第15話 水着の悲劇と、ヤキモチの殺人スパイク
「アー、テステス! それではビーチバレー対決の前に、皆さんを『夏にふさわしいお姿』へお着替えさせちゃいまーす!」
神の指パッチンに似た破裂音が響いた瞬間、参加者たちのパジャマやアバター衣装が光に包まれ、一斉に「水着姿」へと強制変換された。
「きゃあああっ!? な、なんですかこの布面積はァァァッ!!」
真っ先に砂浜にうずくまったのは、サキュバスのリリス(中身:お堅い公務員)だった。
防御力も布面積も限りなくゼロに近い『漆黒のマイクロビキニ』に、彼女は顔から火を吹きそうな勢いで砂浜に這いつくばっている。
一方、追加キャストの踊り子・マヤは、エキゾチックで過激なビキニ姿を堂々と披露し、男たちへウインクを飛ばしていた。
(ふふん、男の視線はこれで釘付けね)と余裕の表情を作っているが、実は中身の『対人恐怖症の陰キャフリーター』は(ヒィィ! 露出多すぎ無理死ぬ! 早く帰ってゲームしたい!)と心の中で大号泣していた。
(よしっ、リリスとマヤの過激路線は放っておいて、私は清楚な白のワンピース水着で健康的な色気をアピールして……)
純白のシスター・ティアは、完璧なスマイルを作って自分の身体を見下ろした。
「……え?」
彼女が着せられていたのは、濃紺の生地、無駄な装飾の一切ない機能的なデザイン。そして胸元にはデカデカと白い布が縫い付けられ、『てぃあ』と平仮名で名前が書かれた――ただの『スクール水着』だった。
(な、なんでよぉぉぉぉぉぉぉぉッ!? 清楚違い!! これじゃただの体育の授業じゃない!!)
絶望のあまり膝から崩れ落ちるティア。
そこへ、爽やかなサーフパンツ姿の聖騎士レオンが歩み寄ってきた。
「大丈夫かい、ティア? ……ふふっ、どんな水着でも、君の純粋な魅力は隠せないよ。とても似合っている」
完璧な王子のスマイルでウインクをするレオン。
(うわぁ、顔面偏差値高っ! でもスク水褒められるのは逆にいたたまれないわ!)
一方、男子メンバーたちも水着姿になっていた。
アヴァロンとジンは、筋肉質な身体を晒す海パン姿である。
「さあ! チーム分けも決まったところで、ビーチバレー対決スタートです!」
ピーッ!と神のホイッスルが鳴り響く。
【アヴァロン、ジン、マヤ】のチーム対、【ティア、レオン、リリス】のチームで試合が始まった。
「きゃっ! あーん、アヴァロンさんにぶつかっちゃったぁ♡」
マヤがボールを追うフリをして、アヴァロンの腕に豊満な胸を押し付ける。
「お、おう! 危ないから気をつけてなマヤ!」
アヴァロンは鼻の下を伸ばし(ているように見え)、マヤの過剰なスキンシップを拒もうとしない。
(……ッッッ!!)
ネットの向こう側で、スク水姿のティアの足元から、ゴゴゴゴゴ……と不穏なオーラが立ち昇り始めた。
(なによあれ……! 昨日は私の素顔が最高って言ってたクセに、ちょっとおっぱい押し付けられただけでデレデレしちゃって……! あのバカアヴァロン!!)
「ティア、あんな男のことは気にするな。僕が君をエスコートするから――」
横からレオンが甘い声で囁くが、ティアの耳には全く入っていなかった。彼女の視線は、マヤとイチャつく(ように見える)アヴァロンに完全にロックオンされている。
「あっ、ティアさん! ボールそっちにいきましたわよ!」
リリスの声と同時に、ふわりとティアの頭上にボールが上がった。
ティアは、限界まで引き絞られた弓のように、大きく上体を反らした。
(一億円の邪魔をする奴は……そして、私のバカ(アヴァロン)をたぶらかす奴は、絶対に許さないんだからァァァァァッ!!!)
ピロンッ!
『システムアナウンス! ティアさんの強烈な嫉妬と縄張り意識を確認! ティアさんに《愛の力・バフ(重力崩壊・メテオストライク)》が付与されました!』
「えっ」
ネットの向こう側で、アヴァロンの笑顔が引きつった。
ドォォォォォォォォォォォンッ!!!!!
スク水姿のシスターが放ったスパイクは、大気を発火させ、隕石のような真紅の火球となって相手コートへと突き刺さった。
「うわあああああああっ!?」
砂浜がクレーターのように深くえぐれ、爆風によってアヴァロンとマヤ、そして巻き添えを食らったジンがまとめてエメラルドグリーンの海へと綺麗に吹き飛ばされた。
巨大な水柱が上がり、カモメが驚いて飛び去っていく。
「ふぅ……。手が滑っちゃいました」
ティアは、白煙を上げるクレーターの横で、前髪をフッと吹き上げながら完璧な(しかし目が全く笑っていない)笑顔を作った。
「や、やれやれ。随分とお転婆なシスターだ……」
レオンは引きつった顔で呟き、自分の『恋愛攻略マニュアル』が全く通用しない空気に冷や汗を流していた。
こうして、追加キャストを交えた水着イベントは、あざとい踊り子のスキンシップと、それに激しく嫉妬したスク水シスターの『致死量スパイク』によって、文字通り海のもくずと消えたのだった。




