第3話 恋リアの舞台は、豪華すぎるシェアハウス
ズドォォォォォォォォォンッ!!!!!
アヴァロンの軽く放った素振りが、オークを塵に変え、後方の森を数百メートルにわたって完全に更地にしてしまった直後。
呆然とするアヴァロンと、足の震えをごまかすのに必死なティアの頭上に、神の能天気な声が響き渡った。
「カーーーーッ! オッケーです、オッケーです! 皆さん、素晴らしい撮れ高でしたよー! これにてチュートリアルミッションは全員クリア! それではお待ちかね、皆さんが共同生活を送る拠点へご案内しまーす!」
ポンッ、という気の抜けた効果音と共に、二人の視界が反転した。
◆ ◆ ◆
「うおっ……!?」
「きゃっ!」
次に目を開けた時、アヴァロンとティアは広大な屋内に立っていた。
吹き抜けの天井からは豪華なシャンデリアが下がり、床にはふかふかの絨毯。中央には大人数で囲める巨大なアイランドキッチンと、スタイリッシュな革張りのソファが並ぶ広大なリビングスペースがある。窓の外には青く澄んだ湖と、美しい山々の大自然が広がっていた。
「すげぇ……なんだこの金のかかったセット。完全にテレビで見る『オシャレな恋リアのシェアハウス』じゃん!」
アヴァロンが兜を脱ぎ、興奮気味に周囲を見渡す。
ティアも目を丸くしていた。先ほどまでの血の匂いが漂う森から一転、あまりにも現実離れしたラグジュアリーな空間である。
ポツ、ポツと、リビングのあちこちに光の粒子が集まり、他の参加者たちも次々と転送されてきた。
しかし、転送されてきた彼らの表情は、一様に引きつっていた。
「……おい、どうなってんだこのゲームの物理演算。バグにも程があるぞ」
エリート魔道士のルーファスが、疲れたようにソファにどさりと腰を下ろした。その隣で、氷の女帝グレイシアが申し訳なさそうに縮こまっている。
「雪山でグレイシアが転びそうになったのを抱き留めた瞬間、彼女の顔が近くて僕の心拍数が少し上がったんだ。そしたらバフが暴走して……僕の基礎魔法の威力が跳ね上がり、湖が一つ、底まで完全に氷結した。生態系が破壊されたぞ」
「わ、私がおっちょこちょいなばかりに、ごめんなさい……!」
「そっちこそなんなのよ! こっちなんて……!」
露出度の高いサキュバスの衣装を両腕で必死に隠しながら、リリスが涙目で抗議する。
「暗闇でジンさんがパニックになって、急に私に抱きついてきたんです! そしたら『熱烈なスキンシップを検知!』とかアナウンスが鳴って……」
「お、俺だってわざとじゃねえっすよ! 怖くて目ぇつぶって走ったら、なんか超絶スピードのバフがかかってて……気がついたら音速でアンデッドの群れをミンチにしてたんすよ! グロすぎてトラウマっす!」
屈強なアサシンのジンが、部屋の隅で膝を抱えてガタガタと震えている。
どうやら『愛の力』による規格外のチート現象を体感したのは、アヴァロンたちだけではなかったようだ。狂戦士のガルムとエルフのシルフも、「戦いたくないって思ったら、魔獣が全員お腹を出して懐いてきた」と不思議そうに首を傾げている。
(なるほど……イチャイチャさえすれば、誰でもあの異常な力が使えるってわけね。やっぱりこの番組、ゲームバランスはおかしいけど、ルールさえハックすれば絶対に生き残れる!)
ティアは周囲の会話から冷静に情報を分析し、賞金獲得へのルートを再計算していた。
「アー、皆さんお揃いですね!」
リビングの巨大なモニターが突然点灯し、ディレクターのシルエットが映し出された。
「どうです? 愛の力の凄まじさ、体感していただけましたか? 相手を意識し、胸キュンポイントを稼げば稼ぐほど、皆さんのステータスは十倍、百倍、千倍へと跳ね上がります! 戦うためには、とにかく恋をしてください!」
「戦うためって……俺たち、どこを目指せばいいんだ?」
アヴァロンの問いに、ディレクターは明るく答えた。
「この世界の最奥にいる『魔王』の討伐です! 皆さんの愛の力で魔王を浄化し、世界に平和を取り戻すのがこの番組の最終目的となります」
(魔王討伐……いかにもRPGの王道って感じね。まあ、CGの出来は異常だけど、あのバフがあれば余裕でしょ)
ティアは内心で鼻で笑った。
「さて、この豪華なシェアハウスでの生活ルールを説明します。部屋は男子部屋と女子部屋の大部屋が一つずつ! 食事や掃除などは皆さまで協力して行っていただきます。そして、最も重要なルールがこれです」
モニターの画面が切り替わり、『深夜のMVP投票』という文字が大々的に映し出された。
「毎晩就寝前、皆さまには個別の『神の部屋(インタビュー室)』に転送されていただきます。そこで、カメラに向かって『今日一番気になった人(MVP)』を一人、こっそり投票してください!」
「投票……つまり、誰が一番人気か決めるってことか」
ルーファスが眼鏡を押し上げる。
「その通り! 見事、お互いに投票し合い『両思い』が成立したペアには、翌日のステータスにさらに強烈な『主人公バフ』がかかります! 逆に誰からも矢印を向けられなかった人は、一切のバフがかからず、明日の死の危険が跳ね上がるというわけです!」
その言葉に、リビングの空気がピリッと張り詰めた。
ただの恋愛ごっこではない。「誰かに選ばれなければ、明日のミッションで死ぬかもしれない」という、サバイバル要素が絡んできたのだ。
(なるほどね……ただの好感度稼ぎじゃなくて、生存戦略ってわけだ。なら、やることは一つ。誰よりもあざとく、男たちの庇護欲を独り占めするだけよ!)
ティアは「怖い……」と呟きながら、ちゃっかりアヴァロンの背中の後ろに隠れるような素振りを見せた。
「番組のルールは理解したぜ」
アヴァロンが不敵に笑い、他のメンバーたちを見渡す。
「ま、これからしばらく一つ屋根の下で一緒に暮らすわけだ。まずは、お互いのことをよく知らねぇとな」
お互いのアバターの姿しか知らない八人の男女。
彼らの探り合いと、嘘だらけの自己紹介タイムが始まろうとしていた。




