十雪目
久しぶりの投稿です(;¬_¬)
万一、待っていて下さった方がいたらお待たせしました(>д<)
拙い上に長いですが、楽しんで頂ければ幸いです!
「あー、ホントないわー」
ベッドに品なくうつ伏せで倒れ込めば、ベッドサイドに立つメリッサの苦笑いが見えた。
「パリシア様。最近、品に欠けていますよ」
「ホント! 最初はバリバリのお嬢様口調だったのにね」
「カリメアも砕けすぎです」
「そーゆーミーティアだって、最近崩れるじゃん」
「う゛――崩れない、メリッサを尊敬します」
「ってぇ~、私の話を聞いてよ~」
メリッサに普通に話を逸らされ、カリメアとミーティアによって完全にその流れにされかけるのを止める。
最近多いんだよね。話逸らされんの。
「だって、パリシア様の話って胸くそ悪いですもん」
「まーね、自覚はあるし、今日は一段と胸くそ悪いよー」
「生憎、胸くそ悪い話をわざわざ聞く趣味ありませ~ん」
「そんなこと言わないで、愚痴んないとアイツらに暴言吐きそうなんだからさ~」
「吐いちゃえばいいんですよー」
「私の首、飛ばす気ー?」
うつ伏せに寝転がったまま足をバタつかせて、ベッドサイドに座るカリメアを見上げて言い合う。
いつも最後まで抵抗するのがカリメアで、メリッサとミーティアは呆れモードだ。
「毎日毎日、よく飽きませんね」
「この空間だけがアシオスだからね。こんな会話も私の心を浄化する!」
―バコッ
最大限真面目なキメ顔したら、ミーティアにクッションで叩かれた。
「ぶっ」
―ベキッ
笑われたのが癪だったので、笑ったカリメアをミーティアが使ったクッションを投げといた。
何故クッションでこんな音がするかと言えば、ミーティアの魔術だ。クッションに“人に投げられた場合、痛そうな音をだす”という魔術がかけられているのだ。まあ、ぶっちゃけ魔術の無駄使いだよね。楽しいけど!
「何をしているのです…。パリシア様も愚痴はよろしいのですか?」
「あ…」
「あー! せっかく忘れさせてたのに!」
あっぶない! 忘れてたわ。カリメアに乗せられるなんてなんたる不覚!
「そう! 聞いてよ! スレルトってば、殿下に愛されてるか不安とか言い出すんだよ! 殿下の愛を確かめるために構われるとかいい迷惑じゃない!?」
「あの吐き気のするほどダダ甘なのに?」
ミーティアが無表情に近い顔の眉間に皺を寄せる。
「でしょ! 頭おかしいんじゃね!?って言いたくなるよね!」
「…また何で?」
不機嫌そうにカリメアが聞いてくる。
「殿下って死体愛好家でしょ? スレルトも仮死状態で惚れられたから生きてる自分の価値に悩んだみたい。でもねぇ~」
「そうでしたね。周りからすれば、王太子殿下が死体愛好家なのを忘れる程の愛されようなんですが、本人は分からないものなのですね」
無機質な声音のメリッサだが、拳を強く握っている。
「でっしょ~! 私もさ、完全に殿下が死体愛好家だって忘れてたし!」
これは単なる愚痴。そして単なる笑い話。それ以上もそれ以下もない。
「まるでおとぎ話です」
「いろんな事を乗り越え、王子様とお姫様は末永く幸せにくらしましたとさ、って定番だもんねー」
「現実は王子様もお姫様も男ですけど」
「ままならないよねぇ、生きるって」
あれ、何か重いよ、私!?
せっかく笑い話になりかけたのに!
「そうですね。ところで知っていますか? 今日の料理を教えて下さったシェフ。最近、彼氏が出来たそうですよ」
あー、メリッサの優しさが染み渡るーけど、メリッサ、話題間違えてるよー。カリメアの限界だよ。カリメアの顔が酷いから。
「男のくせに男と付き合うなんて馬鹿げてる! 神への冒涜じゃない! 嘘ばっか! 男なんか好きじゃないって言ったのに! どこの誰よ! 嘘つき! 泥棒猫!」
…………ん? 何かおかしくない?
「もしかして付き合っていたんですか?」
「ッ…! し、知らない! あんな奴!」
ミーティアの質問に、カリメアは泣きそうな顔をした。
「ごっ、ごめんなさい! わたくし、そんなつもりなかったの! 知らなくて…! ごめんなさい!」
カリメアが男同士の恋を嫌悪してるのは、私達の中では周知の事実。その上、話題に挙げた男が自分の彼氏であり、浮気など女でも裏切りなのに男相手なんて、男同士に拒絶心の薄い私には理解できない程のショックを受けたはずだ。
普段、けして口調を崩さないメリッサだけど、顔を青くして謝っている。
男同士の恋を嫌うカリメアを私達は男嫌いと勘違いしていた。
よく考えれば、恋愛大好きロマンチストのカリメアが恋に興味がないはずなんてあり得ないのに。
「……気にしないでって言えるほど大人じゃないけど、悪いと思うなら謝らないでよね! 虚しくなっちゃう…」
「あっ、ごッ――」
泣きそうな顔をムリに歪めて作った顔で笑うカリメア。つい、謝りかけたメリッサは、自分で自分の口を覆った。カリメアの握り締められた手から血が流れたのだ。
「今日はお開きにしよう!」
そう言って話を切り上げるのが私の出来る精一杯だった。
部屋を出るカリメア達を見て、明日どうしよう。とため息が漏れる。
「ギクシャクするよなぁ」
寝間着に着替えながらため息をもう一つ。
メリッサを半ば強制的に出したから一人で着替える。
まあ、貴族の寝間着も、一人で着替えるのも慣れたことなので不自由はないけどね!
つくづく貴族らしくないな、私。
「あー、寝よ寝よ。明日は明日の風が吹くってね」
柔らかいベッドに潜り込む。
寝付きが良く、野宿ですら熟睡して怒られる私には、こんな環境での睡眠は秒読みで夢の中である。
* * *
《――――》
《――――!》
《――――!!》
《――!――!》
《――――――!》
《――!――――!》
う~ん、さっきから、カサカサうるさいなぁ。
《――――!!》
《――――!!》
《――――!!》
《――――――――!》
《――――――!!》
《――!――――!》
《――――――!》
だー! もう! 人の安眠邪魔すんなよ!
「ッ――!? お、たいし……?」
まるで、羽が擦れあうような音に目を覚ませば、王太子がナイフを降り下ろす瞬間だった。私は反射的に、王太子に馬乗りになられている状態で体を捻り、ナイフを避け、ナイフはベッドに突き刺さる。
「――す」
「えっ?」
「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」
「あっ…――がッ!」
目がイカれてる!
王太子に首を締め付けられ、息すらままならない。
「スレルトは俺の妻だ。俺の最愛のスレルト。愛してる。愛してる。愛してる。愛してる。だから邪魔者殺す。殺す。殺す。殺す。スレルト。スレルト。スレルト。俺のスレルト。お前になんか渡さない。俺のスレルト渡さない。スレルトは俺のモノだ。髪も爪も心も全部。愛されたい。愛されたい。愛されたい。スレルトに愛されたい。だからスレルトの心盗むお前殺す!!」
すれ違いで私を殺そうとするな!! そう叫びたいのに息が出来ない。
苦しい!
「――――!」
死にたくない。
「お菓子作りしたんだろ! 随分楽しそうだったな! スレルトが笑って話してた! 俺の居ない空間の話なのに! ずるい! ずるい! ずるい!!」
男同士のすれ違いで殺されるなんて真っ平ごめんだ!
そんな理由で死にたくない!
「俺の方がスレルトを愛しいッ?!」
「げほっ、がっ、ごほっ、――はっ!!」
馬乗りになることで無警戒だった男の象徴を遠慮なく蹴りあげた。
おかげで首を締め付けていた手が緩み、空気が流れ込んで咳き込んだが、すぐにもう一発男の象徴を全力で蹴りあげる。
「こッ――」
乾いた音が部屋に響く。
私がもう一度首を締め付けようとした王太子の頬を平手打ちした音である。
「知らない! 好きにやってれば!? 私、スレルトなんか好きじゃないし! 夫達も子供も居るの! 勝手に連れてきて殺そうとするなんてあんまりでしょ!」
「そんなのスレルトの心を盗るお前が悪い!」
私の攻撃を警戒してだろう。ベッドの右によって、私の足を跨がないようにしている王太子だが、私の肩を押さえつける手が邪魔で逃げれない。
「はあ!? 意味わかんない! 百歩譲ってそうだとして、何で殺されなきゃいけないわけ!? 夫達の元に帰してくれればいいでしょ! 王都から村に行くには、馬車で1ヶ月はかかるんだから、王都暮らしのアンタらとは縁も切れるでしょ!!」
「距離が離れたって、スレルトの気持ちが離れるとは限らない!」
「でも、殺せば、逆に囚われるかもしれないでしょ!」
「心の弱ったスレルトを俺が救えばいい!」
「冗談! 救える確証があるわけ? 何より、大切な人を傷付けるなんて馬鹿じゃないの?!」
お互い一歩も引かない言い合いが続く。というか、私は命がかかってるんだ! 引けるわけない!
「救ったんだ!! 俺が救ったんだ! お前じゃない!」
また締め付けようとすり腕から必死に抵抗する。死にたくない!
「スレルトが死にそうだったとこを俺が救ったんだ! なのに何故お前が想われる! だから、もう一度救う! そうすればスレルトだってきっと俺を愛してくれる! 愛してくれる! 愛して! 愛して…! 愛して!!」
「あっ…」
捕まり締め付けられる首。息苦しさに涙が浮かぶ。
ああ、どうしてスレルトにしても王太子にしてもこんな時ばっかり弱くなるのさ!
顔を歪めて叫ぶ一つ歳上の男にそう言いたくなる。
「――何っ!?」
王太子の首に腕をまわして、息苦しさに弱まった力で精一杯、私に引き寄せる。
おかげで首の締め付けが弱まったのは、有り難い副産物だった。
「っは、けほっ…はぁっはぁ…。…………け?」
「…何?」
「だから、何がそんなに不安なわけ?」
急いで息を整え、王太子に問いかければ、まだ上手く話せなかったので、抱き寄せてるせいで顔が見えないが、王太子の不可解気な声音が感情を反映している気がした。
「お前には関係ない!」
「関係ないならあんな顔しないで! 放って置けないでしょ!」
「偽善者め!」
「うっさい! うじうじうじうじ、男ならシャキッとしなさいよ!」
「誰がうじうじなんかした!」
「アンタだよ!」
ああ、もう!
「何でもいいから言え!このバカ! スレルトは、アンタを愛してるさ!私をダシにアンタの愛を確認したいって思う程度にはね!」
あーあ、言うつもりなんて無かったのになぁ。わざわざ男共の架け橋なんてなるつもりなかったから、言うもんか!って思ってたのに。
くそっ! バカ王太子!
「はっ!?そんなわけ…! スレルトは嬉しそうにお前のことを!」
「あんたが喜んだんじゃないの? 好きな人が喜んでくれた。だから嬉しくてお菓子作りの時の話をしたんじゃないの?」
「そんな証拠どこにある!」
「あるわけないじゃん! 人の気持ちを証明する方法なんて、私知らないし!」
抱き締めた王太子の頭を撫でる。駄々をこねる子供をあやすように優しく穏やかなイメージで。このバカが少しでも人の気持ちに気付ける事を願って。
「だから、不安になるから言葉や態度で表すんじゃないの? ねぇ、何で愛されてないと思うの? 教えて、ね?」
不毛な言い合いに決着をつける意味も込めて、母親が泣く理由を教えてくれない我が子を諭すような口調で問う。
「……………………俺は、スレルトを愛してる」
「うん」
「……でも、男が好きだったわけじゃない」
「そう」
「……そうだ。別に男が好きな訳じゃなかった」
「うん」
「……だから、お母様もお父様も将来どんな女性を妻にするのだろうと言っていた」
「……」
「でも! 俺はスレルトを愛した!男を…愛した。 …きっとお父様もお母様も幻滅している!」
「そんな事ないよ」
王太子の心を裂くような悲痛な叫び。普段、飄々としているのが嘘みたいに泣きそうな声である。
だが、よく考えて欲しい。
王太子は元々、死体愛好家。死体に惚れ込んでいた人だ。
性別以前に生死を超えていた性癖を持つ息子を愛してた人達がそれくらいで動じるなんて思えない。
「男なのに男を愛すなんておかしいだろ!?」
「…きっと運命の相手か自分が性別間違えて生まれてきたんじゃないかな」
確かに一理ある。
前世の常識的に。
そう、あくまで前世の話な訳でして。
え?まさかの王太子、純粋栽培?
男同士なんて世界の暗黙の了解だよ? 普通、常識、公然の事実だよ?
確かに現王は王妃一筋だけど、男のハーレム作った王様も過去に居たんだけど要らん情報で習ってない?
「……それに、別にアンタが思うほど気にしちゃいないよ。王様も王妃様もスレルトだって、城勤めの人達も国民だって気にしない」
「でも!俺がスレルトと居ると皆、良い顔しない。『深入りするな』と言う奴まで居るんだぞ! 歓迎されてる訳がない! なのに惜しくて居心地が悪いだろうに、スレルトを手放す事すらしてやれない!」
きっとこれが王太子の心に突き刺さっていた事実なのだろう。
だから、一つ一つ丁寧に説明する。
「良い顔しないのは、イチャつき過ぎて見ている方が恥ずかしくなって居たたまれないからで、もう少し慎まれればそんな事も言われないでしょうね」
「慎む…」
「『深入りするな』と言われるのは、スレルトに惚れ込むあまり、職務が疎かになることを危惧してのことで、今まで通り職務を全うされると確信すれば言われなくなりますよ」
「職務の全う…」
「それに、まだぎこちなさはあるけど、スレルトはちゃんと王太子のパートナーとして認められている。ぎこちないのだってまだ慣れていないだけで、嫌悪じゃない」
「でも…、ぎこちなければ戻りたくなるんじゃない…」
不安気に言葉を繰り返していた王太子が、主張したと思えば、やっぱり、うち向きな内容で、呆れそうになる。
「はぁ。…あのね、いい。愛してる人と一緒に居れるって、とってもとっても幸せなことなの。
情熱的な愛なんて分からないけど、『一緒に居たい』って思うものじゃないの? それに、そのための努力や我慢は苦じゃないと思う。逆に、『離れる』なんて選択、苦じゃなかったはずの今までを苦痛に変えるだけなんだからやめたげな。スレルトの今までを否定したい訳じゃないでしょ?」
「そう、か…?」
「そうだよ。実体験だし」
キョトンとした顔で首を傾げる王太子は幼く感じられ、ひとつとはいえ、私より年上には見えなかった。
「私は勉強も稽古事も大嫌いなの」
「は? …でもお前は知識も豊富で、作法も完璧だって聞いてるけど…」
「そりゃね、夫達が剣術と魔術を見はめられて、城に召し上げられたから努力したし」
不可解に顔を歪めながらも、興味深げな王太子についつい話を進めてしまう。
「恋愛か友愛かも分からなかったけど、どうしても離れたくなくて、少しでも近くにいたくて、だから外に出て遊び回るのをやめて、大嫌いな勉強と稽古事を頑張ったの。
貴族令嬢の私が城勤めするなら侍女しかない。だから頑張ったし、大嫌いなことも夫達の少しでも近くに居るためなら頑張れた。その努力を努力の支えにしてきた夫達に否定されるなんてこの上ない苦痛だし、考えたくもない」
「……」
「きっとスレルトもそうだよ。頑張ってるならなおのこと努力の支えのアンタに否定されたくないんじゃない?」
「そう、か。…慎むを持ち、役目を果たし、俺がスレルトを支えるべきなのか」
「理解が早くて助かるよ」
最後は結論まで言ってないのに結論を導いてくれて助かる。
実は、最後は感情を入れすぎて、最終的に自分が何が言いたいか分からなくなってたんだよね。
「ふぅ…今日は、何か疲れたな」
「そう?」
満足気な声音に少し安心する。
だが、殺されかけた私の方が疲れたからな。
「ああ。誰かに相談するっていいな。心の荷が軽くなった気がする。…………ありがとう、パリシア……」
…ん?
何か重くなった気がして、王太子を見てみれば案の定眠っていた。
赤ちゃんだって長時間だっこした後に眠られれば腕に来るものがあるのに、大人の男にそれなりの時間寄りかかられて、多少は体重が掛からないように配慮してくれていたのに、眠られてそれが無くなれば、はっきり言って寄りかかるというか、下敷きにされているって言った方があっている。
「お゛、おもい…!! っはぁ、はぁ…」
息苦しいので、色々試して何とか抜け出せた。
寝ている相手に不毛だと思いつつも、小言のひとつでも吐き捨てようとして言い淀む。
「はぁ…」
代わりにため息を1つ吐く。
悩みが解決したせいか、穏やかな顔で眠っている相手に流石に毒は吐けない。
にしても、今日は色々ありすぎでしょ…。スレルトの衝撃(?)の告白にお菓子作り、カリメアの彼氏の浮気の発覚、王太子の殺人未遂ってさ、一日で1ヶ月分の濃さだよなぁ。
「ふぁあ…」
そういや王太子に睡眠妨害されたんだった。
ねっむ…。今日は本当に疲れたなぁ。さっさと寝よっと。




