59. 古代遺跡(2)
その翌日。さらに奥の遺跡へ足を踏み入れた私たちの耳に、突如獣のうめき声が聞こえてきた。
「ミズキ、俺の後ろから離れないでね」
「は、はい」
守るように立つルーカスの広い背中からちらりと前方を見れば、そこにはまるで闇を纏った巨大な熊のような見た目の凶悪な魔獣が木の間から飛び出してきた所だった。
グアアアッ!と空気を震わすような鳴き声に肩を震わせる私に、ルーカスは安心させるように笑って「大丈夫だよ」と片手を振る。すると、その指先から炎の帯が放たれ、一瞬で魔獣を縛り上げた。魔獣を拘束する炎はその次の瞬間、魔獣の体を侵食するように凍り付きはじめる。
ものの数秒後、その場には氷の彫刻と化した魔獣が聳え立っていた。
「凄い……」
「ミズキ、怖くなかった?大丈夫?」
いとも簡単に魔獣を倒した後、ぱっと振り返りこちらの心配をしてきたルーカスに私は笑う。
「はい。ルーカスさんのお陰で、全然怖くなんてありませんでした」
「よかった」
心底ほっとしたようなルーカスは、再び私を抱き上げ歩き出す。
やがて、前方に真っ白な柱が並んだ趣の異なる神殿のような遺跡が見えてきた。こちらもやはり緑の苔に覆われており、中央の祭壇を飲み込むように大きな木が枝を伸ばしている。
「文字が残っている石碑は、たしかこっちの方に……」
そう言うルーカスに付いて奥の石碑へ行こうと祭壇を通り過ぎようとした時、私はチカリと何かが光ったような気がして足を止めた。
「どうしたの?祭壇が気になる?」
「あ、はい。見てみてもいいですか?」
そう言って木の根に飲み込まれた祭壇を覗き込む。かろうじて見える祭壇の側面には、二人の人物が描かれていた。
(両手を組んで祈っている人と……もう一人は、空から降り立っている?神様かな?)
よく見ようとその黒い大理石のような祭壇に触れた瞬間、触れた部分が小さく光を帯びたような気がして私は目を見開く。
「これ、もしかして結界石……?」
瘴気に侵された結界石を思い出し、私は導かれるようにそれに触れ光の魔力を流す。すると、カッと強い光があふれて祭壇が横に動きだした。そのせいで、祭壇を飲み込んでいた樹木がメリメリと音を立てて倒れてくる。
「!」
「ミズキ!」
驚きで動けなかった私を、ルーカスが素早く抱き上げ安全な場所まで下がる。静寂に支配されていた遺跡に、メリメリっと大きな音が響き渡る。
やがてズンッと巨木が倒れ込み、土煙が落ち着いた頃にやっと私たちは息を吐きだした。
「助けてくれてありがとうございます、ルーカスさん」
「そんなの当然だよ。それより、驚いたね。祭壇が結界石で出来ていたとは思わなかった」
結界石は、神が人間に与えた慈悲であり、自然に発掘されることは決してない非常に貴重なものだと聞いた。それを祭壇に使用していたという事は、ここは予想以上に重要な施設だったのかもしれない。
ルーカスに抱えられたまま動いた祭壇に近寄れば、その下に人一人は入れそうな空間があった。そこには、いくつもの木簡が保管されている。
「すごいな。古代帝国の資料で、こんなに保存状態の良い物なんて初めて見たよ。結界石による封印のお陰だね。まさかこんな風に結界石が利用されているとは」
ルーカスが、木簡を手に持ち感嘆の声をあげる。
「光の魔力は、この世界の人間には持ちえないものだ。神々を除けば、光の魔力を持つのは召喚された聖女のみ。ミズキが居なければ、発見することはできなかった」
「私、すぐに翻訳しますね!」
それなら、とても重要なことが記された資料のはずだ。空間転移についても書かれているのではと逸る心のままにそう言えば、ルーカスは私の頭にぽんと手をおいて微笑んだ。
「この木簡にあの魔導書に描かれていた空間転移の魔法陣に酷似したものが描かれている。ここに、確実に空間魔法の技術が記録されているはずだよ」
「本当ですか⁈良かった……!」
「あんまり長く瘴気の中に留まるのはミズキの体が心配だし、この資料を持ち出して一旦ここを離れようか」
「はい!」
ルーカスが視線を向けただけで、中の資料がふわりと浮かび上がってくる。それらを袋に詰め、私は再びルーカスに抱えられて、辺境伯領のルーカスの集めてきた多くの資料を保管しているという隠れ家へ転移することになった。
(どうか、この資料に歪みだけを転移させる方法が載っていますように……)
私はルーカスの腕の中で、ぎゅっと両手を握って神に祈ったのだった。
ここからラストスパート!完結まで毎日更新で頑張っていきたいと思います!!(おそらくあと8話くらいで完結できると思います)




