63. 出発前
※タイトル変更しました!
一週間後。晴れやかな日差しの中、私は馬車へ向かうため部屋を出た。今日は、南の結界石の浄化へ向かう日なのだ。
私はそっとハーフアップにした髪を結ぶリボンに触れ、口元を緩める。以前、ルーカスの瞳のようだと思っていた綺麗な翡翠色のリボン。王都に戻ってきた後、ルーカスがプレゼントしてくれたのだ。
『浄化も終わって元気になったら、今度は一緒に王都をデートしよう。ミズキに似合う服やドレスもたくさん買おうね』
なんなら店ごと買ってきそうな勢いに、私は必死でふるふる首を振ってルーカスを止めた。
結ばれたリボンに宝物のようにそっと触れる。このリボンだけでも、十分すぎるほど嬉しいプレゼントなのだ。これ以上なんて考えられないくらい、本当に本当に、嬉しかった。
使うのが勿体なくて部屋で大切に眺めていたのだけれど、今日はじめて髪に結んでみた。それだけで、なんだか胸が弾むような心地がした。
その時、後ろから今まさに思い浮かべていた人の声が聞こえてきた。
「おはよう、ミズキ」
「お、おはようございます、ルーカスさん」
振り返ると、いつからそこにいたのか笑顔のルーカスが立っていた。
私の髪に結ばれたリボンに、ルーカスはすぐに気が付く。
「それ、つけてくれたんだね。すごく良く似合ってるよ、ミズキ。うん、すごく可愛い」
これ以上ないほど嬉しそうに微笑まれ、するりと掬い上げた髪に口づけられる。ルーカスの甘い言葉と仕草に、弾んでいた心臓がどくどくと暴れ出し早鐘を打つ。
「る、ルーカスさんも、格好いいです……」
いつだって皆の視線を集める端正な容姿のルーカスには、きっと言われ慣れているであろう言葉を返す。
しかし――。
「……え……」
数秒の沈黙の後、ルーカスの動きがピシリと止まった。
「ルーカスさん……?」
どうしたのだろうかと顔を覗き込もうとすると、大きな手で視界を覆われてしまった。
「ま、待って。今、とんでもなくふやけた顔しちゃってると思うから、ちょっと待って」
手が外されたかと思ったら、ルーカスは目の前で顔を覆って座り込んでいた。その耳元が真っ赤になっていて、私は驚いたように目を見開いた。
「……ミズキは、俺のこと、格好いいって思ってくれてたんだ……」
「は、はい。もちろんです。……でも、ルーカスさんは他の人からもよく言われるんじゃないんですか?」
そう答えれば、ばっとルーカスの顔が上がって赤くなった表情が現れた。
「他の人に言われるのとミズキに言われるのとでは全然違うに決まってるでしょ!」
初めて目にするルーカスの照れたような表情に、つられるように私も頬が熱くなる。
「おーい、お二人さん、そろそろ行く時間だぞー」
外から響いてくるマイクの声に、私たちは顔を赤くしながら慌てて外に出た。
――この旅の先に待つものを、この時の私たちはまだ知る由もなかったのだ。




