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第13話【金曜日2】魂の収穫祭


木曜日の黄金の輝きが嘘のように、金曜日の朝は「死の静寂」に包まれていた。


松田先生の家のリビングには、カーテンを突き抜ける光すら遮るほどの、濃密な「影」が立ち込めている。


金曜日担当:オカルト巫女

れい

今日の彼女は、いつもの巫女装束を脱ぎ捨て、透けるような薄い白絹の「死装束」を思わせる長襦袢姿。

腰まである漆黒の髪は、一筋の乱れもなく俺の足元まで伸び、影と一体化している。

その肌は月光を反射する大理石のように冷たく、三途の川の向こう側を見つめるような虚無的な瞳が、俺の「魂」をじっと捉えて離さない。


「……駆。……かねの汚れを、落とす時間……」


目を開けると、俺の四肢は「五色の霊糸」によってベッドの四隅に緩く繋がれていた。零は俺の胸元に馬乗りになり、冷たい指先で俺の額に呪印をなぞっている。


「零……お前、これ洒落になってないぞ。体が動かないんだけど」


「……大丈夫。……体は、ただの器。……私が欲しいのは、あなたの『内核コア』。……今日は、あなたの影に私の影を縫い付けた。……これであなたが都会へ行こうとしても、影が地面に張り付いて、一歩も動けなくなる……」


(物理的な拘束、知的な管理、金銭的な買収。それらを経験してなお、零の「霊的な執着」は芯から冷える。都会で『誰にも見られない俺は、本当に存在するのか?』と震えていた不安を、彼女は『永遠に私の呪いの中にいろ』という形で、残酷なまでに肯定してくるんだ)


登校中も、零の「儀式」は周囲を巻き込みながら加速した。


彼女が鈴(神楽鈴)を鳴らすたび、村の野良猫やカラスが一斉に俺の方を向き、敬礼するように静止する。


「零さん! 呪術で彼の代謝を下げないで! 2週目の金曜日は脂肪燃焼効率を高める日なのよ!」

凛花が横から飛び出し、呪いの糸を筋肉の力で引きちぎろうとする。


「ほら、駆くん! 私のプロテインを飲んで、霊的な寒気を吹き飛ばして!」


「おーっほっほっほ! 零さん、わたくしの用意した純金の魔除けプレートを彼の全ポケットに入れておきましたわ! 呪いなどという非科学的なもの、資本の輝きで相殺して差し上げますわ!」

麗奈が扇子を振ると、俺の制服のポケットが金塊の重みでズシリと沈んだ。


「……記録。……霊的な糸と金の重みで、歩き方が不自由な先輩。……拘束プレイ……S級」

紬が、今日は一段と短いショートパンツ姿で、俺の足元の「縫い付けられた影」をローアングルで激写する。



昼休み 黄金の別棟。


零は、俺の周囲に108本の蝋燭を立て、その中心に俺を座らせた。


「……秋月。……凛花。……麗奈。……紬。……あなたたちは……駆の『形』しか見てない……」

零が冷たく言い放つ。


「……私は……駆が死んだ後の……その先まで予約した。……今日は、契約えんゲージの刻印を……あなたのうなじに刻む……」


「刻印って何!? 痛いのは嫌だぞ!」


「……痛くない。……ただ……私以外の女が触れると、そこが氷のように冷たくなるだけ……」


「それ、日常生活に支障が出るレベルだろ!!」


秋月がタブレットの警告音と共に割って入る。


「零さん、その刻印は彼の神経系に悪影響を及ぼすわ! 私が開発した『アンチ・オカルト・チップ』を彼の項に貼り付けて、その呪いを中和させてもらうわね」


(今は、項の一点さえも、5人の女たちが奪い合い、管理し、呪い、愛でている。……狂ってる。でも、この『魂まで逃さない』という執念が、俺の空っぽだった存在を、この村に、この世界に、楔のように打ち込んでいく)




放課後



松田先生の車に全員で乗り込み、もはや「神殿」と化した先生の家へと帰る。


「佐藤、今日は一段と『魂』が磨かれたみたいね」

運転席の先生が、鏡越しに俺の項をじっと見つめる。


「先生……俺、もう自分が人間なのか、零さんの式神なのか分かりません……」


「ふふ、いいじゃない。式神になれば、私の家から一生出られないもの。私がマスターとして、たっぷり可愛がってあげる」

先生は車を止めると、俺の耳元で小さく、けれど抗えない重さで囁いた。


「……さあ、週末よ。明日の土曜日は、5人全員による『共有財産の強制メンテナンス・シーズン2』。


……先週よりも、もっと深く、あなたを解体してあげる」


窓の外では、零が俺の家の周囲に「死者すら入れない結界」を完成させ、紬がその霊的な明滅を特殊カメラで捉えていた。


都会の冷たい無関心。


村の、死後まで続く独占欲。


俺は、零が枕元に置いた「自分の髪を編み込んだお守り」を握りしめ、深い、深い眠りへと落ちていった。




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