第14話 捨てられた実は、宝石より価値がある
徴税官が予定より二日も早く戻ってきた。
その知らせは、村全体に冷たい水を浴びせたようだった。
「まだ税なんて払えない……」
「約束が違うじゃないか……」
広場では不安の声があふれている。
けれどリディアは違う場所を見ていた。
森。
赤い実。
あの景色が頭から離れない。
「セドリック様。」
「なんだ。」
「その実が、いつ採れるか知っていますか。」
「今だ。」
「え?」
「だから誰も採らない。」
リディアは思わず笑った。
「最高です。」
「……何がだ?」
「宝は、いつも誰も見向きもしない場所にあります。」
森へ向かう途中。
ノアが木の枝を払いながら歩く。
「先生、本当に食べられるの?」
「そのままでは酸っぱいでしょうね。」
「じゃあ何するの?」
「変身させるの。」
「料理?」
「いいえ。」
リディアは首を振った。
「商品。」
森の奥には、小さな赤い実が鈴なりになっていた。
陽の光を浴びて宝石のように輝いている。
「こんなに……。」
セドリックも驚く。
「毎年腐っていた。」
「もったいない。」
リディアは一粒口へ入れる。
「すっぱ!」
ノアが顔をしかめる。
「先生、大丈夫?」
「ええ。」
酸っぱい。
渋い。
でも。
香りが良い。
そして。
《食養眼》が優しく光る。
実の周囲に、淡い金色。
「やっぱり。」
屋敷へ戻ると、リディアは台所へ走った。
「マルタさん、お酢はありますか?」
「少しだけね。」
「蜂蜜は?」
「高いよ?」
「砂糖でも。」
「少しなら。」
木鍋へ赤い実を入れる。
潰す。
香りが立つ。
そこへ少量の蜂蜜。
さらに酢。
「先生、それ料理じゃないよ?」
「まだね。」
リディアは木匙をゆっくり混ぜる。
「時間が料理してくれる。」
マルタが首を傾げる。
「何ができるんだい?」
「果実酢です。」
「……酢?」
「はい。」
「酸っぱい実を、もっと酸っぱくするの?」
ノアまで笑い出した。
リディアも笑う。
「そう思いますよね。」
でも。
王宮では知っていた。
果実酢は
肉料理。
魚料理。
保存。
飲み物。
全部に使える。
しかも。
王侯貴族は
珍しい香りの酢を
高値で買う。
「でも先生。」
ノアが小瓶を見つめる。
「できるまで何日?」
リディアの笑顔が止まる。
そうだった。
普通なら。
一週間。
二週間。
もっと。
時間がかかる。
徴税官は。
明日。
「……。」
誰も言葉を発しない。
静かな厨房。
ぐつぐつと鍋だけが音を立てている。
リディアは小さく息を吐いた。
「時間が足りない。」
その瞬間。
コンコン。
厨房の扉が叩かれた。
兵士だった。
「領主様!」
息を切らしている。
「徴税官ではありません!」
全員が振り向く。
「王都から商人が来ています!」
リディアは目を見開いた。
「商人……?」
「はい。」
兵士は続ける。
「『ルーデンで珍しい料理人がいると聞いた』と言っています。」
セドリックとリディアが顔を見合わせる。
まだ。
料理は売っていない。
まだ。
何も成功していない。
なのに。
王都の商人が。
どうして。
ルーデンを知っているのだろう。




