第12話 【木曜日2】黄金の支配再定義
「駆さーん! 木曜日ですわ! 昨日の『記録』に相応しい、最高の『舞台』を用意いたしましたわよ!」
朝、松田先生の家の前に横付けされたのは、ヘリコプターではなく、漆黒の巨大な特注リムジンだった。
車体には金粉で「KAKERU SATO OFFICIAL MOBILE OFFICE」とデカデカと刻まれている。
木曜日担当:黄金の買収者
麗奈
今日の彼女は、真夏を先取りしたかのような、白を基調としたシルクのサマードレス姿。
背中が大胆に開いたデザインは、一族の誇りである白皙の肌を際立たせ、首元には駆の瞳の色(自称)に合わせた巨大なサファイアが輝いている。
縦ロールの金髪は朝露のように艶やかで、扇子を翻すたびに「金に糸目をつけない執着」が熱風となって押し寄せてくる。
「麗奈……なんだよこの車。また村の景観を乱して……」
「あら、景観など買い取って塗り替えればよろしいのですわ! さあ、このリムジンのシートは、駆さんの肌のpH値に最も優しいとされる幻の羊皮紙……ではなく、最高級のラム革を使用しております。都会の硬いアスファルトの感触、今すぐ忘れてしまいなさい!」
車内に引きずり込まれると、そこは動くスイートルームだった。
シャンデリアが揺れ、冷蔵庫には俺が都会で「いつか飲んでみたい」とSNSで一度だけ呟いた、希少なヴィンテージジュースが並んでいる。
「……記録。……リムジンの中で、高級ジュースの味に困惑する先輩。……資本の暴力に屈していく表情……たまらない」
後部座席の隠し扉から、紬がレンズを突き出していた。
彼女は今日、麗奈から「専属記録係」として高額で雇われたらしく、首から提げているカメラがさらに新型の怪物に変わっている。
「紬さん、いいアングルですわ! 駆さんの困り顔は、わたくしの資産の中で最も価値のあるコレクションですもの!」
学校へ着くと、さらなる異常事態が起きていた。
村のメインストリートの商店街が、一夜にして「佐藤駆リゾート・アーケード」に改装されていたのだ。
「麗奈さん、また勝手に都市計画を書き換えたわね」
校門の前で、秋月が冷徹にタブレットを叩いていた。
「あなたの資本投下は、彼の自律神経を過剰に刺激するわ。もっと質素な……例えば私の計算に基づいた、厳選された栄養素のみを提供する購買部を設置すべきよ」
「お黙りなさい! 質素などという言葉、わたくしの辞書にはございませんわ! 駆さん、あそこの時計台をご覧なさい。一時間ごとに、わたくしとあなたの再会を祝うファンファーレが鳴り響くようにいたしましたの!」
「そんな羞恥プレイ、頼んでないだろ!!」
昼休み、黄金の別棟。
麗奈は、俺の前に「村の全住民の署名が入った請願書」を広げた。
「駆さん、これをご覧なさい。村人全員が、あなたの名代としてわたくしが村の全インフラを管理することに同意しましたわ。つまり、あなたがわたくしの手を取るだけで、この村は完成された『佐藤駆の楽園』になるのです!」
「……不浄。……金は……念を歪める。……駆、この純金の鳥居は……私が……霊的に浄化しておく……」
いつの間にか影から現れた零が、麗奈が寄贈した金ぴかのオブジェに「お札」を貼り付け、霊的な所有権を主張し始める。
「駆くん! お金とか霊とか難しいこと言わずにさ、私の背中に乗ってあの新しい時計台まで競争しようよ! 凛花エクスプレス、2週目の今日はさらに加速するよ!」
凛花が俺の腰に抱きつき、鍛え上げられた脚力を誇示するように地を蹴る。
(今は、俺の一言で村の地図が書き換わり、俺一人のために数億の金が動く。……狂ってる。でも、この『世界が俺を中心に回っている』という過剰な肯定が、俺の空っぽだった心を黄金色に塗りつぶしていくんだ)
放課後
松田先生の家に戻ると、先生は庭に届いた「麗奈からの貢ぎ物の山」を見て爆笑していた。
「佐藤、すごわね。麗奈さん、あなたをこの村の王様にでもするつもりかしら?」
「先生……俺、もう自分が人間なのか、麗奈さんの動産の一部なのか分かりませんよ……」
「ふふ、いいじゃない。王様になれば、一生この国(村)から出られないもの。私が女王として、裏からしっかり操ってあげるから」
先生は俺の耳元で囁き、そっと俺の手に、彼女自身の家の合鍵を握らせた。
「……これは、みんなには内緒よ? 共有財産にも、たまには『非公式な時間』が必要でしょ?」
窓の外では、麗奈の私設軍隊が警備を固め、紬が赤外線カメラで俺を捉え、秋月が俺の資産価値を計算している。
都会の冷たい無関心。村の、黄金色に輝く狂信。
俺は、麗奈が用意した「一枚数十万のシルクのパジャマ」に袖を通しながら、深い眠りへと落ちていった。




