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見えすぎる者 ~死が見える俺は、嫌われて見送る~  作者: 浦賀やまみち


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第09話 残された時間




「そういえば……。」

「はい?」



 カイルは、ダンジョンの出口で久々に差し込む太陽を仰ぎ見る。


 どうやら、その間に大雨が降ったらしい。

 大地はぬかるみ、木々の間を抜ける風が、まだ湿った葉を揺らしている。



「どうして、俺を誘ったんだ?」

「……はい?」



 伸びをしていたエルザは、きょとんとした表情で首を傾げた。



「初めて会ったときの話だ。

 自分で言うのも何だが……。俺、怪しかっただろ?」



 カイルは普段の自分らしくない饒舌さに、少し戸惑いながらも問いかけずにはいられなかった。



「はい! あと、怖かったです!」



 エルザは迷いなく答え、にこりと笑った。



「お、お前な……。」



 カイルは思わず顔を引きつらせた。

 毒気はないが、正直過ぎる。



「はっはっはっ! カイル殿、無駄ですよ?」

「そうそう! エルザって、いつもそうだよね」



 ロダンが笑い、ミーシャもそれに続いた。



「あれ? 私、貶されてる?」

「違います。褒めているのです」

「うん、エルザの勘は当たることが多いからね」



 和気あいあいとした空気が流れる。

 依頼を無事に終えた安堵感も手伝ってか、朗らかだった。


 カイルがこれまで経験してきたパーティとは、どこか違っていた。



「まあ、その勘が外れちゃったけどね。今回の依頼」

「いいえ、ギルドの不備です」

「うんうん、断固抗議しよう」



 もともと、カイルが森を歩いていたのは、人との接触を避けるためだった。


 だが、カイルには冒険者以外の生き方を知らない。

 冒険者は一人では成り立たない。


 しばらくは街から街へと渡り歩き、その場その場でゲストとしてパーティに加えてもらうつもりでいた。



「スケルトンウォーロードだもんね」

「見た瞬間、生きた心地がしませんでした」

「あんなの、私たちよりずっと上のランクの冒険者たちが狩る相手だよね」



 しかし、エルザはカイルを自然に受け入れてくれた。

 ロダンもミーシャも、気味悪がったりはせず、カイルをただ利用するのではなく、信頼し、頼ってくれていた。



「でも、あんな凄いモンスターがいたのは、どうしてだろう?」

「最近、モンスターらが活発化しているという話を聞きます」

「そろそろ、魔王が現れる周期だって噂も……。」



 居心地が良かった。

 約束では、依頼を達成し、街まで戻るまでの短い同行だった。


 だが、カイルは自分から『仲間に加えてほしい』と言うのを怖れていた。

 これまで何度も、勝手に期待しては裏切られてきたからだ。



「えっ!? 魔王っておとぎ話じゃないの?」

「違います。過去に何度も現れた事実があります」

「約250年周期って言われてて、次に現れたら六人目になるんだとか」



 生まれ育った村で、カイルを唯一受け入れてくれた幼馴染。

 それが『ラーナ』だった。


 しかし、最後には彼女さえも、自分を見捨てた。

 抱いていた淡い想いも、あっけなく砕け散った。


 一人でいた自分を、パーティに誘ったのは、哀れみだったのか。

 生まれ育った村から遠く離れた街で、再会したときに運命を感じてしまったのも、間違いだったのか。


 もし、エルザもそうなったら。



(……面倒だ)



 知らず知らず、思考は鈍り、心の中でいつもの口癖を呟く。


 世界が色を失ったように感じる。

 カイルはエルザたちから視線を外し、森の先。

 まだ濡れた木々が立ち並ぶ奥へと視線を向けた。



 ◆◆◆


《シシリー:死亡》


 ◆◆◆



 カイルの目に知っている名前が入った。



「あっ!?」



 エルザも、それに気付いた。

 慌てて倒れている魔法使いのもとへ駆け寄る。



「むむっ! これはいけません!」



 ロダンもすぐさま後を追い、走りながら詠唱を始めた。

 両手が淡く光を帯び、命を繋ごうとする魔法が生まれようとしていた。

 


「無駄だ……。」



 だが、カイルが止めた。



「もう手遅れだ」



 歩み寄れば、それが確かなものになった。


 空を見上げるその瞳は虚ろだった。

 濡れた髪が苦悶の表情に張り付き、右手にはまだ杖が握られている。


 裂傷は見当たらない。


 しかし、口元には血の痕が残り、大地には血と泥が混じっていた。



 ◆◆◆


《死因:ワイルドボアによる腹部への衝撃》

《死亡時刻:死後8時間13分経過》


 ◆◆◆



 カイルにとって、それは四日前にすでに知り得ていた結果だった。

 だが、死後間もない時間を知り、眉がわずかに跳ねる。



「……でも、変」

「何がです?」

「この女、私と同じ魔術師だよ?」

「まあ、見た目的に……。」

「魔術師が、こんな森に一人でいるなんて……。」



 四日前に知った通り、勇者たちのパーティは失敗に終わったのだろう。

 ただ、その時点で剣士と魔法使いの死亡は確定していたものの、勇者と幼馴染にはまだ生存の可能性が残されていた。


 もしかすると、その可能性を握っているのは、自分たちなのだろうか。

 そんな考えが頭をかすめるが、カイルは首を左右に振って否定した。



「近くに仲間がいるんだ! 助けに行こう!」

「しかし、闇雲に探しても……。」

「うん、それにもうすぐ夕方だよ?」



 しかし、エルザの言葉を聞くと、カイルの胸に、幼馴染への淡い未練がふと蘇った。



 ◆◆◆


《ラーナ:衰弱》

《居場所:現在地より北北東に3.8キロ》

《死亡まで:あと72分》


 ◆◆◆



 その未練に応えるかのように、カイルの能力が静かに反応した。

 幼馴染の位置が、まるで光の軌跡のようにカイルの視界に浮かび上がる。



「行くぞ、こっちだ」

「はい!」



 カイルは迷わず歩き出す。

 足取りは自然と速まり、少し早足で森の奥へと進んだ。




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