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60. 隠れ家(1)


転移魔術でやってきたルーカスの隠れ家は、辺境伯領近くの森の中にぽっかりと空いた広い空間に佇むこじんまりした建物だった。

レンガ造りの壁には緑の蔦がはっていて、その枝先に咲いた小さなレモン色の小花が壁を彩りあたたかな印象を与えている。初めて来た場所なのに、まるでずっと前から知っているような、不思議な懐かしさを感じる場所だった。

家の裏手には、たくさんの植物が育てられている畑がある。


「これは……ほとんどが薬草ですか?」

「うん。瘴気のせいで絶滅した種をここに移植して育ててるんだ。家の中には、いろんな時代の貴重な資料とかも保管してる。だからここら一帯は俺以外の人が入れないように結界を張っているんだけど、ミズキはいつでも自由に出入りできるようにしてるからね」

「あ、ありがとうございます」


私を信頼してこの場所に入れてくれたのが嬉しくてお礼を言えば、ルーカスが優しく私の手を引いてくれる。


「家の中を案内するよ。物が多くてごちゃごちゃしてる部屋もあるけど、リビングとか台所は保存魔術で綺麗なままだから」


資料の保管場所と言っていたので、なんとなく倉庫のような場所をイメージしていたけれど、実際に目にしたルーカスの家の中は、あたたかな木の家具で統一された居心地の良さそうな空間だった。明るいリビングには、カーテン越しに穏やかな日差しが差し込んでいる。


「ここにある物は全部自由に使っていいからね。今、客室と風呂とかもぱっと掃除してきちゃうから」

「あの、私もお手伝いします」

「いいんだよ。ミズキ、今は薬で痛みを抑えているけど、まだミズキの体は完治できてはいないんだ。慣れない転移や探索で体は疲れてるはずだよ。だから今はゆっくり休んでて」


甘やかすような声音で言われて、私は素直にソファに腰を落とした。ルーカスの瞳から、心から心配している事が分かったから。


「……分かりました。ありがとうございます」

「うん、ちょっとだけ待っててね」


名残惜しむように、するりと頭を撫でてルーカスは部屋を出て行った。

私は頭に手をやって頬を染め、ソファにそっと寄りかかる。


ーールーカスは、過保護なほどに私の体調を気遣ってくれる。


(今までの体の痛みに比べたら、今の怠さは全然辛くはないのだけれど……)


疲れやすくなっている事には気が付いていたけれど、今までと比べれば全く問題ないものだ。それでも、真剣に私の体を心配してくれるルーカスの言葉には素直に従うようにしていた。ルーカスの瞳の奥に混じる真剣な色を見ていると、なんとなく、自分の病はルーカスにとっても治すのは大変なものなのかもしれないと思えたから。


(……それでも、今は全く怖くなんてない。ルーカスさんの側にいれる今が、本当に幸せだから)


私は両手をそっと胸に当て、頬を緩めて静かに目を閉じた。





魔術でさっと掃除を終えリビングに戻ったルーカスは、ソファで眠る瑞希を見つけた。

自分の家のソファで安心したように眠る瑞希の姿に、ルーカスは愛おしげに頬を緩める。窓から入る木漏れ日の中で眠る瑞希の姿は、まるで光に包まれているようだった。

起こさないようにそっと隣に座ったルーカスは、ガラス細工のように優しくその手をとって治療のための魔術を重ね掛けする。穏やかな眠りを、痛みなどが決して邪魔しないように。


(やっぱり、疲れていたんだな。……当然か。病気のせいで衰弱が進んでる。痛みを俺に移しているといっても、本来なら怠さで歩くのも辛いはずだ)


それでも、瑞希はなんでもないことのように自分で歩こうとするし、俺を手伝おうとしてくれる。今の体の怠さなど辛いとも思わないくらい、ずっと痛みや不調が常態化していたんだろう。


(こんな状態で、俺はずっと、無理をさせてきたのか……)


ギリっと、奥歯を噛み締める。


「絶対に、俺が治してみせるから」


ルーカスは手の中の小さな手を宝物のように包み込む。そして、その小さな手の甲にそっと口付けを落とした。


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