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第9話【月曜日2】終わらない輪廻

2周目突入


 鍋の熱気と5人の視線に当てられた昨夜の余韻が、心地よい倦怠感として体に残っていた。しかし、七瀬村の朝は、そんな感傷を許してはくれない。


「駆くーん! 月曜日だよー! さあ、一週間の『再起動』の時間だー!」


 バァァァーン!!

 一週間前と同じ、いや、より力強さを増した破壊音と共に、縁側の雨戸が吹き飛んだ。


「……またかよ、凛花」

 俺は布団の中で溜息をついた。


 デジャヴだ。だが、先週と決定的に違うのは、俺を迎えに来た凛花の装備だった。おんぶ紐はよりクッション性の高い「プロ仕様」にアップデートされ、彼女のジャージはさらに短く、動きやすさを追求したものになっている。


「おはよう駆くん! はい、一週間記念の『特製プロテイン・超回復スペシャル』だよ!」

 凛花は、まだ寝ぼけている俺の口に強引にシェイカーを押し込む。


「……んぐっ、苦い! 凛花、これ何が入って……」


「私の愛と、根性と、秋月さんが計算した必須アミノ酸20種類! さあ、今日も地面に足をつけさせないからね!」


(都会の月曜日は、死んだ魚のような目で満員電車に揺られる『絶望の始まり』だった。でもここでは、この暴力的なまでの活力に、無理やり「生」へと引きずり戻される。……不思議と、それが嫌じゃないんだ)


 凛花の背中に固定され、時速40キロの風を感じながら通学路を爆走する。


「……記録。……2回目で、おんぶされる姿勢が安定してきた先輩。……慣れ、最高」

 電柱のてっぺんで、紬が新しい超望遠レンズを光らせる。


 学校に着くと、そこには「管理体制」をさらに強化したヒロインたちが待ち構えていた。


「佐藤くん、おはよう。昨夜の鍋の摂取カロリーに基づいた、今週の『肉体改造スケジュール』を組んでおいたわ」

 秋月が、より薄くなった最新のタブレットを突きつける。


「今回からは、思考の癖だけでなく、瞬きの回数まで最適化してもらうわよ。あなたの全てを、私の数式で支配させて」


「おーっほっほっほ! 駆さん、黄金の別棟に『露天風呂』を増設しておきましたわ! 学校生活にさらなる潤いが必要ですもの!」

 麗奈が扇子を翻し、さらに豪華になった校内設備を自慢する。


「……駆。……影に縫い付けた呪いが……馴染んできた。……今週は……あなたの夢の中まで、私が迎えに行ってあげる……」

 零が俺の耳元で冷たい吐息を漏らし、新しい呪符を俺のポケットに忍び込ませる。



昼休み。


 俺の席を囲む「聖域」には、先週よりも多くの供え物(高級食材とプロテインと呪術的なお粥)が並んでいた。


「みんな、落ち着けって! 2週目だからって、気合入れすぎだろ!」


「当たり前でしょ? 私たちは10年待ったんだよ? 1週間やそこらで満足するわけないじゃない!」

 凛花が俺の腕を強く抱きしめ、他の4人もそれに続く。


(重い。愛も、物理的な体重も、執着も。……でも、都会の学校で透明人間だった俺にとって、この5人の重みこそが、俺がこの世界に存在している唯一の証明なんだ)


 放課後、松田先生の車に全員で乗り込み、また「格納庫」である先生の家へと向かう。


「ふふ、佐藤。2週目にして、ようやくこの村の『呼吸』が分かってきたみたいね」

 運転席の先生が、バックミラー越しに愛おしそうな視線を送ってくる。


「みんな、佐藤は逃げないわよ。……逃げられる場所なんて、もうどこにもないんだから」

 先生の言葉に、車内の5人が満足げに頷く。


 俺を真ん中にして、右から凛花の熱量、左から麗奈の香水、後ろから零と紬の気配、そして助手席の秋月の監視。


「……ああ。明日も、明後日も、こうなんだろうな」

俺は、もう抗うことをやめた。


 都会の孤独な自由より、この村の愛に満ちた監禁を。

 俺はそっと目を閉じ、5人の体温を感じながら、終わることのない「共有財産」としての2週目を受け入れた。




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