カムバックの前日に
いよいよ新曲の発売日が明日へと迫ってきた。この日、俺たちは皇居前広場にて無料ライブを行う事になっている。およそ4年ぶりのライブだ。このためにたくさん練習してきたけれど、一方で数日後から始まるコンサートツアーの練習も並行して行って来たので、多少混乱していて不安もあった。
前日の夜、あまり電気を点けずに闇夜に紛れてリハーサルを行う事になった。何しろ野外ステージで、遠くからも見えるように囲われていない。リハーサルを一般人に見られたくはないし、リハーサルを行っている事がバレると大勢のファンが詰めかける可能性もある。だから、ひっそりと行う事になったのだ。
「うう、寒い!」
「思ったより寒いな。」
そして暗い。音も出さず、自分たちのイヤモニから聞こえる音だけで踊り、導線を確認していく。
「もうちょっと広がった方がいいかな。」
なんと、赤外線カメラを使って自分たちのパフォーマンスを客席から撮影し、その映像を確認しながらリハーサルを進めていた。
「はい、もう一回行こう。」
マサト兄さんがそう言って、俺たちはまたポジションにつく。そしてイヤモニから音楽が流れ、電源が切られたマイクに向かって歌い、ダンスをした。すると、
「うわっ!」
何か叫び声が聞こえた。
「え、何?どうしたの?」
誰が叫んだ?
「タケル?タケルどこだ?……おい、タケル、大丈夫か?」
シン兄さんがそう言って、俺の横を通り過ぎた。そして、ステージ端に駆け寄った。
「タケル兄さん、どうかしたの?」
カズキ兄さんの声が聞こえた。すると、
「大変だ、タケルがステージから落ちた!おい、立てるか?」
「うっ、ダメです。足が……。」
俺たちも、そしてスタッフもシン兄さんとタケル兄さんの声がする方へと駆け寄った。ステージはあまり高い所ではないが、それでも落ちるつもりなく落ちたら、かなりの衝撃があっただろう。
タケル兄さんはスタッフ二人に両脇から抱えられ、病院へ向かった。
「大丈夫かな……。いや、大丈夫じゃないよな。」
ユウキ兄さんが言った。
「ダンスなんてできないでしょうね……。」
マサト兄さんが呆然と言った。
「やっと、7人が揃ってステージに立てるのに……4年ぶりにファンの皆さんの前に出て、かっこいい姿を見せるはずだったのに……」
テツヤが震える声で呟いた。
「一番つらいのはタケルなんだ。とにかく早く治してもらおう。コンサートでは準備したダンスが出来るようになるよ、きっと。」
シン兄さんが言った。
翌日、右足首を包帯でぐるぐる巻きにしたタケル兄さんが、俺たちの前に現れた。右足首の捻挫だそうだ。
「ごめん、みんな……。」
松葉づえをつき、上目遣いでメンバーを見るタケル兄さん。一瞬、シーンとなった。みんな言葉が見つからないのだ。タケル兄さんは人一倍頑張ってダンスの練習をしていた。それなのに、こんな……。
「謝るな。お前が悪いわけじゃない。」
シン兄さんが言った。
「そうだよ。とにかく、出来るだけの事をすればいいって。」
マサト兄さんも言った。
「うん。」
タケル兄さんが返事をした。俺も何か言おうと思ったが、良い言葉が見つからない。するとテツヤが、
「俺たちのステージはこれから始まるんです。最後じゃないんだから、まだ先がたくさんあるんだから、大丈夫ですよ、タケル兄さん。」
と、にこやかな顔で言った。なんて、可愛いんだ!いや、そうじゃなくて、なんて優しいんだ。タケル兄さんもつられて笑顔になった。メンバーみんなも、つられて笑う。
「そうそう、出来るだけの事をやればいい。」
ユウキ兄さんも笑って言った。
「それじゃ、早速新しいフォーメーションを考えますか!」
カズキ兄さんも元気よく言った。そうか……これから新しいフォーメーションを覚えなくちゃいけないのか。今夜の本番までに。
「いざとなったら、俺がタケル兄さんを担いで運びますよ。」
他に思いつかず、そう言ったら、
「あははは、ありがとな、レイジ。」
タケル兄さんが笑ってくれた。
ふと、疑問が浮かんだのでシン兄さんを捕まえて聞いてみた。
「シン兄さん、昨日タケル兄さんが怪我をした時、真っ暗だったじゃないですか。なのに、どうしてタケル兄さんだって分かったんですか?」
すると、シン兄さんはいとも簡単に答えた。
「そりゃ、声で分かったんだよ。」
「え、あの叫び声だけで?」
俺には全く分からなかったが。するとシン兄さんは、
「お前だって、テツヤが叫んだらすぐ分かるだろ?」
と言う。
「そりゃあ……え?そういう事?!」
シン兄さんはタケル兄さんの事が好きって事?それとも、二人は恋人同士って事?
いやいや、それを言ったら自分たちもそうだと公言する事になる。これ以上追及したら藪蛇だ。
「そういう事って何だよ、レイジ。ん?」
シン兄さんが意味ありげにニヤニヤする。
「あ、いや、別に。」
どうして俺が焦ってるんだ?だが、シン兄さんはさっきのセリフを、確信を持って言ったようだ。やっぱり特別な間柄という事なのだな。そっかあ。タケル兄さん、良かったなあ。タケル兄さんが一途に想い続けているのは感づいていたけれど、報われたんだなあ。




