第18話 洞窟探索と、エリート魔道士の意外なファインプレー
「アー、テステス! 二日目のミッションは、ペアをシャッフルしての『海賊の洞窟・お宝探し』です! 暗くて狭い洞窟は、二人の距離を縮める絶好のチャンスですよ♡」
神のアナウンスと共に、参加者たちは新しいペアで薄暗い洞窟へと放り込まれていた。
今回の組み合わせは、【レオン&ティア】【ルーファス&マヤ】【アヴァロン&リリス】【ジン&グレイシア】の四組である。
◆ ◆ ◆
【レオン&ティア ペアの場合】
「足元が悪いね。僕が手を引こうか、ティア」
たいまつを片手に、聖騎士レオンが甘い声で囁く。
「いえ、大丈夫です。自分で歩けますから」
ティアは完璧な愛想笑いを貼り付けたまま、レオンから一定の距離を保って歩いていた。昨日のBBQでの『食材への冒涜(ホタテ蹴り)』を見た彼女の心は、すでにこの男に対して完全にシャッターを下ろしていた。
(……チッ。なぜだ? なぜ好感度が上がらない?)
一方のレオンは、脳内で恋愛攻略マニュアルを猛スピードで検索し、焦立ちを募らせていた。
(こうなれば、最終手段『吊り橋効果からの壁ドン』イベントを強制的に発生させるしかない!)
レオンは洞窟の壁にさりげなく手を触れ、魔力を流し込んで人為的な『小規模の落石』を引き起こした。
ガラガラッ!
「危ないッ、ティア!」
台本通り。レオンはティアの肩を抱き寄せ、壁ドンをして落石から彼女を守る――はずだった。
「わっ、と」
しかし、元・ブラック引っ越しバイトで鍛え上げられたティアの反射神経は、レオンの計算を遥かに上回っていた。彼女はレオンが手を伸ばすより早く、スッと華麗なステップで落石の範囲から離脱してしまったのだ。
「あっ、危なかったですね、レオン様。気をつけてくださいね」
ニコッと笑うティア。
空を切ったレオンの腕が、虚しく壁をドンッ、と叩いた。
「…………」
「レオン様?」
「……君さぁ」
レオンが、前髪を掻き上げながら、ひどく冷たく、見下すような声を出した。
「そういう時は、大人しく『きゃっ♡』と言って男に守られるのが、ヒロインとしての『正解』だろう? 少しは可愛げというものを持ったらどうだい? これだから、台本通りに動けないNPCみたいな女は困るんだ」
イライラと吐き捨てられた言葉。
それは、プライドの高い恋愛ゲームオタクであるレオンの、完全にメッキが剥がれた『素のモラハラ気質』だった。
(うっっっわ……。最低。引くわー……)
ティアは、シスターの微笑みの裏で、心からの軽蔑の視線を送った。
(自分の思い通りにならないからって逆ギレ? やっぱりあの中二病のバカ(アヴァロン)の方が、何百倍も男らしいじゃない!)
◆ ◆ ◆
【ルーファス&マヤ ペアの場合】
一方、別のルートを進んでいた二人組の空気は、全く違う意味で限界を迎えていた。
「ルーファスさぁん……暗くて怖いよぉ。手、繋いで歩こ?♡」
過激な踊り子の衣装を着たマヤが、潤んだ瞳で上目遣いをする。
しかし、金髪のエリート魔道士・ルーファスは、眼鏡をクイッと押し上げて冷徹に言い放った。
「お断りします。暗所での視界不良時に腕を拘束されるのは、トラップ回避の遅れに直結し極めて非論理的です。統計上、1・5メートルの間隔を空けて歩行するのが最も生存率が高いのです」
「えっ、あ、じゃあ……私の肩、抱いてくれても……」
「密着は体温の上昇を招き、不要な発汗による体力消耗に繋がります。却下です」
(ヒィィィィ……ッ! なんなのこのサイボーグ!!)
マヤは心の中で絶叫していた。
彼女の決死の「あざといテクニック」が、分厚いコンクリートの壁にボールを投げているかのように、1ミリも通用しないのだ。
数十分後。
張り詰めていたマヤの精神力(陰キャバッテリー)が、ついに0パーセントに達した。
「……ッ」
ドサッ、と。マヤは急に洞窟の岩肌に座り込んでしまった。
「マヤさん? 進行スケジュールからすでに3分遅延していますが。体調不良ですか?」
ルーファスが眉をひそめて振り返る。
「……もう、無理」
「は?」
「歩くの疲れた……。男の人に色目使うのもしんどい……」
低く、ドスの効いた、ひどく疲弊した声。
マヤは頭を抱え、自分の膝に顔を埋めた。
「帰りたい……お家帰って、誰とも喋らずに、畑を耕すゲームの続きやりたい……ッ」
肉食系悪女の仮面が完全に崩壊し、中身の『極度の対人恐怖症フリーター』が漏れ出した瞬間だった。
(……しまった! 限界すぎて素が出ちゃった!!)
マヤはハッとして顔を青ざめさせた。「お前、キャラ違うだろ」と罵倒されるのを覚悟して身をすくめる。
しかし。
ルーファスは驚いたように目を見開いた後、なぜかその瞳をキラキラと輝かせ始めた。
(……なんという、無駄のない合理的で素直な感情表現だ!)
女性経験ゼロのエリート会社員にとって、「計算されたあざとさ」は未知の恐怖だったが、「疲れたから家に帰ってゲームしたい」という嘘偽りのない本音は、徹夜明けのプロジェクト仲間に似た、強烈な『共感』と『安心感』を彼に抱かせたのだ。
「……マヤさん。あなたって人は……」
ルーファスが、マヤの前に片膝をつく。
「虚飾を捨て、自己の本来の欲求をストレートに開示する。これほどまでに論理的で、純粋な女性に、僕は初めて出会いました……!」
トゥンク……!
ルーファスのエリート心臓が高鳴る。
ピロンッ!
『システムアナウンス! ルーファスさんの予想外の共感(謎の胸キュン)を確認! マヤさんに《愛の力・バフ(疲労回復・全ステータスUP)》が付与されました!』
「……は?」
突然光り輝き始めた自分の身体を見て、マヤがポカンと口を開ける。
「さあ、マヤさん! この非合理的なミッションを最速で終わらせ、共に真実の世界へ帰りましょう!」
「えっ、ちょ、えええええ!?」
勝手に自己完結してバフをかけてきたエリート魔道士に手を引かれ、困惑したまま走り出す陰キャの踊り子。
完璧を演じようとして素の性格の悪さを露呈したレオンと、無理して悪女を演じるのをやめた瞬間に愛のバフを獲得したマヤ。
追加キャストたちの明暗がくっきりと分かれる中、洞窟の最深部では、彼らの命を脅かす『本物の危機』が静かに目を覚まそうとしていた。




