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見えすぎる者 ~死が見える俺は、嫌われて見送る~  作者: 浦賀やまみち


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第08話 崩壊




「グモフー……。」


 サイクロプスが、にたりと笑う。

 勇者は背筋に走る悪寒に、思わず腰を落とした。


 踏ん張る。

 来る、と直感が告げていた。



「……えっ!?」



 しかし、棍棒の圧力が、ふっと消えた。


 一瞬。

 ほんの、一瞬だけ。


 棍棒を必死に受け止めていた力が空を切り、勇者の腕が無防備に伸びきった。



「グモッフッ!」



 言葉は分からない。


 だが、理解などいらない。

 その声音と、歪んだ口元だけで十分だった。



「くそっ!?」



 横殴りの一撃が来る。


 そう確信し、勇者は腹筋に力を入れ、上半身を仰け反らせた。

 その勢いのまま、ぬかるんだ大地へ身を投げ出す。


 転がる。


 頭が下から上へと回る。

 視界が跳ね上がる。


 足で大地を蹴り、低い姿勢のまま突き上げようとした直後だった。



「グモッ!」



 サイクロプスが棍棒を投げた。

 巨大な矢と化したそれは、風を斬り裂き、轟音と共に勇者の頭上を通過する。



「ぐうっ!?」



 短い悲鳴が、豪雨の中に弾けた。

 神官の元へ駆けていた剣士の背に、棍棒が直撃する。


 背に受けた一撃の勢いのまま、身体が前方へと弾き飛ばされる。



「ぐぐぅっ……。」



 受け身も取れず、胸から木に叩きつけられる。

 重い衝撃が木を震わせ、葉に溜まっていた雨を一斉に叩き落とした。


 そのまま力なく、根元へと崩れ落ちる。



「なっ、なっ、なっ……。」



 勇者は茫然と目を見開き、言葉を失った。


 神官は口を開いたまま、声にならない息を漏らす。

 魔法使いは杖を握ったまま、微動だにしなかった。


 しかし、それは明らかな失策だった。


 神官も、魔法使いも、詠唱を必要とする後衛。

 それを途切れさせてしまった。



「グモッ! グモッ! グモッフッ!」



 大地が揺れる。

 勇者は慌てて顔を上げ、息を呑んだ。


 サイクロプスが笑っている。


 頭上で、ぱんと手を打ち鳴らす。

 さらに、左右に大きくステップを踏んだ。


 まるで踊るように。



「……な、舐めやがって!」



 勇者は悔しさに奥歯を噛む。


 この依頼は、冒険者ギルドが勧めてきたものだった。


 難易度は高いが、勇者たちなら問題ない。

 万に一つもないと、そう保証された。


 昨夜、森での夕食中。

 皆で何を買おうかと、他愛もない話に花を咲かせた。


 その場では、言えなかった。

 念願叶って恋人になった神官に、指輪を贈るつもりでいた。


 だが、その全ては、もう届かない。

 だから、勇者は選んだ。



「シシリー、逃げろ!」

「えっ!?」

「逃げて、助けを呼んでこい!」



 倒れたままの剣士は、まだ息がある。

 何度も立ち上がろうとしては、崩れ落ちていた。


 間に合う。


 残っているポーションと、神官の回復。

 それで、繋げる。



「で、でも……。」

「早く行け!」

「わ、分かった!」



 魔法使いに、決定打はない。


 強力な呪文には長い詠唱が要る。

 剣士が欠けた今、その時間は稼げない。


 むしろ、剣士を回復させた後、退く場面で、その体力の無さが足を引っ張る。



「ノルンは見捨てられない!

 ラーナ、もう少し付き合ってもらうぞ!」

「う、うん!」



 本当は、恋人の神官を逃がしたかった。

 それでも、全員が生き延びる可能性を残すなら、ここに留めるしかない。



「やってやる! やってやるぞ!」



 勇者は腰のポーチから小瓶を取り出す。

 歯でコルクを噛み抜き、紫の液体を一息に飲み干した。



「グモモ?」



 喉が焼ける。

 熱が、胸の奥で弾けた。


 全身に力が漲る。

 思考が、異様なほどに冴え渡る。


 高揚している。

 吐く息が、熱すぎた。



「はっはっ! 勝っても……。壊れちまいそうだな!」



 普段は両手で扱うバスターソード。

 しかし今、勇者は片手で軽々と振り上げた。


 その圧倒的な剛力に、雨粒が飛び散る。



「いくぜええええええええええっ!」



 勇者は咆哮と共にサイクロプスへ突撃した。




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