十一雪目
長くなりそうだから投稿しちゃいます。
「ぅ、ん………………!?」
朝日の光に意識が浮上し始めたら、何か重みを感じて目を開ければ、目の前に王太子が居た。
叫ぶことすら忘れて目を見張る。
まず、なぜ王太子が私の部屋で寝ているのか。
…………ああ、馬に蹴られて殺されかけたんだったな。
昨日の事件とも言える事態を思い出し嘆息を一つ。
それにしても王太子は、眠りが浅いと聞いたことがある気がするけど、気のせいだったのか、デマだったのか…。
「パリシア様。メリッサです。失礼致します」
「ッ!? ちょっ、まっ、メリッサ!」
侍女が主人を起こす時の入室時の形式上の挨拶に、焦って制止をかけようとするも、焦っている口からは意味のない音の羅列しか出ず、言葉に出来たのは名前だけだった。それは、逆に助けを求めたような印象になってしまう。
案の定、メリッサが驚いたように私の名前を呼んで、勢いよく部屋の扉を開けた。
侍女歴も長い優秀なメリッサだが、まだ若いせいか、時々冷静さを失う時がある。
「きゃぁぁああああ!! 誰か! カリメア! ミーティア! パリシア様が! パリシア様が不届き者に!!」
ああ、ほらね…。
甲高い声で叫ぶメリッサは、どうすればよいのか分からないんだろう。不安気にオロオロしている。
一方、メリッサ曰く『不届き者』の王太子は、メリッサの甲高い声に若干呻いた後、また穏やかな寝息をたて始めた。
王太子の眠りが浅い説は完全にガセネタだな。
そう言えば、王太子が私の部屋に居ることをどう説明しよう。下手打って次はスレルトに殺されかけるなんて冗談じゃない。
スレルト。君はそんな子じゃないとおばさん信じてるわ!
何て現実逃避をしながら考えていたが、いい加減説明し始めるべきだろう。
流石にメリッサが半泣きになってたしね。
「メリッサ。安心…は、して良いのか…? …まあ、これは不届き者じゃなくて王太子だから」
「何事だ!?」
昨日、私を殺しかけてるので若干言い淀んだが、王太子だと説明するとメリッサは顔を真っ青にした。
だけど、メリッサが何か言葉を発する前に部屋の扉を開けた人物が居た。
「側妃様! どうなさいました!?」
「ポーストン様」
「え…」
「誰が“側妃様”でしょうか? ここにいる女は、元貴族の既婚者とわたくしの侍女だけですよ?」
そう言って入ってきた男に微笑めば、男は顔を蒼白して小さく震え、目をさ迷わせて、言い淀みながら上擦った声で言葉を紡ぐ。
「え、いや、その……こ、ここは、若後宮ですし、その…、ここに住まう女性は側妃様と呼ぶ決まりが――」
「ありませんよね」
紡がれた聞くに絶えない言い訳に、最後まで聞くのを止めてポーストン様の言葉を遮る。
城勤めの侍女だった私には、そんな決まりがないことくらい知っている。
「パリシア様がお知りにならないのも無理はないでしょう。この決まりが決まったのは、パリシア様がお止めになった後ですし」
まだ、顔がうっすら青いがそれでも笑顔で嘘を吐く男。流石は次期宰相候補。
顔の血色がもう少しよくて、前の発言もこれくらいスラスラと言えていたならば、万一に騙されたかも知れない。
まあ、常識的に有り得ない訳だし、城勤めしている時は、もう少し優秀な男だった印象を持っていた事を配慮して、私への苦手意識でかなり動揺している可能性が高い。
「ポーストン様。確か使われていない後宮、特に若後宮は、盛大なパーティーを開いたときなどは客室として使われるはずでは? 客人として入った女性を未婚既婚、老若問わずに側妃と呼ばれるおつもりなんですね?」
「…ッ!」
疑問ではなく、確認の意味で聞き返せば、自分の掘った没穴に気付いたらしく、また顔を若干蒼白させている。
目が泳いでいるところを見るに、打開策を探しているのだろう。
勿論、打開策など渡す気は毛ほどもない。
鬼と呼ばれようが、鬼畜と呼ばれようが、こいつを打ち負かすのは、安全かつ確実に私の地位向上の役に立つのだ。
下手に地位が下がれば、それこそ私への周囲の認識が性奴隷となりかねないから大切なことで止められない。
「後宮は普通の客室より上等な部屋もありますから、中小国家の王族は、よく若後宮に泊まられると私は記憶しております。
中小国家とはいえ王族にそのような事を言えば、これ幸いと本当に側妃になさろうとする国や、国家の威厳をかけて許せないと戦争となる国もあるでしょう。
それはないと納得出来る理由を持って説明出来ますか?」
「ッ…!」
「ん…、………………アレックス? ……何か、用か…?」
ポーストン様を追い詰めているとタイミング悪く王太子が起きてきた。
「プ、プロイス様!?」
驚いた声音のポーストン様が王太子に顔を向ける。
若干、救いを求めている気がするのは被害妄想か?
「何故、側――ではなく! パリシア様のお部屋に居られるのですか!」
まあ、何か不穏な発言を仕掛けたが、まあ、言い直したから許してやろう。王太子の前だし、猫をかぶらないといけないしね。
さて、王太子はどう答えるかな?
「スレルトの。スレルトの話をしに来たんだ。
少々、白熱してしまって疲れて寝てしまったらしい。迷惑かけたな」
ええ本当に!
なんて口に出しませんよ。弁えますから。
「いいえ。わたくしの方も侍女が勘違いし、騒ぎを起こし申し訳ございません」
そう穏やかに微笑めば、三方から胡散臭げな視線を受ける。
だが、王太子。お前も人のこと言えないからな!
「はっ! 俺がここに居ては、スレルトが起きたとき一人になってしまう!」
突然何かを思い出したかと思うと、しょうもない事で素早くベッドから起き上がり、挨拶もなく走り去った。
残された私達の間に沈黙が流れる。
「…ポーストン様。お仕事に行かなくてよろしいのですか?」
「え……はっ! そうでした! では、失礼します!」
焦りの色を滲ませ、だが、きちんと礼を尽くして去ったポーストン様を見送り、まだ状況の呑み込めていないメリッサに向き合う。
「メリッサ。服の支度してくれる?」
「…へ? ……ああ!? は、はい!」
はあ、朝から騒々しいことこの上ない。これでまだ朝なんて…、夜まで体力、てか、気力が持つかな…。




