃっ!?」
脚を組み替えようとした瞬間、グレイシアは何もない絨毯の模様にヒールを引っ掛け、派手にソファから転げ落ちそうになった。
「あ、危ない!」
それを横から巨大な腕が優しくキャッチする。
「あ、ありがとう……じゃなくて、フ、フン! 今のはちょっと足元が滑っただけよ!」
(あああああ! またやっちゃった! クールな女帝キャラでいきたいのに、なんで私っていつもこうドジなの!?)
顔を真っ赤にして元の位置に戻るグレイシア(中身は天然女子大生のリン)。
「怪我がなくて良かったよ。俺はガルムだ」
グレイシアを助けたのは、身の丈2メートルを超える恐ろしい風貌の獣人(狂戦士)だった。
「見た目はこんなだけど、怒るのも戦うのも苦手でね。さっきの森でも、花が綺麗だったから摘んできたんだ。良かったら、皆で飾ろう」
巨大な斧を背負った化け物が、そっとテーブルの小瓶に可憐な野花を生ける。
(中身のタロウ:動物とかお花、傷つけたくないなぁ。早くこの物騒なミッション終わらないかなぁ)
「……ふぁあ。私はシルフ。エルフの弓使い」
ガルムの隣で、エルフの美女がソファに深く沈み込み、すでにとろんとした目をしていた。
「特技は……遠距離射撃。でも、動くの面倒だから、基本は寝そべって撃つわ。よろしく……おやすみ」
(中身のユイ:ダメだ、このソファふかふかすぎて動きたくない。恋愛とかどうでもいいから、一生ここで寝ていたい……)
「お、おいおい寝るなよ! 次は俺っすね」
シルフにツッコミを入れつつ立ち上がったのは、フードを目深に被ったアサシンだった。
「俺はジン。闇に潜み、音もなく敵を葬る暗殺者だ……。だから、その、なんだ。絶対俺の背後から急に驚かしたりするなよ!? 暗いところもなるべく行きたくねぇし!」
(中身のケンタ:思い出しただけで鳥肌が……。ゾンビとか幽霊とかマジで無理! 筋肉で殴れない敵は反則だろ!)
クールな暗殺者になりきろうとしているが、先ほどのお化け屋敷ミッションのトラウマで、声が完全に震えているフィットネストレーナーであった。
「さ、最後は私、ですね……」
ジンに続いて立ち上がったのは、サキュバスのリリスだった。
しかし彼女は、顔を真っ赤にして、露出度の高すぎる自分の胸元や太ももを必死に両腕で隠していた。
「リ、リリスと申します……! 魔族ですが、決して、決して不純な意図でこの服を着ているわけではありません! アバターの初期設定がこれで……! ああっ、見ないでください、破廉恥な!」
(中身のサキ:なんて格好なのこれ! 公務員としての私の尊厳が! 早く布、どこかに布はないの!?)
こうして、八人全員の自己紹介が終了した。
個性が大渋滞を起こしているが、本人たちは至って大真面目に「番組」に参加しているつもりだった。
(なるほど……)
ティアは自分のウェルカムドリンクに口をつけながら、女子メンバーを素早く値踏みした。
(すぐ転ぶグレイシアは『放っておけない枠』で少し厄介。シルフはやる気ゼロだから脅威じゃない。リリスは……あの破壊的なスタイルは男の目を引くから最大のライバルになりそうね。でも、隙のなさなら絶対に私の方が上!)
ティアは「皆さんと仲良くできそうで、ティアはとっても嬉しいです」と、完璧なシスターの微笑みを浮かべた。
「さて、自己紹介も済んだことだし、そろそろ夜も更けてきたな」
アヴァロンが立ち上がり、空中のモニターを指さした。
「神の言ってた『深夜のMVP投票』の時間が来るぜ。……誰に投票するかは個人の自由だが、明日のサバイバルを生き抜くために、後悔のない選択をしようぜ」
その言葉に、八人の間に再びピリッとした緊張感が走る。
恋リア特有の、甘くもヒリヒリとした「第一夜の腹の探り合い」。
まもなく彼らは、純白の『インタビュー室』へと転送され、カメラに向かって己の本音――あるいは、計算にまみれた嘘――を語ることになるのだった。




