第17話 VIPテントの夜と、踊り子の『裏の顔』
「アー、テステス! 楽しいBBQの後は、いよいよおやすみの時間です!」
神の嬉々とした声が、夜のビーチに響き渡る。
「第一回MVPペアであるアヴァロンさん&ティアさん! お二人には、砂浜の特設エリアに用意された『超高級VIPグランピングテント』へご案内しまーす! それでは皆様、良い夜を♡」
他のメンバーたちがシェアハウスへと転送されていく中、アヴァロンとティアの二人だけが、波打ち際に設置された巨大でラグジュアリーなテントの前に取り残された。
恐る恐るテントの中に入ると、そこには天蓋付きのキングサイズベッドが一つだけドンと置かれ、無数のキャンドルとバラの花びらが散りばめられているという、あからさまに「そういう雰囲気」を強要する空間が広がっていた。
「うおっ……すげぇなこれ。マジでベッド一つしかねぇじゃん」
アヴァロンが兜を脱ぎながら、居心地悪そうに首の後ろを掻く。
「そ、そうですね……」
ティアもシスター服の裾をギュッと握りしめ、テントの入り口付近で立ち尽くしていた。
静寂。聞こえるのは波の音だけ。
先ほどのBBQでのモヤモヤ(レオンへの幻滅と、アヴァロンへのヤキモチ)を引きずっていたティアは、気まずさを誤魔化すように、ふいっと顔を逸らして言った。
「……マヤさんみたいな、派手でセクシーな人がお好きなら、今からでも神様にお願いして交代してもらえばいいじゃないですか」
「はぁ?」
「だってBBQの時、ずっとデレデレしてましたよね。マヤさんにくっつかれて」
チクリと刺すような、拗ねた口調。言ってしまってから、ティアは(やばっ、私なんでこんな嫉妬丸出しみたいなこと言ってんの!?)と内心で頭を抱えた。
しかし、アヴァロンはきょとんとした顔でティアを見つめ返し、それから深いため息をついた。
「デレデレしてねぇよ。……むしろ、ガチで困ってたんだわ」
「え?」
「俺さ、ああいうグイグイ距離詰めてくる女の人、すっげぇ苦手なんだよ。目のやり場に困るっていうか、どう接していいか分かんなくてフリーズしてただけだっつーの」
アヴァロンはベッドの端にドカッと腰を下ろすと、真っ直ぐにティアの目を見た。
「それに……俺は昨日、お前に言っただろ。あんな派手な女より、お前が作ってくれたご飯の方が、何百倍も最高だ。だから俺は、お前と一緒にここにいられて嬉しいよ」
飾り気のない、ドストレートな本音。
計算でも台本でもない、ただのアヴァロン(中身:非モテ大学生)の純粋な言葉が、ティアの胸のド真ん中を射抜いた。
「〜〜〜〜ッ!」
ティアの顔が、耳の先まで一瞬にして沸騰したように赤く染まる。
(バカ! このバカ! なんでこういう時だけ、そんな破壊力あること真っ直ぐ言えんのよ!!)
打算も計算も吹き飛び、伊藤マイとしての『本気の照れ』が完全に漏れ出した瞬間だった。
ピロンッ!
『システムアナウンス! ティアさんの強烈な胸キュン(ガチ照れ)を確認! 微弱な《愛の力・バフ(発光)》が付与されました!』
ポワァァァァン……。
システムアナウンスと共に、ティアの身体とテント全体が、ロマンチックな薄ピンク色の光に包まれ始めた。
「ちょっ、システム!? 空気読みなさいよ!!」
「うおっ、テントが光った!? ティア、お前すっげぇピカピカしてるぞ!」
「見ないで! あっち向いててくださいバカァッ!」
顔を真っ赤にしてポカポカとアヴァロンの胸を叩くティアと、「痛ぇよ、なんで怒ってんだよ!」と笑いながらそれを受け止めるアヴァロン。
豪華なVIPテントの夜は、色気こそなかったものの、二人だけの温かな笑い声に包まれて更けていった。
◆ ◆ ◆
一方、その頃。
VIPテントから遠く離れた、シェアハウスの裏の暗い砂浜。
「……っ、はぁ、はぁっ……」
誰もいない暗闇の中で、砂浜にうずくまっている一つの影があった。
エキゾチックな踊り子のアバター――マヤである。
昼間、アヴァロンに密着して「マヤの胸、当たっちゃった♡」とあざとく笑い、男性陣の視線を釘付けにしていた肉食系美女の面影は、そこには一切なかった。
彼女は膝を抱え、ガタガタと震えながら、死にそうな顔で虚空を見つめていた。
「し、死ぬ……。男の人の腕に胸押し付けるとか、マジで致死量のストレス……っ! 吐きそう、お腹痛い……帰りたい、お家帰って農業シミュレーションゲームの続きやりたい……ッ!!」
ポロポロと涙を流し始めるマヤ。
そう、彼女の正体は「男を手玉に取る悪女」などではない。実家の子ども部屋から一歩も出ず、ネットとゲームの世界だけで生きている『極度の対人恐怖症の陰キャフリーター』であった。
(ごめんなさい、アヴァロンさん……! 私みたいな陰キャが気安く触ったりして、完全にセクハラですよね……! でも、でも!)
マヤは、砂浜をバンバンと叩きながら嗚咽した。
(賞金一億円があれば、一生働かずに、誰とも関わらずにゲームだけして生きていけるんだもん!! そのためには、番組が求める『ヒール(悪役)の肉食女子』を演じ切るしかないのよォォォッ!!)
彼女は、過酷な現実(一生引きこもるための資金稼ぎ)のために、血を吐くような思いで「あざとい女」のロールプレイを強制実行していたのである。
「もうヤダ……ルーファスさんとか、あんな冷たい目で『論理的じゃない』とか言ってくるし……怖いよぉ……」
誰も見ていない砂浜で、ひっそりと精神的ダメージのデトックス(号泣)を行う踊り子。
完璧なエスコートの裏で苛立ちを隠せないパラディン・レオン。
そして、肉食女子の仮面の下で限界を迎えている陰キャ踊り子・マヤ。
追加キャストたちの『裏の顔』が本格的に露呈し始める中、恋リア・サバイバルは翌日のさらなる波乱へと突き進んでいくのだった。




